デートといえばホラー映画

「早く来すぎた……」


 駅前にある犬の像の前。

 約束の十五分前に俺はそこにいた。朝もいつも以上に早く起きちゃったし。

 ちなみにデート場所は学園から離れた場所にした。俺も志乃さんもこの辺よく知らないけど、生徒にバレたくないからね。

 

「大丈夫かな、デートとか初めてだし」

 

 昨日、ネット友達から勧められた通りに服を買ったけど変じゃないだろうか。

 志乃さん綺麗だから、隣にいて相応しい存在ではいたいけど……


「お、おまたせ……」


 ヒールの歩く音と共に聞こえた志乃さんの声。

 待ちに待った彼女がいると思われる方向に、俺は振り向く。


「どうかしら……」

「……」


 ……綺麗だ。

 普段は後ろでまとめている髪をおろし、綺麗な長い黒髪があらわに。

 服装は白いふんわりとしたセーターに黒いロングタイトスカートを履いている。

 いつも以上に大人で、だけど落ち着いた志乃さんの印象を崩していない。

 

「とても、似合っています……」

「……ありがとう」


 俯きながら照れる志乃さんは、どこか嬉しそうだった。


「さて、行きま……」 

「まって……」

「?」

「手……」

「あっ……」


 そうだ、今日はデート。

 恋人らしい事もいっぱい出来る。

 だから手を繋ぐことだって……


「これで……」

「うん……」


 お互いの手を握る。

 志乃さんの手は温かく柔らかかった。


「……いきましょうか」

「……えぇ」


 お互い照れてしまい、目的地まで無言になってしまう。

 何か話題を振らなきゃ、とずっと考えていたがそれどころではない。大好きな人と手を繋いた緊張と恥ずかしさの前では、余裕なんて出来なかった。



「つ、付きました」


 俺たちが来たのは映画館。

 デートではベタな場所ではないだろうか。


「ここね……えと、目的の映画は」

「予約していたんですか?」

「当然よ。いい席で見たいもの」


 流石志乃さん。細かい所までしっかりしている。だけど志乃さんの選んだ映画……


「ホラー好きなんですか?」

「? あまり見たことはないわね?」

「……大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。アラサーにもなって、怖がるなんて事ないから」


 全く怖がっている様子はない。

 大人になるとある程度肝が座るということなのか、流石だ。

 ちなみに俺は平気。ア〇プラとかでたまーに見るし。これは見終わった後、無難な感想会になりそうだなー


 なんて思っていたのだが


『オマエのウシロダァァァァ!!』

「あ、ああぁ……ひぐうぅ……」


 滅茶苦茶怖がってるじゃないですか。  

 声こそ周りの迷惑にならないよう押し殺しているが、涙をボロボロ流している。

 というか今までで一番泣いてない?


『オマエを呪って!! 切り刻んで!! 地獄へ送ってやるウウウウウ!!』 

『いやああああああ!! あ、足があああああ!!』


 うおぉ、結構グロいな。

 ホラーとはいえゴア表現にもかなり気合を入れているようだ。


「ひぐっ、やだ……やだぁ……」  

 

 そして一方の志乃さんは、首をぶんぶん横に降ってる。もうやめてくれと言わんばかりにすげぇ拒否してる。


「ゆ、優馬くん……優馬くん?」 

「え、はい」

「いる? いるわよね?」 

「いますよ、手だってずっと繋いでます」


 なんなら映画館に向かう時より強く握ってます。というか握られてる。


「は、離さないでね……」

「離しませんよ」


 涙を流しながら怖がる志乃さんもかわいい。

 普段はクールで感情の起伏が少ないけど、こうして知らない一面が知れるのは嬉しい。


『う、腕がない……ないよぉ……』

「あっ……はぁ、はあっ……」


 過呼吸になってない?

 泣きすぎて呼吸が激しくなったからか……少し心配だな。

 映画の内容も段々激しくなってきたし、このままだと……あ

 

『やだ、私は……あ』

「あっ……」


 襲われていた女子高生の首が飛んだと同時に、 志乃さんの意識も飛んだ。


「えっ!? し、志乃さん?」


 虚ろな目で動かない志乃さん。

 揺すってもビクともしない。


 ……他の観客の迷惑になるし、このままにしておこう。終わってから起こせばいい。

 力の抜けた手を握りながら、俺は残りのシーンを堪能した。  


 ちなみに映画は微妙だった。グロ描写ばかりでホラー感がない。ゾンビ映画を見ているようだ。

 次のデートでは、もう少しハートフルなものを見たいかな。

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