第81話

 一年後。


 家の中は前とは違ってすっかり暗くなり、時々幸がくる…

 そんな日々が続いていた。




 舞佳も学校では元気をなくしていた。

 周りの人たちの様子を見て、自分だけが違う世界にいるような感覚になる。

 何をするにも…疲れていた。


 …お母さんもこんな思いをしていたのかな…


 ホームルームの時間。

 机に突っ伏していた舞佳の耳に響いてきたのは、チョークが黒板を擦る音だった。

「今日、この学校に転校してきた、櫻井さくらい真可さんです」

「さ、櫻井…真可です。よろしくお願いします」


 …転校生…⁉︎


 舞佳は驚いて顔を上げた。

 ふと、後ろを振り返ると…誰も座っていない席が…。


 …わ、私の後ろに来るんだ…!!


 そう考えると、さらに緊張して頭を抱えた。


 自己紹介が終わり、舞佳の後ろに座る真可。

「…よろしくお願いします」

 周りに挨拶しながら、着席した。

 舞佳も緊張しながら、頭を下げた。


 そして、授業が始まった。




 …だが、真可とは、特に接点はなかった。

 ”教室の中”では…




「あ、舞佳さん…でしたよね…?」

 帰路を歩いていた舞佳に、後ろから声を掛けてきたのが、

 真可だったのだ。

「は、はい…」

「私、櫻井真可です。これから、よろしくお願いします…」

 真可は深く頭を下げた。

「こ、こちらこそ…お願いします」


 わざわざ、もう一度挨拶するなんて、すごく丁寧な人なんだろうな…


 それがきっかけだった。


 舞佳と真可は、得意な教科や好きなものなど、自己紹介をお互いにし合った。

 そして、気がついたら、最近のニュースについて盛り上がっていた。




 しばらくすると、T字路

「では、私、家がこっちなので…ここで失礼します」

「さ、さようなら…」


 …あ、なんか意外と仲良くなれちゃったな…


 そう思いながら、舞佳は真可と別れた。


 でも、少し嬉しかった。

 少しだけ、明るくなれた気がした。




 舞佳が家に着くと、玄関には鈴が立っていた。

「ただいま…」

「ねぇ、舞佳」

 鈴の声は、やけに深刻そうで…

「ど、どうしたの…?」

 つい、そう訊いてしまった。

「さっき、舞佳、誰かと歩いていたでしょ?」

「うん…」

「あれ、誰?」

 なんか、様子がおかしい…そんな気がした。

「転校生…櫻井真可さんだよ」

「お、お友達?なら…良いわ、ほら入って」

「あ、うん…」


 …お母さん、どうしたんだろう…


 舞佳は家に入った。


「今日の夕飯は何が良い?」

 リビングで鈴が訊いてきた。

「え…ああ…」

 答えがすぐに出てこなかった。

 いつも、部屋に閉じこもっていて、暗かった鈴。

 最近のご飯は、ほとんど舞佳が作っていた。

 最初は難しかったしガスコンロに触れるのが怖かったが、慣れていけば、そこまで恐れるものではなかった。


 そんな日々が続いていた中、鈴が夕食を作ろうとしているのだ。

 舞佳は、無理をしているのではないかと不安になった。

「お母さん、無理しないでね…」

 だが、帰ってきたのは、明るくてしんみりとした声で。

「無理なんてしてないわ。私…お父さんを失ったことがすごく悲しかったけど…だからと言って、部屋に閉じ篭もるわけにもいかないって…舞佳に負担を掛けさせちゃうし。私は、お父さんの分まで、舞佳のことを見ていかなくちゃって…だから、気にしないで。お母さん、元気だから」

 それを聞いた舞佳は、少しホッとした。

「分かった。それなら…良かった」

「それで、舞佳。今日の夕飯は、何が良い?」

「あー…じゃあ、卵焼きで」

「分かった、作ってくるね。宿題、終わらせておいてね」

 鈴は、昔のような振る舞いでキッチンへと行った。


 …良かった。お母さん、元気になってくれて。


 舞佳は二階へと上がっていった。




 ”お父さんの分まで、舞佳のことを見ていく”

 鈴にとっては、大きな一歩だったのに…






 なぜ、全ての元凶となってしまったのだろうか。

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