大人の魅力
「さ、出来たわよ」
「おぉ……ありがとうございます」
出てきたのはレバニラ炒めだった。
……なんでレバニラ?
「レバニラ好きなんですか?」
「たまたまよ……美味しいでしょレバニラ」
「ええ、そうですね」
うーんいい香り。
食欲がそそられる、白ご飯もあるし晩御飯のおかずとして最高だ。
「いただきます」
「……いただきます」
早速、いただくことにする。
「美味しいです……!!」
「ほんと? よかった」
レバーとニラのやや癖のある味とタレが上手く絡み合っている。
俺の箸が止まらない、病みつきになる味だ。
「誰かに料理を食べさせるなんて初めてだったから……緊張しちゃった」
「そうなんですか?」
「ええ、いつも自分が食べたいものだけを作るもの」
意外だ。これだけ美味しい料理、友達とかに披露してるのかと思っていた。
「わかりますよ。俺が作る時もなーんか味が偏っちゃって」
「優馬くんも料理するの?」
「ウチ、親いないんで……預かってもらってる親戚も仕事で忙しいし」
「そう……だったのね」
両親は幼い頃に事故でなくなった。
今は俺を引き取っている親戚の元で暮らしている。
生活に不自由はしていないが、親戚は忙しく家にいない時の方が多い。
それでも誕生日や正月等、イベント事には必ず帰ってきてくれるから愛されてると実感はしているが……
って、少し重い空気にさせちゃったな。
「別に大丈夫ですよ。慣れているので」
「……優馬くん」
「はい?」
「頭、出して」
「? こう、ですか?」
「そう……」
志乃さんの言われるがまま、頭を向ける。
何をするつもりだろう、と思っていたら。
「よしよし……」
「っ!?」
志乃さんの手が俺の頭を撫でていた。
「寂しい時は、私のところに来てね」
「ええと、はい……お言葉に甘えます」
「ふふ、いい子……」
これが大人の女性なのだろうか。
優しく包み込まれるようで、まるで姉に相手をされている気分。
「撫でられるだけでいいの?」
「……っ」
甘く魅惑的な言葉。
もっと、欲しい。
「また、抱きしめてほしいです……」
その言葉に導かれたかのように、俺の本能は新たな欲を求めていた。
「……いいわよ……ぎゅ」
昨日と同じ。
甘い香りと程よい柔らかさ。
そして、温かい。
肌の温度だけじゃない。志乃さんの気遣いや、優しさという心の温かさ。
身も心も安心出来る、大好きな人から抱きしめられ幸せな気持ちでいっぱいだ。
満足する程抱きしめた後、俺と志乃さんは残りのご飯を食べ終えた。
その後は特に何も無い。
普通に風呂に入って、普通に布団で眠った。
一緒の布団……はまだ恥ずかしかったから別々。だが、近くで話しかけてくれる志乃さんに安心したのか、俺は布団についてすぐ眠りに入ってしまった。
◇
「あら……眠ってしまったのね」
すやすやと気持ちよさそうに眠る優馬くん。
「……かわいい」
眠る彼の頭を撫でながら、思いに浸る。
私の大事な生徒で、大好きな恋人。
まだ実感はないけど、彼に愛されていると思うことは多い。
「私で、いいのね」
昔から、私は地味で真面目な性格だった。
友達もあまりいなかったし、むしろ真面目な私を鬱陶しがる人が多い。
それは先生になって、アラサーになってからも変わらず。
遊び心が足りない、なんて数少ない友達によく言われる。
「けど、優馬くんは違った」
彼は珍しい。
授業が難しく、あまり生徒から人望のない私の元で積極的に学ぼうとしてくれる。
結果もちゃんと試験で発揮しているのだから、先生としても言う事がない。
そんな彼が私に懐いているようで、心地よかった。
そうしていたら、いつの間にか彼の事を好きになっていたけど。
だけど、先生と生徒の関係で、
十六というまだ青さが残る若い彼に対し、私は三十二歳のアラサーという若さから遠く離れた存在。
でも優馬君は……私の事を愛していると言ってくれた。
告白してくれた理由こそ悲しかったけど、あの時の心からの思いに私はもっと惹かれてしまった。
「ありがとう……優馬くん」
頭を撫でるのに満足し、私は眠りについた。
ほんとはこっそり彼の布団に入ったり、頬にキスとかしてみたかったけど……恥ずかしくてやめちゃった。
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