陽キャ連中の悲劇

「試験を開始してください」


 先生の号令と共にテスト用紙を裏返す。

 あれから一週間、普段の勉強に加え試験用に向けてより集中して取り組んだ。


「よし……」


 残り時間は十五分。

 見直しの時間もしっかり確保してある。

 

「今回はいつも以上にいけそう……」


 これは試験返しの時が楽しみだ。

 勿論、陽太達のも。



「陽太ありがとねー!! あのノートまじわかりやすかったわー」

「少なくとも赤点はないっしょ」

「あぁ、心優しい陰キャくんが俺にくれたからな」

「「「あははははは!!」」」


 くれた、じゃなくて奪った、だろ。

 相変わらず自分本位に考える最低なやつだ。

 なんて嫌な気持ちを抱えていると、LINEの着信音が俺のスマホから聞こえた。


『試験お疲れ様。最後までやりきったわね』

「先生……」


 試験後でゴタゴタしてるのに、俺へチャットをしてくれた。

 凄く嬉しい。これだけで今日まで頑張って良かったと思っている。

 今すぐ会いたいなぁ。


「少なくとも試験が返されるまでは我慢だ」


 普段の授業の準備に加え試験の採点もある。

 今はチャットが出来るだけありがたい。

 こうして志乃さんとの日々を待ち望んでいたら、いつの間にか試験返しの日がやって来た。



「真島優馬」

「はい」


 まずは科学の試験から。

 点数は……おお、97点!!

 前は95点だったから調子いいな。

 

「……朝日陽太」


さて、ここからだ。


「へい」


 嬉しそうな顔をしている。

 きっと一週間前に俺からノートでいっぱい勉強したんだろう。

 平均なんて余裕だぜ、という余裕を感じれた。


「もっと頑張るように」


 だが、陽太の思いとは対照的に科学の先生の言葉は厳しいものだった。


「は……?」


 チラッと見えた答案用紙には……12点。

 最悪の点数だ。


「へ、は? 俺が? なんかの間違いだろ……採点ミスにも程があんだろおい!!」

「答案は埋められていたがどれもデタラメだったぞ」

「なん、で……」


 自身の余りにも低すぎる点数にひざを折る陽太。

 まぁ、そうなるように俺が仕掛けたからな。

 ざまぁみろ。


「おい、なんだよこの点数!!」

「アタシが8点!?」

「おい陽太!! どうなってんだよ!!」


 俺のノート読んだであろう陽キャ共も似たような点数だったようだ。

 

「ノートを読み間違えただけかもしれねぇ……まだ答案はある」

 

 だが、その後に返された答案は全て赤点。

 陽太の表情がだんだん暗くなるのが目に見えて分かった。

 そして、


「真島くん、100点おめでとう」

「おお……!!」


 最後は志乃さんの数学。

 俺はここで念願の100点を取った。

 今まで数学で満点は取れなかったから嬉しい!!


「……朝日くん」

「……」


 もはや口を動かす気力すらなくなった陽太。

 あれだけ陽キャオーラを出していたのに、今ではその辺の陰キャより陰キャしている。


「流石にこれは酷いわね……」

「あ……」


 その点数は……0

 一番低い点数。

 その余りにも低すぎる点数に陽太は唖然と立ち尽くした。

 

「普段から授業聞いてる? わからなかったら友達に聞くとか……」

「……じま」

「はい?」

「真島ァ!!」


 怒り狂った様子で俺を殴り飛ばす陽太。


「やめなさい!! 真島くんになんてことするの!!」

「お前のノートのせいで散々な結果になったじゃねぇか……騙しやがって!!」

「いてて……俺はだましてないよ」

「は?」

「俺はお前に言われるがまま、”ノートを貸した”だけだ」

「んだと……!?」


 そう、ノートを貸してほしい、とだけ陽太は言った。

 それがどんなノートであるかは指定していない。

 実はあのノートは俺が陽太に渡すように作り上げた偽のノート。

 デタラメに見えないよう、ポイントや公式等を微妙にズラして正解のような間違いだらけのノートを作り上げたのだ。

 で、そのノートを鵜呑みにして勉強した結果、陽太達は赤点を連発したという訳。


「屁理屈言いやがって!! この!!」

「そうよ!! あんたのせいで滅茶苦茶になったじゃない!!」

「ぶっ殺してやる!!」

「あなた達やめなさい!! 誰か男の先生呼んできて!!」


 恐らく怒り狂った陽太たちに俺は更にボコボコにされるだろう。

 だが、一度出してしまった成績は変えることはできない。

 今から何をしようと、あいつらがまともな学園生活を送れないのはほぼ確定だ。


「邪魔なんだよババア!!」

「きゃっ……」

「お前……!!」


 こいつ、志乃さんを突き飛ばしやがった!!


「くそがっ……お前さえいなければ!!」

「うわっ!?」


 心配して志乃さんに駆け寄ろうとした所を、陽太たちに捕まえられる。

 複数人で持ち上げられ、一体どうするのかと思っていたら。


「死ねぇぇええええ!!」

「っ!? 真島くん!?」


 四階にある教室の窓から俺は投げ飛ばされた。

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