第12話─新しい仲間
それから数分後、ようやくケンカが終わった。結果は、双方互角のため決着がつかず引き分け。ルビィもエヴァも、ズタズタのボロボロだ。
「はあ、はあ……なかなかやるではないか、この妖怪年増ツインテールめ。我にここまで食らい付ける者がいるとはな」
「そっちこそ……ぜぇぜぇ……やるじゃないの。ただのトカゲかと思ってたけど……ふう、アタシと互角な奴なんて初めてよ」
決着はつかなかったが、これ以上キルトやジョンを困らせるわけにはいかない。第二ラウンドは後日ということで、今回はこれにてケンカは終わりだ。
エヴァがオークたちを駆除した以上、いつまでも森にいる必要はない。魔法石を使ってキャンプにいる隊長に報告をし、戻ろうとするが……?
「あ、ちょい待ち。洞窟の奥に一頭だけ生きてるのを閉じ込めてるのよ。……欲しいでしょ? 仮契約用のモンスターが」
「え!? なんてエヴァちゃん先輩がそのことを……まさか、その牛は」
「そうよ。理術研究院からパクったサモンギアで本契約したの。ほら、デッキもあるのよ」
驚くキルト相手に、エヴァは自信満々に胸の谷間からデッキホルダーを取り出す。予想外の事態に、キルトは口をあんぐり開けてしまう。
「ふわぁ、エヴァちゃん先輩もサモンマスターになってたなんて……大丈夫? 一度本契約したら……」
「マスターとモンスター、双方の合意による契約終了以外の方法で契約破棄したら両方死ぬ、でしょ。知ってるわ、それを覚悟の上でやったの。キルトの力になるためにね」
「先輩……覚えてくれてたんだ、あの約束」
「当たり前でしょ? まあ……だいぶ遅くなっちゃったけどさ。……なんて、感傷に浸るのは後でね。今オーク運んでくるから、ちょっと待ってて」
そう言うと、エヴァはデッキを胸の谷間にしまい、肉を焼くのに使っていたたき火の後始末をして洞窟に入る。その間に、ルビィはキルトに問う。
「なあ、キルトよ。一つ聞きたいのだが……あの者とどんな約束をしたのだ? 差し支えなければ、我に教えてもらえないか」
「あ、俺も聞きたい! あんな美女とどんな約束したんだ? まさか、婚約!?」
「いや、なんでそうなるの……。でも、当たらずとも遠からずってところかなぁ。……結構長くなるから、ミューゼンに戻ってからでいい? 先輩も交えて話したいし」
「まあ、構わん。しかし、エヴァンジェリン……闇の眷属か。フン、あんなのにキルトは渡さんぞ」
とりあえず、今は本隊との合流と街への帰還が最優先。ただでさえ、彼らを待たせているのに個人的な話で合流を遅らせるわけにはいかない。
ルビィがエヴァへの対抗意識を燃やす中、そのエヴァ本人が戻ってきた。……血まみれになった、フルボッコ状態のオークを引きずって。
「お待たせー。さ、バシッと仮契約しちゃって! アタシのサモンギア、劣化コピーだから出来ないのよ、仮契約。だから、キルトがやってるとこ視たいのよね」
「え、そうなの? ……まあ、ブラックボックス解析出来ない状態で再現したらそうなるか。とりあえず、仮契約済ませちゃうね。ブランクカード、ソウルスキャン! オークを封印し、契約せよ!」
「ブモ……モァァァァ!?!!?」
とりあえず、モンスターが生きてさえいれば仮契約は出来る。例え手足がもげていようが、目が潰れていようが……封印すれば五体満足に戻るのだ。
無事ブランクカードにオークを封印し、当初の予定を達成したキルト。ルビィやジョン、エヴァを連れて急ぎキャンプに帰る。
「さ、行くわよブルちゃん。悪いけど、しばらくカードに戻ってて。また後で出してあげるから」
「んもー」
いつまでも外に出していると魔力の消耗がバカにならないため、エヴァはキルモートブルをカードの中に戻す。
急ぎ本隊と合流し、ミューゼンへと帰還していく。その途中、エヴァは騎士団のメンバーに質問攻めに合うことに。
「あの、エヴァンジェリンさんは何の目的でこの大地に……?」
「そりゃあもちろん、キルトに会うためよ。別にやましい目的なんてないから安心して」
「キルトくんとはどこで知り合ったんですかぁ? 私、気になります!」
「んー、じゃあ教えてあげる。アタシとキルトはね、同じ学園の先輩と後輩なのよ!」
メソ=トルキアはこれまで、ほとんど闇の眷属からの侵略を受けたことがない。それゆえに、かの種族への忌避感がなくすんなり受け入れられた。
