第77話
ガチャ…
玄関のドアが開く音がした。
リビングで暇そうにお菓子を食べながら音楽を聴いていた舞佳は飛び上がった。
「あ!お母さん?お父さん?おかえりー!!」
そう言いながら、玄関へ駆け出していくと、玄関にいたのは…
泣いている鈴だった。
「お、お母さん?どうしたの…?」
鈴は首を横に振った。
「ごめんなさい…舞佳」
そう言って。
「な、何に謝っているの…?お母さん」
「舞佳、冷蔵庫の中にある物を温めて食べてくれる?お母さん、ちょっと具合が悪くなっちゃって…もう寝ようと思うの」
「わ、分かったよ…じゃあ、ゆっくり休んでね」
舞佳は、フラフラ歩きながら、自室へと向かう鈴を見ていた。
「お母さん、どうしたんだろう…?」
そう思いながらも、舞佳は鈴に言われた通り、冷蔵庫にある食べ物を温めて食べた。
無駄に静かな空間が怖くて、テレビリモコンに手を伸ばした。
『速報です。今日の午後一時頃に〇〇の〇〇線の電車が脱線し…』
ニュースが放送されていた。
「今の時間はニュースだけか…」
それでも、舞佳の心は暗いままだった。
お母さん…どうしたんだろう…?
広いリビングの中、舞佳は一人で夕食を食べた。
翌日。
「うーん…」
窓から差す日の光に照らされ、舞佳は目が覚めた。
「ん…まだ、アラーム鳴ってないのに…今、何時?」
舞佳はスマホを手に取り、時間を見た。
「…え!!!あ、もうこんな時間⁉︎」
舞佳は慌てて飛び起きると、リビングへと向かった。
スマホには『7:50』と表示されていた。
「やばい、遅刻だ…!」
普段なら、鈴か人志が起こしてくれるが…今日は、誰も起こしに来なかったようだ。
しかも、アラームが鳴っていないという事は、寝ぼけた自分がアラームを止めて、二度寝してしまったのだろうか…
「と、とにかく、早くしないと…!」
舞佳の小学校は、八時にホームルームが始まり、それより遅くきた人は”遅刻”になる。
普段、歩いて小学校に行くと二十分くらいはかかる。
走っても、十五分くらいはかかってしまう。
…よって、自動車で送ってもらわない限り、遅刻が確定する。
舞佳はリビングに飛び込んだ。
「おはよう!ごめん、お母さん、送って……」
そう言いかけたとき、声が消えていってしまった。
いつも、リビングの上に並べられているはずの朝食…それが存在していなかった。
「あ、あれ…お母さん?」
キッチンにも誰もいない。
「お母さん具合悪いから、寝てるのかな?じゃあ、お父さんは?」
だが、人志の気配はどこにもなかった。
コンコン…
「お母さん?お母さん…!」
舞佳は、鈴の自室のドアをノックしていた。
「お母さん…今、良いかな…もし良かったら、学校に送っていってもらいたくて…お父さんもいないみたいだし…」
「送っていってほしい」なんて、体調を崩している人に言うべき言葉ではないと分かっていたが、一応…言ってみた。
「舞佳…」
ふと、鈴のか細い声が聞こえた。
「舞佳、ごめんね。お母さん、どうしても体調が悪くて…」
「あ、ごめんごめん!なら、大丈夫だよ…無理させてごめんね!!」
舞佳はその声を聞くなり、階段を駆け下りていった。
…お母さんに、辛い想いさせるわけにいかない…
そう思った。
大慌てでランドセルの準備をした舞佳は、
「じゃあ、行ってきまーす!」
朝食も食べずに飛び出して、走っていった。
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