甘えさせて?

「実は私、昔から暗くて……」

「ほうほう?」

「天海さんのように明るければ、優馬くんも元気になるのかなぁ、と」

「あーなるほど」


 昔からそう。一緒にいてつまんない、なんて同級生に言われていた。優馬くんと出会ってからは多少明るくなったが、それでも少し。

 私も彼を明るくさせたい。

 彼にはもっと笑顔になってほしいから。


「別に、そのままでいいと思いますよ?」

「え?」


 と、思っていたのに。天海さんは首を傾げながら否定した。


「アタシもうるさいくらい元気ですけど、一緒にいると落ち着けない、なんて言われますし」

「はぁ……」

「気になるのはわかります。だけど優馬は、篠宮先生といると落ち着けるんじゃないですか?」

「あ……」


 そういえばそうだ。

 私といる時の優馬くんは凄くリラックスしていた。学園のストレスから解放されて、素直で色んな表情を見せてくれる。


「明るくするのも大事ですけど、落ち着くのも大事。アタシ達二人で案外バランス取れてますね」

「ふふっ、そうですね」


 私という存在にもちゃんと意味はあったんだ。

 

「変にきどらないで、そのままでいきましょう! まぁ、アタシがそうしてるだけですが……」

「いいと思います。天海さんと話している時の優馬くん、凄く楽しそうですから」

「あはは。では、お互いいい所があるって事で」

「はい」


 お互い顔を向け笑いながら、私達は病室へと再び入った。



「おまたせー優馬」

「おまたせしたわね」

「あ、あぁ……」


 少し経った後、二人が帰ってきた。

 ……妙に仲良くなってないか?

 まあ仲良しなのはいい事だが。


「それでさ、今後はどうなるのかね?」

「例の動画はトレンド入りしてるしマスコミが押し寄せるだろうな……学園の評判も地に落ちる」


 恐らく陽太達は特定され現実でも誹謗中傷の毎日を送るだろう。ネットに晒されたんだ、就職にも相当影響する。まあ成績は終わらせたし、どの道まともな人生は送れないだろう。


「今まで朝日家の支援で成り上がってきたから、経営も傾きそうね」

「? 俺たち生徒から授業料とかいっぱい貰ってるのでは?」

「上の教員達が稼いだお金を夜遊び等に使ってるのよ……」 

「えぇ……」


 ほんとに中身まで腐り切ってた。

 管理とかもずさんなんだろうなぁ。

 卒業までは大丈夫だろうけど、近いうちに廃校しそうだ。


「何故か私も誘われたけど……本当に気持ち悪かったから断ったのよ」

「うわ、それ絶対ノリでセクハラしてくる奴ですよ。さいってい!!」 

「まぁ、そのせいで教員達から避けられるようになったのだけど……今更関係ないわ」


 そういえば他の先生方と仲良く話している姿を見た事がない。大人の社会って怖いね。


「まあまあ、難しい事は後で考えるとして……ゆ・う・ま♡」

「な、なに……?」

「えー? 久しぶりに帰ってきたんだからさぁ……甘えさせて♡」

「え?」

「天海さん……!?」


俺の手を握りながら自らの頬へ近づける莉緒さん。猫なで声で物凄く女を出している。


「いや、俺怪我してるから何も出来ないぞ?」

「いいのいいの。何もしなくていいからさ……アタシが好きにやる♡」

「え、一体何を、え……?」

「昔からこうなんです……」


 このような行為は今に始まったことでは無い。

 俺を引き取ってから莉緒さんは物凄く甘えたし俺自身も甘やかされた。

 初めは撫でたり一緒に寝たりする程度だった。 なのに、いつの間にかハニートラップを仕掛けたり風呂へ突撃する程にエスカレートしたのだ。 正直、そういうのは色々芽生えた中学生で卒業したかったのに……


「ほら、優馬ってクールな目付きだけど、どこか可愛らしいじゃないですか? そんな優馬が昔から大好きで大好きで……」

「それは、わかりますけど……」

「ほら、アタシの胸に手が触れただけで……」

「「!?」」


 俺の手がぐいっと引き寄せられ豊満な胸元に触れる。


「あ、天海さん!!」

「ふふ、顔が赤くなってるでしょ? こんなに長くいるのにアタシを女性として見てる所がさぁ♡」


 そりゃあナイスバディのお姉さんですから多少は、意識もしますよ……

 ちなみに俺はほぼ無言。

 平常心を保つのに必死だった。


「……優馬くん」

「は、はい……!?」

「おおー……大胆」


 少し怒ったような表情で、志乃さんは俺を優しく抱きしめた。


「私の方が愛しているわよ……」


 志乃さんからしたら他の女性に鼻を伸ばしているように見えたのだろう。

 そんな嫉妬している姿も可愛い。

 恥ずかしがり屋だが、時々大胆な一面もある志乃さんが俺は好きだ。

 

 以上、病室でちょっとしたハーレムになっている俺でした。



 

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