死ぬ前に告白を
「篠宮先生」
「……何かしら?」
足早に職員室へ向かうと、彼女はいた。
篠宮志乃。綺麗な黒髪ロングヘアーを後ろで束ねた、美人メガネ教師。
しかし生徒からの人気はあまりない。
アラサーだからか
授業内容が難しいからか、
彼女が積極的に生徒と交流しないからかわからないが、
謎だ。
「またわからない所があるので……空き教室で教えてほしいです」
「いいわ……放課後、待っています」
「ありがとうございます!」
流石に告白するから来て! なんて言えない。
俺はいつもの勉強を口実に使うことにした。
……何故だろう。死ぬ前だって言うのに楽しい。
まあ、そんな楽しい時間も振られてすぐ終わるけどな!
さてと、放課後まで頑張って耐えるか。
「……真島くん?」
◇
「で、ここは前に習った公式を使えばいいの。忘れかけてると思うけど、こう使えるから覚えて」
「なるほど……」
放課後、俺は篠宮先生に数学を教えてもらっていた。
俺はこの時間が好きだ……陽太達がいない、篠宮先生と落ち着いて二人きりで勉強ができる。
先生としての仕事をしているだけなのはわかっている。
だが、学校で味方がいない俺にとって、篠宮先生との時間は唯一の癒しだった。
「流石、真島くんは理解が早いわね」
「先生のおかげですよ。この前の試験も学年トップになれるか不安でしたし」
「苦手な強化に意欲的に取り組めるのはいい事よ……頑張っているわね」
「ありがとうございます……」
頑張って結果を出した分だけ、先生は褒めてくれる。
凄く嬉しい。
「さて、短いけどこんな所かしら……また何かあれば……」
「先生……話があります」
「真島くん……?」
だけど、そんな幸せな時間も今日で終わる。
「篠宮先生が教えてくださったおかげで、俺は数学が出来るようになりました」
初めは勉強だけは負けたくない、と思ったから。
「それは俺自身の頑張りだけじゃなくて、篠宮先生がいたからです」
その過程で篠宮先生に頼り、苦手教科も克服することが出来た。
「篠宮先生の教え方もそうですし、何より篠宮先生が結果を出した俺を褒めてくれるのが嬉しかった」
だけど篠宮先生といることで……俺自身が先生を好きになっていたのも事実。
「俺は……」
だから
「先生のことが好きです、付き合ってください」
この告白を人生最後の記憶にしよう。
「……」
うつむいたまま、固まる先生。
そりゃそうだよな。教え子から告白されたら困惑するに決まっている。
きっと今は、どう断れば傷つかないか考えているだろう。
「私……」
あぁ、これで終わりだ。
目をつぶり、断りの言葉を覚悟していたのだが
「私で……いいの?」
「え?」
思っていた答えと違う。
「知っていると思うけど、私は三十二歳のアラサー……おばさんと言われても仕方ない年よ」
「ええ、はい……」
なんだろう。完全に断られる気でいたのに……どうしよう。
「同年代に若くて気が合う子もいる筈……私なんて女性としての旬をすぎてるわ」
あぁ、そうか!
これは自分を盾にして断ろうとしている。
俺を傷つけない為に、新しい出会いがあるよと導いているのか。
だが、これから死のうとしている俺には関係ない。
同年代の女子は俺をいじめるか無視するだけだし興味無い。
こうなったら、俺の思いを全てぶちまけてから終わりにしよう。
「……先生だからいいんです」
「え?」
「年が何だっていうんですか。俺からすればとても綺麗なお姉さんにしか見えませんよ!」
「真島……くん?」
「他にも真面目に勉強を教えてくださる姿とか、俺がいい成績を取った時に微笑みながら褒めてくださる所とか……」
「……」
語りだすと止まらない。
死ぬ前だからかこんな恥ずかしい事もスラスラ言えてしまう。
「そんな先生が!! 俺は!! 世界で一番大好きなんですっ!!」
教室内に響く程の声で俺は篠宮先生への愛を叫んだ。
「……すみません、叫んでしまって」
「いえ、あなたの思いは伝わったわ」
「そうですか……」
これで本当の終わり。
スッキリしたな……今までロクな人生じゃなかった。
最後にこんな清々しい気持ちで終われるなんて幸せ……
「いいわ……」
「え?」
だと思っていたのに。
「お付き合い、しましょう?」
「えぇぇ!?」
予想もしていなかった答えが返ってきた。
「? 何故驚くの?」
「いや、その……えええ?」
俺の告白を受け入れたってこと?
なんで? なんでぇ?
「確かに年も離れてるし、私たちは生徒と先生の関係よ」
「はい……」
「でも……」
急に近づいてくる篠宮先生に俺はドキドキする。
「真島くんとなら……いいと思ったの」
吐息混じりの甘い声。
それは、俺の身体中を固めてしまうのに十分すぎる威力だった。
え、夢ですか?
俺の妄想が強すぎて現実で幻覚を起こしてしまった的な……
未だに、これが現実だと俺は受け入れられない。
「もうこんな時間ね……真島くん」
「は、はい?」
「私の家で、勉強の続きしない?」
「!?」
もう教える事なんてないのに。
そう思いつつも、俺は言葉に出さなかった。
大好きな先生と付き合えて、家にお邪魔することになるなんて。
刺激的な出来事の連続に、俺は自殺の事をすっかり忘れてしまっていた。
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