色々聞かせて

「ふあぁぁ……よく寝たなあ」


 カーテンの隙間から差し込む光で目を覚ます。


「あ、まだ志乃さん寝てた……」


 すうすうと可愛らしい寝息を立てながら眠る志乃さん。

 天使みたいに綺麗だ……このまま眺めていたい。


「昨日は志乃さんに甘えすぎてたなぁ」


 勉強だけでなく、晩御飯もごちそうになり、あげく志乃さんよりも先に眠ってしまった。


「そうだ、朝ご飯は俺が作ろう」


 志乃さん程上手く作れるか自信はないが、俺だってそれなりに料理をしてきた。

 一人で過ごすことが多い分、いつの間にか自炊が習慣になっている。

 少しでも恩返しができるなら、と俺は台所へと向かった。



「おはよう……随分と早いわねって、え?」

「あ、志乃さん。おはようございます」


 それから三十分後、志乃さんも起きてきた。


「これ、優馬くんが作ったの……?」

「はい、昨日は志乃さんが晩御飯を作ってくださったので、今日は俺が」


 作った、と言ってもシンプルなものだ。

 卵焼きにほうれん草のおひたしに味噌汁。ご飯は志乃さんの冷蔵庫にあったので温めた。

 

「そんな……私は大した事をしていないのに……ありがとう」

「いえいえ。さ、早く食べましょう」

「えぇ……」

 

 机に料理を並べ終わり、お互い手を合わせる。


「「いただきます」」


 早速、志乃さんがメインの卵焼きに手を付ける。

 口に合うといいな……


「っ! 美味しい……」

「本当ですか!」


 よかった、口に合って。


「優馬くんの卵焼きは甘いのね」

「はい。志乃さんのとは違いますか?」

「私のは甘さが控えめで……でも、これは美味しい……凄く食べやすい」 

「そんなに気に入りましたか?」

「えぇ、レシピを教えてほしいくらいよ」

「俺のでよければ、是非」


 それから志乃さんはどの料理も美味しそうに食べてくれた。

 たまに帰ってくる親戚もそうだけど、自分の料理で喜んでくれる姿はやっぱり嬉しい。

 作ってよかったと心から思える。


「ごちそうさまでした……片付けは私がするわ」

「いえいえ、それくらい俺が……」

「だめ、優馬くんは休んでて」

「はーい」


 本当に真面目な人なんだな。

 俺はお言葉に甘えて志乃さんの片付けを見守っていた。



「志乃さん、今日は何か予定はありますか?」


 片付けと着替えが終わった後、志乃さんに話しかける。

 志乃さんは教師、授業の準備など色々ある。

 なので忙しそうだったら大人しく帰るつもりだったのだが……


「そうね……今日は一日優馬くんの事が知りたい」

「え?」


 意外すぎる一撃を食らった。


「私、優馬くんの事を全然知らない……だから、今日はゆっくりお話したい……」

「俺、も……志乃さんのこと知りたいです……」

「ふふ、そうしましょ」


  一日中、志乃さんと入れるなんて。

 しかも俺の事を知りたいなんて!!

 けど、志乃さんは俺のどんな所が気になるんだろう……

 


「好きな食べ物は?」

「オムライス……」

「趣味は?」

「配信を見る事……」

「休日何してるの?」

「配信を見ながら勉強……」


 なんだろう、普通の質問コーナーになってしまった。


「あの、志乃さん」

「何?」

「志乃さんは楽しいですか?」

「? 楽しいわよ?」 


 ならいいんだけどね。

 当たり障りの無いことしか言えてないから不安だった。


「優馬くんは……楽しくない?」

「へ、いえいえ!! これでいいのかと思ってて……」

「全然いい……真島くんの知らない所がいっぱい知れたから」

「な、ならよかったです……」


 僅かに口元をあげ、微笑む志乃さん。

 普段あまり感情の変化がないからか、こういった一面にドキッとしてしまう。


「えっと、次は……そう、スマホに」

「え?」

「スマホにメモしてたの……いっぱい聞きたいし忘れたくないから」

「可愛いですね……」

「からかってるの……もぉ」

「いてっ」


 軽くデコピン。

 そういう所が可愛いんだよなぁとしみじみ思う。あんまり言い過ぎると拗ねそうだから黙るけど。

 

「まあいいわ、次……っ」

「どうしました?」

「優馬くんの……性癖」

「!?」


 いきなりぶっ込んで来ましたね!?

 気楽な質問コーナーがディープな内容へと早変わりする。

 顔を赤らめてる志乃さんと同じように、俺も妙に緊張してしまうのだった。 

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