第11話─オーク狩りに行こう!
ルビィとのデートを楽しんだ、次の日。キルトは騎士団のお手伝いをするため、彼らと共に街の北東にある森に来ていた。
いつまでも居候しているのは申し訳ないからと、キルトが自らオーク討伐の手伝いを申し出たのだ。もっとも、仮契約するのも目的の一つだが。
「さあ、着きましたよキルトさん。今日はこの森で、オークを二十体くらい狩りましょう。繁殖し過ぎて、街道を通る旅人や冒険者から駆除依頼が来てますから」
「はい、頑張ります! ……あれ? でもこれくらいの仕事なら、冒険者ギルドに任せればいいのではないですか?」
「あー、ミューゼンにはギルドがないんだよ。あの金の亡者ども、利権ばっかり要求するから閣下に追い出されたんだ」
キャンプの設営を手伝いながら、キルトは以前伝令役をしていた騎士、ジョンに疑問をぶつける。すると、そんな答えが帰ってきた。
シュルムが治めるパルゴ領があるのは、キルトがフェルシュたちと旅をしていたレマール王国の北に位置する国、デルトア帝国だ。
帝国は皇帝や貴族の所有する騎士団の練度が高く、もともと冒険者ギルドの必要性自体がかなり薄いとのことだった。
「ふむ、そんな事情があったのか。しかし、欲にまみれた者は人であれ竜であれ醜いものだな」
「ええ、そりゃもう酷いもんでしたよギルドがあった頃は。素行の悪い冒険者たちが、連日トラブルを起こしてばかりで……」
「大変だったんですね、ジョンさんも」
「ジョンでいいよ、俺はまだ下っ端だからそんな丁寧に話しかけてくれなくていいぜ? なんだかこそばゆくなるから。その代わり、俺もタメ口でいいか? 苦手なんだ、敬語は」
ジョンと親交を深めつつ、キャンプの設営を終えたキルトとルビィ。これから、三人ずつグループを組んでローテーションでオークの討伐を行うと隊長から指令が飛ぶ。
「三十分ごとに、各班に渡した連絡用魔法石にて定時連絡を行う。まずはグループAの三班がオークを狩りに向かい、B班はキャンプ周辺の哨戒をする。その間、C班は休憩してていい」
「なるほど。三十分ごとに班の役割を入れ替えていくんだね。A班が戻ったらB班がオークの討伐に行って、C班が哨戒をする、と」
「うむ、その通り。みなもキルト殿を見習えよ、あの飲み込みと理解の速さをな。特に新入りども!」
「はーい!」
「はーいではない、イエッサーと言え!」
「イエッサー!」
隊長のイジりを受け、新米の騎士たちはやる気満々に頷く。キルトとルビィ、ジョンの三人はA班の所属だ。
残る二グループと共に、キルトたちはオークを探しに森の奥へと向かう。人の手が入っていない森は、先に進むにつれ鬱蒼とした木々が生えている。
「気を付けよ、キルト。オークは最下級のモンスターだが、そこそこ知恵が回る。原始的な罠を用意しているやもしれん、警戒を怠るな」
「うん、分かった! さてさて、いつ会えるかなー。早く残り四枚のブランクカード、全部埋めたいよ」
キルトの持つデッキは、十枚一組。その内訳は、
残る五枚は、仮契約によって生成される使い捨てのサポートカードだ。以前仮契約したワイバーンの分を除けば、あと四枚は自由に使える。
「聞けば聞くほど不思議だよねぇ、そのサモンギアってのは。一体どういう仕組みなんだい?」
「確かに、我も気になるな」
「んー、説明してもいいけど……専門用語満載の講義を二時間くらい聞く根性があるな」
「わりぃ、やっぱやめるわ。そういうの聞いてると寝るタイプなんだ、俺」
サモンギアの仕組みに興味があったジョンだが、キルトの言葉に速攻で降参した。そんな他愛もないことをしつつ、森を歩いていると……。
「む、この匂い……キルト、近いぞ。おそらく、オークどもの巣がこの辺りにある。だが……」
「だが……どうしたの?」
「変だな。オークどもの脂ぎった嫌な匂いとは別に、血と炭の匂いがするぞ」
ルビィがオークの匂いを感じ取り、キルトに警告を発する。が、すぐに怪訝そうな表情を浮かべた。
「もしかして、オークが料理してるのかな?」
「いや、この血の匂いはオークのソレだ。霊峰にいた頃、嫌というほど嗅いだから間違えようがない」
「ってことはさ。まさかとは思うけど、誰かが先にオークの巣に乗り込んで連中を血祭りにあげたんじゃないか? で、オークを料理してるとか」
「いやぁ、どうだろう……でも、ルビィお姉ちゃんが嘘を言うわけないし。ちょっと急いで行って、確認しよう」
