第78話

 夕日が辺りを照らす…


「ただいまー」

 その中を舞佳は帰ってきた。

 きっと、「お帰り」は帰ってこない…

 そう思っていた。


 だが、リビングに入ると…そうでもなかった。


「あら…お帰りなさい」


「え…!」


 だが、舞佳は後退りした。


 舞佳に声を掛けたのは知らない人だったからだ。


 知らない人がリビングにいたのだから、舞佳が怖がるのも無理はない。




 知らない人…どこか厳しそうで、冷たそうな女性だった。

 どことなく、鈴に似ている気がするが…


「あ、ああ…お帰り、舞佳…」

 その時、横から現れたのは鈴だった。

 相当、疲れた顔をしていて…舞佳は心配になった。

「お、お母さん…」

 俯いた鈴は、戸惑う舞佳の表情を見る事なくリビングに入った。

「あれ、さち?もう来てたの?…声掛けてよ」

「…起こしちゃったら悪いと思ったんですが」


 …さち?誰だろう…この人…


「お母さん、この方は…?」

 舞佳は、そっと鈴に訊いた。

「え…ああ、そっか初めて会ったんだっけ」

 鈴は、さちに手を向けた。

「この人は、世良せらさちさん。お母さんの、お姉さんよ」

「どうも…よろしく」

 幸は、少々ぶっきらぼうな言い方だった。

「よ、よろしくお願いします…」

 舞佳が挨拶するなり、幸はキッチンへと行ってしまった。

「……」

 舞佳は黙って、それを見ていた。


 


「お母さんの体調が崩れなくて…手伝いに来てもらったの」

 鈴はそう言った。


 …なんか、怖い人だな…


 そう思っていると、鈴が舞佳に声を掛けた。

「舞佳…ちょっと、こっちに来てくれる?」

 …と。

「う、うん…」




 連れてこられたのは、ひっそりとした和室で。

「舞佳に言わないといけないことがあるの…」

 鈴は既に涙を溢していた。

「お、お母さん…?」


「あなたのお父さんはね…」






「亡くなってしまったの…」






「え…?」


「あなたのお父さんは、もうこの世にいないの…この前の、脱線事故で死んでしまったの…」

「うう…うううう…ううううううううう…」


 鈴はそのまま泣き出してしまった…


「お、お母さん…それって……」

 舞佳はこれ以上の声が出なかった。

「う、嘘でしょ…」

 そう言って、俯いた。


 …え、お、お父さんが…






 死んじゃった…?

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