第24話─猛牛VS孔雀

「とぅりゃああああああ!!」


「うぼっふ!?」


「キルト、このオカマはアタシが抑える! あんたはそっちのクソガキに逆襲してやりなさい!」


「失礼ね、あたしは乙女よォォォォォォ!!!」


 四人が睨み合うなか、真っ先に動いたのはエヴァだった。ネヴァルに体当たりを繰り出し、彼を抱えて広場から離脱する。


 前回の戦いではティバは全力を出しておらず、ネヴァルもいなかった。そのため、二対二で真っ向から戦うのは危険と判断したのだ。


「ありがとう、エヴァちゃん先輩!」


「涙ぐましいな、だが……一対一なら勝てるとでも思ったか? また恐怖の沼に沈めてやるよ。覚悟しろキルト!」


 そんなエヴァの気遣いを、ティバはムダな行為だとあざ笑う。そうしてデッキホルダーから取り出したのは、『テラーコマンド』のカードだ。


 初手で切り札を使い、反撃させることなくキルトを仕留めるつもりなのだ。だが……一度使われた手を、キルトが甘んじて受けることはない。


「こいつを食らいな、キルト!」


『テラーコマンド』


「二度目はないよ、ティバ!」


『サポートコマンド』


 ティバの動きに合わせ、キルトはすかさず先ほど手に入れたサポートカードをスロットインする。ティバが雄叫びをあげんと、息を吸い込んだその時。


 カードに封印されたジャイアントバットが出現し、けたたましい鳴き声と共に超音波を放った。


「グルァァァァァ!!」


「キェァァァァァァァァ!!!」


「!? ば、バカな! テラーハウルが打ち消されただと!?」


『おお、凄いぞ! やったなキルト、これでもう奴は真正面から戦うことしか出来ん!』


「ふふ、どうだ参ったか! キャンセルノイズで打ち消してやったもんね! べーっだ!」


 速攻で仕留めるつもりだったティバは、まさかの展開に動揺してしまう。仮契約を行った時点で、どのようなサポート効果があるかをキルトは理解出来る。


 そのため、早速ジャイアントバットに役立ってもらったのだ。効果を発揮し終え、コウモリは溶けるように消えていく。


「チッ、ならてめぇを実力でねじ伏せるだけだ! 八つ裂きにしてやる!」


「テラーコマンドさえ封じればこっちものだよ! お前なんて返り討ちだ!」


『クローコマンド』


『ソードコマンド』


 キルトを再起不能にしてからの短期決着を狙っていたティバは、作戦を潰され憤る。お互い得物を呼び出し、同時に突進していった。



◇──────────────────◇



「ちょっと、どこまで連れてくつもりよ!? いい加減離しなさいよォ!」


「っさいわね、オカマは大人しくアタシにキャリーされてりゃいいのよ!」


 その頃、エヴァはネヴァルを抱えて全力疾走していた。廃鉱山から離れ、鉱石加工場の跡地へと飛び込んでいく。


 急ブレーキをかけつつ、エヴァはネヴァルをおもいっきりブン投げる。そのまま廃屋に叩き付けようとするも、そう簡単にはいかない。


「もう、手荒な方ね。あたし、もっと丁寧に扱ってほしいワ!」


「へえ、空中で体勢整えるなんてやるわね。この前戦った馬女よりは楽しめるかも」


「あら、同族嫌いのあなたに褒めてもらえるなんて光栄ねェ。グラキシオス王のご息女、エヴァンジェリンさん?」


「……そこまでリサーチ済みってわけ。なら、自分がどういう死に方するかは想像出来るわね?」


「うふふ、あたしは死なないわよォ? 乙女はしぶといの、簡単に倒せると思わないでちょうだい!」


『ウィップコマンド』


 空中で一回転し、華麗に着地したネヴァル。丸まった鞭が描かれたカードを取り出し、サモンギアにスロットインする。


 すると、彼の手元にピンク色の鞭が現れる。パシィンと地を打った後、エヴァ目がけて攻撃を行う。


「その綺麗な顔を真っ赤に腫らしてあげるわ! ピーコックラッシュ!」


「ハッ、やれるもんならやってみなさいよ。代わりにあんたの【ピー】を引きちぎってやるわ!」


『アックスコマンド』


 鞭による一撃をサイドステップでかわし、エヴァもサモンカードを読み込ませる。大斧を召喚し、盾代わりにしながら接近していく。


「ぶった斬ってやるわ! ミノスクラッシュ!」


「あーら、危ない危ない。懐に潜り込もうったってそうはいかないわよ? あたし、自分の長所と短所はよーく分かってるもの!」


 斧を振り下ろし、ネヴァルを両断しようとするエヴァ。しかし、相手はセラーのような戦いのド素人ではない。


 ボルジェイやゾーリンの忠実な部下として、理術研究院の実働部隊を担う手練れなのだ。ひらりと攻撃を回避し、自身の攻撃の射程内で、かつ相手の攻撃範囲外という絶妙な位置へ逃れる。