ジョンの言葉を受け、キルトは巣の様子を見に行こうと提言する。念のため、他の二グループ及びキャンプにいる仲間に報告をしてから先に向かう。
「こっちだ、キルト。大分近付いた、いつでも戦えるよう準備をしておけ」
「うん! さて、一体どうなって……え!? う、うっそぉ……なんで? なんであの人がここにいるの?」
森の奥にある、オークの住み家と思われる洞窟の側までやって来たキルトたち。木の幹に隠れ、そっと様子を窺ったその時。
あり得ない光景を見て、キルトは仰天してしまう。彼が見たもの、それは……。
「ふー、やっぱ疲れた時は肉食うのが一番ね! これで酒でもあれば、最高のキャンプ体験なんだけど……まあ、贅沢は言ってられないわよねー」
「んもー」
「……闇の眷属、か? まさか、あいつがオークたちを倒したのか?」
洞窟前の広場で、オークの串焼きを食べている闇の眷属……エヴァンジェリンだった。流石に一日ではミューゼンに着かなかったようで、この森で一夜を明かしたらしい。
「ん? どうした、キルト。まさか、奴を知っているのか?」
「間違いない、あの自分の年齢をまるで考えてないツインテール……エヴァちゃん先輩だ! おーい、エヴァちゃんせんぱーい!」
「あ、待てキルト! ……先輩? 一体どういうことだ?」
寝そべっているキルモートブルに背中を預け、のんびりしているエヴァンジェリンの元に駆け寄っていくキルト。
ルビィはジョンにここにいろと言い残し、慌てて後を追って木陰から飛び出していく。一方のエヴァンジェリンも、すぐキルトに気付いた。
「あらっ!? うっそ、こんなところで出会っちゃうわけ!? 何そのラッキー、やっぱ日頃の行いがい」
「せーんぱーい!」
「おぐふっ! ひ、久しぶりに強烈なのをお見舞いしてくれたわね……キルト」
立ち上がろうとしたエヴァンジェリンの元に、全力ダイブを敢行するキルト。満面の笑みを浮かべる彼を見て、ルビィの中に嫉妬の炎が燃え上がる。
(むうぅ……キルトの奴め、あんなにはしゃぎおって! あの女、一体何者だ? あそこまでキルトが懐いているということは……もしや、学園時代の関係者か?)
「ひっさしぶ……ん? キルト、なぁにあの女は。もしかして、ガールフレンド……ってヤツなわけ?」
「あ、そうだ。お互いに紹介するね。エヴァちゃん先輩、あそこにいるのは」
「我はルビィ。キルトと本契約を結びし、
キルトの言葉を遮り、自ら名乗り出つつ主を奪い返すルビィ。もう盗られまいと、胸の谷間にキルトの頭を埋め強く抱き締める。
それを見て、エヴァンジェリンの方も対抗意識を燃やしてきた。即座に立ち上がってキルトを奪い取り、自分の豊満な胸に埋める。
「ふぅーん、そうなの。アタシはエヴァンジェリン・コートライネン。魔道学園時代のキルトの先輩にして、
「むぅぅぅぅ……!」
「ふしゃぁぁぁ……!」
「むぐ、うぐうっ! く、くるし……」
二人の女は、凄まじい眼力で相手を睨め付ける。静かながらも熱い女の戦いを見ていたジョンは、冷や汗をだらだら流す。
「す、すげぇ。強さも一流なら、女からのモテっぷりも一流なんだな。俺も見習い……いや、強さだけ見習っとくか……」
二人の美女に奪い奪われ、その度に谷間に挟まれては窒息しかけるキルトを見てジョンはそう呟く。何はともあれ、こうしてキルトはエヴァと出会ったのだった。
◇──────────────────◇
「へー、それじゃオークはエヴァちゃん先輩が全部狩っちゃったんだ?」
「そうよ。一晩中飲まず食わずで移動してたからお腹空いちゃって。あ、まだ串焼きあるけど食べる?」
その後、どうにか修羅場を収めたキルト。洞窟の中にいたオークたちは、すでにエヴァが全滅させていたようだ。
「む、美味そうだな。一本もら……あいたっ!」
「きったない手を出さないでくれる? メストカゲ。あんたにあげるもんじゃないの、キルトにあげるやつなんだからね」
「ぐぬぬ、この妖怪年増ツインテールめ! 誰がメストカゲだ、この無礼者!」
「はー!? 誰が年増ですって!? こちとらまだピッチピチの二百歳なんですけどー!?」
「うひゃっ! さ、流石にリアルファイトは止められないよー!」
一度は収まった修羅場が、再びやって来た。取っ組み合いのケンカを始めた二人から、キルトはこっそりと離れていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます