人生終了のお知らせ

side:陽キャ


「何をしている……」


 検察庁と書かれたビルの前で、親父に会った。


「つい、かっとなって」

「ふざけるな……!!」


 親父に思い切り殴られる。

 

「やめてください!! ここでそういったことは困りますよ!!」

「くっ……陽太、お前は自分が何をしたのかわかっているのか!?」


 刑事らしき人物に抑えられる親父。

 ほんと変わらねぇな。


「あぁ……クソ陰キャを投げ飛ばしただけだ」

「このバカ息子が……!! 慰謝料が一体どれほどになるかわかるか!?」


 何に怒り狂っているんだ?

 あぁ、自分の顔に泥が塗られたからか。

 よく知らねぇけど、俺はネットで晒されて炎上してるらしい。


『アタシ、何にも悪くないのに!! はなしてよぉ!!』

『成績終わってるのに逮捕……もういやだぁ』

『何でこんな目にあうんだよ!? なぁ!? なぁ!!』


 周りの取り巻きも、人生が終わったかのような絶望した顔で気力を無くしていた。

 マジで面白れぇ。


「なぁ、親父。俺を早く解放しろよ」

「……?」

「やってくれよ、いつもの金の力で。親父も困るだろ、俺がこんなところに閉じ込められたらさ」


 俺には金がある。あいつらにはない金がたんまりある。

 どれだけバカやっても、どれだけ悪い事をしても。

 金さえあればなんでももみ消せる。

 

「会社を潰したくないんだろ? 大好きな地位が無くなるんだろ? だから早くしてくれよ」


 親父は俺より会社が大好きだ。

 俺の悪事が広まれば、親族である親父の会社は大変なことになる。

 だから親父は嫌でも俺の悪事をもみ消そうとする。


 そうせざるを得ないから。

 俺を罵倒し殴っても、俺をかばわなければいけないのだ。

 そんな親父の姿が俺は滑稽で好きだ。


 だから、今回もそうしてくれよ親父。


「何を言っている」

「は?」

「お前も私も、もう終わりだ」

「え……」


 冗談キツイぜ。

 お金は最強なんだろ?

 全部解決できるんだろ?

 

「犯罪を金でもみ消せるほど、人生は甘くないという事だ」

「え、ど、どういうことだよ……なぁ」

「いい加減現実を見ろ!!」


 ドン!! と周りに響くほどの足音を出す。


「試験の酷すぎる結果!! クラスメイトに対する犯罪行為!! お前の行動は私の想像を超えておる!!」

「……」

「……お前の退学が決まった」

「え?」

「この現状だ。高校に入れることなどできん。勿論、働き先もお前の経歴を見て採用しようとは思えんがな……」

「な、なんで……じゃあ俺は」

「言っただろう? お前の人生は終わりだと」


 なんだよそれ。

 俺の描いたシナリオと違うじゃんかよ。

 

「お、おやじは……息子だろ? なぁ」

「私は今回の件で社長を降りることにした」

「はぁ?」

「仕方ないだろう……まぁ、被害者への慰謝料を差し引いても、今までの稼ぎで私と妻の生活はなんとかなる筈だ」


 私と妻?

 おい待てよ。大事な存在を一つ忘れてるぜ?


「え、お、おれは……」

「貴様は、もう私の息子ではない」

「っ!?」

「お前のようなクズを、私のそばには置けん」


 嘘だろ……?

 学校は退学。

 雇い先はないし、親父からも捨てられる。

 

 俺は、俺はこの先どうやって生きていけばいいんだよ!?


「まてよ……俺を見捨てるなよ、なぁ!?」

「出ていけ、もう私の前に姿を現すな」

「なぁ、まてっておい!!」


 そう言い残すと、親父は車へ乗り込みどこかへ去っていった。


「嘘だろ……」


 残されたのは俺を検察庁に入れようとするヤツのみ。

 誰もいない。

 俺を助けてくれる金も、人も。

 ここにはいない。


 あるのは、俺がしてきたことをあらわにする奴らだけ。


「いやだ……」


 自ら置かれた状況を実感し恐怖する。


「いやだぁ!! 俺は恵まれてるんだ!! 選ばれた人間なんだ!!」


 もう取り返しがつかないと今になってわかる。

 今まであったものが全て奪われた。

 そんなの、認められるわけがない。

 

 だから取り戻そうとあがく、叫ぶ、願う


 だが


「おれを、自由にしろよぉ……」


 そこにあるのは絶望だけ。

 この日、学園を支配していた朝日陽太は全てを失った。

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