第86話

 大学からの帰りだったまりかは、舞佳の話を親身になって聞いてくれた。


 そして、匿ってくれたのだ。


 あの時…舞佳は、ようやく助かったと思った。




 だが、スマホを持ち出してしまったのは間違いだったかもしれない。

 GPSが入っていたから、どこにいるかは鈴たちに筒抜けだった。


 鈴は、まりかを「誘拐犯」と呼んでいた。

 何度も、玄関先で言い争っていた。


 舞佳のスマホにも着信がたくさん入っていた。

 全て、無いものとして無視してきたが…






 そして、数日経った頃だった。


 鈴たちが、舞佳の元へ来ることがなくなった。




 それを機に、舞佳はまりかの手引きの元、引っ越した。


 鈴たちには知られないように…行動して…




 大学も安全に通うことができた。


 音楽が好きな舞佳は、アイドルの面接も受けてみることにした。

 視界が開けたような世界だった。


 だが、数ヶ月で休学が必要になった。

 帰り道、鈴がいたのだ。


 舞佳は鈴を撒いて逃げたものの、大学が突き止められているかもしれないと考えた。


 そのおかげか、鈴を見かけることは無かった。




 そして、あの日。

 あの八百屋の前を通り、不採用通知が届いたのを確認した後だった。


 ピコンピコンピコンピコン…!!


 と、通知音が鳴った。


 全て、鈴からだった。




 自宅に帰り、舞佳はベッドに横たわった。

 鈴から逃げたい、もう離れたい…関わりたくない…と考えていた。

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