秘密のお話

「嘘だろ……」


 画面に映るのは、陽太達が一人の生徒を窓から投げ落とす場面。

 投げ落とされているのは間違いなく俺だ。

 しかし、何故こんな動画が?

 グループLINEのような、身内向け動画ではない。

 世界中の人が見れるSNSに投稿されたものだ。


「鍵垢とかでもないよね? うわぁ、タイトルに滅茶苦茶悪意を感じる……」


 【炎上】某有名私立高校の生徒さん、殺人未遂を起こしてしまう

 

 明らかに炎上目的で付けられたタイトルだ。

 一体誰がこんなことを?


「これは大変なことになりそうね……恐らくウチの生徒の仕業だろうけど……」

「ただ、これでもみ消しは出来ないですね」

「あ、そうじゃん!! もしかしてこれにて一件落着?」


 十件くらいもめ事が増えそうなんだがな。

 ただ、この動画をあげた奴は相当陽太に恨みがあったらしい。

 陽太の行動を良く思わない人はそれなりにいる。普段は金と権力と暴力で押さえつけられているが。

 それが今回の件をキッカケに行動を起こしたのだろう。

 

「ま、これで陽太達は終わりだな……」


 成績でも社会的にも抹殺されそうな陽太を想像し、俺は少しだけ心が晴れやかになった。


「そうだねー、あ!! 優馬はちゃんと安静にしなよ? 彼女に心配させてるんだからさ」

「わかってるよ……ん? 彼女?」

「え? そこの先生と付き合ってるんじゃないの?」

「ふぁぁぁ!?」

「へ……!?」


 なんでバレた!? 

 志乃さんと話したの少しだったろ!?

 

「大人を舐めるなよー? 雰囲気とかでそーいうのはわかるんだからさ★」

「わぁ、すごい……」 

「恥ずかしいです……」


 恋バナとか大好きだもんな莉緒さん……

 学園を卒業するまで、この関係は二人だけの秘密にするつもりだったのに。

 こうもあっさりバレるなんて!!


「まあ、アタシは立場とか年の差とか気にしないしさ。失礼かと思いますが、先生おいくつですか?」

「えっと、今年で三十二です……」

「わぉ……アタシよりも四つ年上。でもすっごく綺麗ですよね~」

「き、きれ……!?」


 褒められてないからか顔を赤らめている志乃さん。


「え、なになに!! 大人っぽい雰囲気なのに内面はこんなにかわいいんですかー!!」

「あの、やめてください……あまり慣れてないので」

「えーいいじゃないですかぁ。アタシともっとお話しましょうよ~ほらほら」

「え? あの莉緒さん?」

「ごめんね優馬ー、少し話してくるわー」


 そう言い残すと、莉緒さんは無理やり志乃さんを連れて病室から出て行った。

 え、俺は? なんでハブられてるの?

 二人だけの世界に行かないでください……

 自分のペースに巻き込み、勝手に話を進めていく志乃さんに俺は終始困惑していた。



side:志乃


「優馬の事、大切に思ってくれて本当にありがとうございます……」


 病室外に出た後、天海さんは深々と頭を下げた。


「そんな、頭を上げてください……私はただ優馬くんを思って……」

「いえ、アタシは優馬としっかり向き合えなかったので」


 そういえば仕事で忙しく、家にいない事が多いって優馬くんが言ってた。

 限られた休みだけでは、彼の事を知れなかったのだろう。


「アタシ、親というものをわかってませんでした。とにかくお金を稼いで優馬が不自由なく生活出来ればいいって……けど、その結果優馬に気を使わせてしまった」

「たった一人で子供を育てるだけでも凄いですよ……それにお金も大事ではありますし」


 始めから上手くなんていかない。

 間違いだった、というより天海さんのやり方にいい所と悪いところがあっただけ。


「……まだやり直せると思いますよ?」

「え?」

「気づけただけ、いいと思います。人間、失敗を認める事で前に進めますから」

「そう、ですね……」


 私だってまだまだ優馬くんの事が分からない。

 だから少しずつ歩み寄っていこうと思う。

 何度も失敗を重ねて。


「よーし、決めた!!」

「はい?」

「アタシ、仕事辞めます!!」

「え!?」


 随分思い切った、と私は思った。


「ある程度スキルもお金も身につけたし、ゆっくり働ける職場に行こうと思います。今までより、優馬と向き合える時間が作りたいですし」

「えぇ、優馬くんもきっと喜びますよ」

「お世辞かもしれませんよ?」

「それはないです。彼、好意には素直ですから」

「あはは、アタシもそう思います」


 預かった子供の為にここまでの決断ができるなんてすごいと思う。やっぱり優馬くんは愛されてる。

 これからは彼の笑顔が少しずつ増えるといいな。私も頑張らなきゃ。

 

「あの……」

「ん?」

「もう少し、明るくなれる方法はありますか?」

「ふむ……?」

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