「……むぅ」
「どうしたの、ルビィお姉ちゃん。なんだかさっきからムッとしてるけど」
「キルトよ。そなたは我とあの女、どっちの方が好きなのだ?」
「? 僕はどっちも大好きだよ? 優劣なんてつけられないくらいに」
馬車に揺られながらエヴァを観察していたルビィは、おもむろに隣にいるキルトへ質問する。が、キルトはルビィの意図が理解出来ていないようだ。
首を傾げながら答えるキルトを見て、ルビィはやれやれと苦笑する。彼にはまだ、恋愛は早すぎるらしいと考えたのだ。
「いや、ならいい。どうも、悩むだけムダだったようだ。少なくとも、今はまだ」
「?????」
「ふふ、分からぬならそれでもよい。キルトよ、今のうちに宣言しておくぞ。必ずこの我が! キルトにとっての『一番』になってみせるからな」
「へ? うん、分かった!」
エヴァへの対抗心を燃やしつつ、そう宣言するルビィ。これまたその意味を分かっていないキルトは、満面の笑みを浮かべ頷いた。
と、そこに歩兵たちと一緒にいたエヴァが潜り込んできた。あんまり質問されるため、嫌気が差しで逃げてきたのだという。
「あんなに質問されたら、流石にかなわないわよ。やれやれ、ちょっと元気すぎるわね」
「お疲れ様、エヴァちゃん先輩」
「……ふむ、ちょうどいい。ジョンはいないが、今なら時間がある。聞かせてもらおうか、お前がキルトと交わした約束とやらを」
「知りたいの? ま、別に隠すようなもんじゃないしいいけど。でも、そのためには……まずアタシとキルトの出会いから話さないとね」
街に着くまでは、まだ時間がある。そこで、今のうちにキルトとエヴァの過去を聞くことにしたルビィ。そんな彼女に、エヴァは学園時代の話を始めた。
「今から六年前、アタシが学園にいた頃……まあ今もそうなんだけど、一人で退屈してたのよね」
「そうそう、あの頃のエヴァちゃん先輩と僕は、出会うまでお互いひとりぼっちだったんだ」
「何故だ? エヴァはともかく、キルトには友はいなかったのか?」
「おいコラ、何よその含みのある言い方は」
ケンカを売られたと感じたエヴァが凄むも、ルビィはそっぽを向いて追求をかわす。気を取り直して、続きを語るエヴァ。
「キルトは大地の民だから、闇の眷属に馴染めなかったのよ」
「うん。だから、ずっと一人で勉強したり本を読んでたんだけど……やっぱり寂しくて。それでね、誰かにちょっかい出して遊んでもらおうとしたんだ」
「で、そのターゲットに選ばれたのがアタシってわけ。あの時はびっくりしたわよ、裏庭で昼寝してたらいきなり顔面にカエルぶつけられたんだもの」
「ぷふっ。なんだ、意外とキルトもやんちゃなところがあるのだな。なかなか可愛いじゃないか」
その時の様子を想像し、ルビィは思わず吹き出してしまう。いたずらした張本人たるキルトも、当時のことはよく覚えているようだ。
「だってー、それくらいしか思いつかなかったんだもん。……なんでもよかったんだよ、あの時は。どんな感情でもいいから、誰かに向き合ってほしかったんだ」
「キルト……そんなに、寂しい思いをしていたのだな」
よくよく考えてみれば、キルトはたった二歳という幼さで親元から引き離され学園に入れられたのだ。その心細さは、想像も容易い。
さっきまでの笑みを引っ込め、ルビィはキルトを抱き締めようとする……が、先に動いたエヴァに取られてしまった。
「ぐぬぬ、貴様……!」
「ふーんだ、トロいのが悪いのよ。で、当時アタシはびっくりしたわけよ。まさかちょっかいかけてくる奴がいるなんて思わなかったもの」
「みんなから避けられてたもんね、エヴァちゃん先輩。だから、僕に構ってくれたんだよね?」
「そうよ、だってお父様とお母様以外じゃ初めてだったんだもの。アタシに媚びへつらわずに、真っ直ぐ正直な気持ちをぶつけてくれたのは」
そう言うと、エヴァはどこか寂しげな表情を浮かべる。こちらはこちらで、何か事情があるらしい。それも問うべきか、ルビィが迷っていると……。
「知りたいって顔してるわね。教えてあげるわ、アタシはね……闇の眷属の頂点に立つ十三人の覇者、魔戒王の一角……『鍛冶王』グラキシオスの娘なのよ」
素っ気ない様子で、エヴァがそう答えた。
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