やっぱり寂しい

「ま・じ・ま・くーん♪ ちゃんと持って来たぁ?」 


テストまで残り一週間。

俺は陽太とある約束をしていた。

それは今までのノートを全部貸すという物。


「も、持って来たよ……」

「おおーちゃんと綺麗にまとめられてるねぇ」

「あ、ありがとう……」


 ノートは文字の綺麗さだけでなくポイントや補足、先生が口頭で話したメモ等が読みやすくまとめられていた。

 俺のノートは授業中だけでなく、授業後家に帰った後に復習も兼ねてまとめている。

 なのでノートを見ただけで、今日は何をしていたのか、何が重要なのかが一目でわかるのだ。


「へへっ、これで完璧……」

「あ、あの……来週にはノート返してね、勉強したいから……」

「はぁ? 何言ってんだよ?」

「え?」

「返すわけないだろばーか、これは俺のもんだ」


 俺を突き飛ばし、ノートを札束を自慢するかのように見せびらかす。


「そ、そんな!! それがないと勉強が……!!」

「うるせぇなぁ!! 少しくらい成績落ちてもいいだろうが!!」

「あがっ」


 陽太に詰め寄ろうとした所を殴られる。

 こいつの借りるは貰うと同じ。

 何かを貸せと言った時点でもう既に陽太のモノだ。


「ねぇ陽太ー、アタシ達にも見せてー」

「おおいいぞー、こんな陰キャのきったねぇノートなら全然見せてやるよー」

「あはは、なにそれひどーい」


 取り巻き達と共に陽太は去っていった。

 これまでと同じ。陽キャ共のおもちゃにされ、いいように使われている。

 が、


「うまくいった……」


 今回だけはいつもと違う。



「ふぅ、今日はこれくらいでいいかな」


 帰宅後、俺はテスト勉強をしていた。

 

「データはあるとはいえ、やっぱり陽太はクソだなぁ」


 実はノートのデータ自体はスマホに入っているから、見返そうと思えばいつでも見返せる。とはいえ、ヤバい状況でも陽太のやることはいつもと変わらない。

 本当に呆れる。

 

「そういえば志乃さんと会えてないなぁ」

 

 テスト二週間前に入ってから、志乃さんと会えていない。

 理由は俺が勉強に集中するのと、志乃さんが試験の作業で忙しいから。

 いつもの放課後の勉強も申し訳ないから、とやっていない。

 

「会いたいなぁ」


 仕方ないとはいえ寂しい。

 付き合い始めたばかりだしもっと色んなことがしたい。


「まぁ、今は勉強だ……」


 これで成績が悪くなったら志乃さんにそっぽ向かれるかもしれない。

 気合を入れ直し、俺は再び勉強に取り掛かった。



「真島くん、放課後、話があるの。いいかしら?」

「え? はい」


 休み明けの授業後、俺は志乃さんに呼ばれた。

 いったい何だろう?


~放課後~


「先生、一体なんでしょうか……」


 いつもの空き教室……ではなく教材室の中。

 何か運んでもらいたい物でもあるのだろうか……


「優馬、くん……」

「へ……」


 と思っていたら、いきなり抱きしめてきた。 

 

「ど、どうしたんですか……?」

「仕方ないけど……やっぱり寂しい」

「志乃、さん……」


 学校の中なのにお互い二人きりの時の呼び方。

 寂しい気持ちは俺だけじゃなかったんだ……

 今を噛みしめるように強く抱きしめる志乃さんの様子からそれが分かる。


「テスト勉強、頑張れてる?」

「今の所、順調です」

「わかんない所とかない?」

「応用含めて大丈夫です」

「……私に会えて、嬉しい?」

「……もちろんです」


 大人になっても人肌寂しくなるのは同じらしい。

 会えなかった一週間分を埋めるかのように、志乃さんは色々聞いてくる。


「テスト頑張ったら……ごほうびあげる」

「え、ご、ごほうびとは……?」

「……ナイショ」

「そう、ですか」


 ご褒美……かぁ。

 凄くいいけど、もう少しモチベーションを……


「あ、あの」

「?」

「もし、学年トップになれたら……それよりちょっといいご褒美がほしいです……」

「いいわよ……」


 内容なんてどうでもいい。

 俺は志乃さんの為にがんばるっていう目的が欲しかっただけ。

 でも、これでいけそう。


「そろそろ時間、ね」

「えぇ……」

「優馬くん、応援してる」

「……はいっ!!」


 少しの楽しみを堪能した後、二人は教材室を後にした。

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