目覚めたら美人が2人いた

「……?」


 眠りから覚め、最初に目に入ったのは白い天井。右を向けば点滴、左を見れば窓。

 ここはどこだろう?

 そして妙に身体が重く、痛い。


「あぁ……俺、窓から落とされたのか」


 眠る直前の出来事を思い出す。

 あの時俺は陽太達に窓から落とされた。

 しかも俺がいた教室は四階。

 普通では助からない。


「もしかして、あの世か?」


 異世界転生モノではここで神様が現れ、チート能力やら地位やら色んなものを与えられて異世界へ飛ばされる。

 もしかしたら……でも


 志乃さんがいない世界に行くのは嫌だな


「ゆ、うま……くん?」


 ガラガラ、と引き戸の音とともに大好きな人の声がする。


「ん?」

「……っ!!」

  

 その方向に振り向くと、志乃さんが驚いたような顔で立っていた。


「あ、おはようございます……」


 とりあえずあいさつ。


「優馬くんっ……!!」


 だが志乃さんは返事をする訳でもなく、辛そうな表情で俺に近づいてくる。

 

「生きてて、よかった……」

「はい、生きてるらしいです」


 ベッドに頭をつけ、泣き続ける志乃さん。

 本当に思いやりのある人だな。

 結構洒落にならないことに巻き込まれたけど、こうして心配してくれる人がいるのは嬉しい。


「命に別状は無いみたい。落ちた先にたまたま大木と池があったみたいで……」

「大木と池?」

「優馬くんが落ちた時、木の葉と血まみれで池に浮いてたの……」


 そういえば俺の教室の真下には池とか大木が生えてたっけ。

 大木は昔から生えてるせいか二階の高さまであり、窓を開けると虫が教室内に入り込んでウザイんだよな。

 恐らく落ちた先の大木に当たり、落下の衝撃を抑えた状態で池に入り込んだのか。

 奇跡みたいな話だけど、今こうして俺がいることがそれを証明していた。


「それでも大怪我には変わりないけど……優馬くん丸一日眠っていたのよ」


 そんなに? と思ったが今の怪我を見たら何となく察せられる。骨こそ奇跡的に折れていないが全身打撲で包帯ぐるぐる巻き。どうやら大木の枝や衝撃の出血がひどいみたいだ。


「そういえば陽太達は?」

「まだわからない……一応校長先生達と話をしているみたいだけど……」


 と、その時だった


「優馬!?」


 ガラガラと大きな音を立て、ポニーテールの女性が病室に入ってきた。


「え、莉緒さん!?」

「ゆうまあああああああ!! だだだだ大丈夫なの!?」

「お、落ち着いて!! 後、ここ病室だから静かに!!」

「あぁ、ごめんごめん……」


 唐突に現れた元気いっぱいのお姉さんにぽかんとしてしまう志乃さん。


「あぁ、担任の先生ですか!? アタシ、天海 あまみ莉緒 りおといいます。優馬の保護者です」

「いえ、担任ではないのですが……真島くんによく数学を教えている篠宮志乃と申します」

「わざわざありがとうございます。優馬が窓から落とされたと聞いた時にはもう気が気でなくて……ようやく仕事が片付いたので慌てて来ました」


 この慌ただしい人が俺の親戚で保護者の天海あまみ 莉緒りお さん。

 普段は広告会社の中心で忙しく、家にいない日の方が多い。

 それでも誕生日等には必ず休みを取ってくれるいい人だ。

 そんな莉緒さんが平日に来たという事は相当無理をしたんだろうなぁ……


「で? 優馬を投げ落としたバカはどこなの? ぶっ飛ばす」

「わー!! おちつ……いててっ」

「真島くん、怪我人なんだから無理したらダメよ」


 誰かがいると先生モードになる志乃さんは流石だ。オンオフがしっかりしている。

 けど、莉緒さんの怒りは収まりそうにない。

 大事な身内が傷つけられたんだ、そりゃこうもなる。

 

「ねぇ、優馬。何があってこうなったの? アタシは投げ落とされて怪我した、としか聞いてないからさ……」


 仕事で忙しい志乃さんを心配させたくなくて、周りの揉め事は全部言わないでいた。

 だが、ここまでの大事になったのなら話は別。

 莉緒さんも心配しているし、言うしかないだろう。


 なので今までの事を洗いざらい話した。


~~~


「陽太ってヤツどこ? 突き落としてくる」

「だーから落ち着けって……いだだ!!」

「真島くん……だから無理しないで」


 今にもカチコミに行きそうな怖いオーラを放つ莉緒さん。流石に暴力は振るわないと思うが鬼の説教をかましそう。

 それだけ俺を思ってくれるのは、嬉しいんだけどね。

 

「けどなぁ……今回のは無理やり揉み消してきそう」

「えぇ、そうね……」

「? なんで?」

「朝日くんの父親はこの学園の有力な支援者なんです。今までの行為も全てお咎めなしにされて……」

「は? 何それ無茶苦茶じゃん」


 本当に無茶苦茶だと思う。

 今回のは事が事だから、朝日家そのものにも影響を及ぼすだろう。なので父親も学園も無理やり揉み消そうとするハズ。

 理不尽すぎていやだなぁ、とナイーブな気持ちになっているとスマホの通知音が鳴る。


「ん?」

「真島くんどうしたの?」

「この動画に映ってるの、陽太達か……?」

「え?」


 ……どうやら、さらに大事になりそうだ。

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