「おっほほほほ! さあ、今度はあたしの番よ! 次こそその顔に一撃食らわしてあげるわァ! ピーコックラッシュ!」


「おっと! チッ、面倒な奴ね……。キルトの様子も気になるし、ここは手早く仕留めたいところだけど……簡単にはいかないわね、アタシの勘がそう告げてる」


 勢いよく攻撃を繰り出したため、斧は深々と地面に食い込んでしまっている。引き抜く前に攻撃が飛んできたため、エヴァは躊躇なく得物を手放す。


 鞭の直撃により、斧は砕け散ってしまう。だが、エヴァにはまだ武器がある。一つも問題なく、戦闘を続けられるが……。


(こっちの使えるカードは、サポート含めて四枚。でも、あいつが持ってる残り三枚のカードの内容が分からないから迂闊に使えないのよね。搦め手タイプのカードを持ってる可能性もあるし……なら!)


 相手の手の内が明らかになるまでは、カードのムダ使いは禁物。そう判断したエヴァは、大きく後ろに跳躍する。


 ネヴァルが首を傾げるなか、エヴァは近くにあった岩にパンチを繰り出して粉砕する。そして、手頃な大きさになった無数の岩片を投げ付けた。


「オラオラオラオラオラァ! こんだけ距離を離せば、そっちの鞭なんて届かないわよ!」


「ちょっと、嘘でしょ!? あんたサモンモスターなんでしょ、サモンカード使いなさいよ!」


 シンプルイズベスト。遠距離からの投石攻撃を繰り出し、エヴァは相手が二枚目のカードを使わざるを得ない状況を作り出す。


(アルティメットコマンドは、最悪撃ち合いで相殺すればいい。それよりも重要なのは、残り二枚のカード……さあ、使ってきなさい!)


「もう、嫌んなっちゃう。彼女、あたしにカードを切らせるつもりね。さすが、暗域で『暴虐の知将』と呼ばれてるだけあるわ。なら、お望み通り使ってあげる!」


 一方的に攻撃されているネヴァルは、鞭で石を打ち落としつつ相手の狙いを看破する。普通に接近してもいいのだが、彼は敵の誘いに乗ることにした。


 攻撃を防ぎつつ、空いている手でデッキホルダーからカードを引き抜く。取り出したのは、煌めく孔雀の羽根が描かれたカードだ。


『ダーツコマンド』


「! 来た、これがあのオカマ鳥の二枚目のカードね!」


「あー、またあたしのことオカマって言ったわね! 失礼しちゃうワ、あたしはちゃんとした乙女なのよ! けどネ!」


 そう叫びつつ、ネヴァルはカードをスロットインする。すると、彼が身に着けているマントが左右に裂けて翼のように大きく広がった。


 マントを羽ばたかせて飛翔し、抜け落ちた羽根をダーツの如くエヴァに向かって連射する。投石攻撃への趣向返しだ。


「次はあたしの番よ。この羽根でデコレーションしてあげるわ!」


「だったら全部避けてやるわ! アタシの機動力を舐めんじゃないわよ!」


『アクセルコマンド』


 エヴァも二枚目のカードを使い、機動力を強化する。猛スピードで滑走し、降り注ぐ羽根の雨をスイスイと避けていく。


 かつて鉱石の加工を行っていた廃屋へと向かい、地面を蹴る。さらに壁を蹴ることで、三角跳びの要領で空へ舞った。


「うっそ、ここまで届くの!?」


「獲った! 食らいなさい、ミノスムーンサルト!」


「なんの! ビューティフルフェザー・ウォール!」


 そのままネヴァルに肉薄し、必殺の回し蹴りを放つエヴァ。が、ネヴァルは負けじとマントをひるがえし攻撃を受け止める。


 意外と弾力と厚みのあるマントに衝撃を吸収され、十分なダメージを与えられなかった。が、勢いまでは殺しきれずネヴァルは地に落ちる。


「あいった! もう、サイアク~。カワイイ衣装が汚れちゃったわ。おまけに、鞭まで時間切れで消えちゃうし」


「踏んだり蹴ったり、ってやつね。さ、まだまだお楽しみはこれからよ。残り二枚のカードでアタシを倒せるか……見させてもらうわ」


 着地したエヴァは、ローラーを回転させながらニヤリと笑う。猛牛と孔雀、勝つのは果たして……。

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