第64話

「……」

 舞佳は目を覚ました。


 そこは、鉄格子の中ではなく。

 …スズとサチが舞佳を閉じ込めた、あの部屋だった。


 舞佳はベッドの上で寝ていた。


「……夢?」


 そう思ったが、ゆっくりと身体を起こしたが…すぐに違うと分かった。


 舞佳の姿は……中学生のままだったからだ。


「さっきのは、何だったの…?」


 もう何も分からない。

 舞佳は突っ伏してしまった。


 これからは…スズはそう言った。


 今までの友達がいなくなった。

 この家にはスズとサチと舞佳の三人だけ。

 そして、舞佳は部屋に閉じ込められている。


 これから、この環境の中、何が待ち受けていると言うのだ…。




 その後、舞佳は立ち上がって、改めて周りを見渡してみた。

 最初、部屋にいたときは、パニックになって、周りが見えていなかったから。

「ここ…私の部屋だ…」

 とても懐かしい。

 …だけど、あまりにも静かすぎる。

 部屋の外の音も、窓の外の音も、入ってこない…。

 ここにいると、少し不安になってくる。


 椅子に腰掛けてみる。


 うん…椅子の座り心地も、机の場所も…間違いない、私の部屋だ

 …昔は、ここに座って…




 ちゃんと勉強しなさいよ!!!




 怖い思いも、ここでしたんだっけ…


 そんな事を思いながら、机に突っ伏した。

「本当に、これからどうしよう…何をすれば、良いんだろう」


 考えれば、考えるほど、何もかも分からなくなってくる。


「これは…悪夢なのかな…」

 そう思えば、少しは楽になるだろうか…

「でも…じゃあ、どうやったら、この夢から醒めれるんだろう…?」

 ダメだ。少しも楽にならない。


 疲れてしまった時は、寝てみるのも良いだろうか。

 でも、ここで寝たら、さっきのような悪夢しか見ない気がする…


 ああ…ああ…


 全てが幻に見えた。

 怖くなって、舞佳は自分の手をつねってみた。


 …痛ければ、現実。痛くなければ、夢…


 グッと指先に力を入れる。

「い、痛くない…?」

 …痛くなかったのだ。

 何かに皮膚が押しつぶされている…という感覚が伝わるだけで。

「え…じゃあ、夢…?でも、どうやって醒めれば…?」


 現実だとしたら、今、部屋に閉じ込められていること、全てが実際に起こっていることとなる…。

 夢だとしても、醒める方法が分からない。よって、ずっと悪夢は終わらないまま。


 舞佳にとっては、どっちも救われない状況…


 どうやら、舞佳の「痛ければ、現実。痛くなければ、夢」という考えは、


 今考えるべきではないものだったようだ。




「あ、私、中学生の身体だから…力が弱かったのかも」

 舞佳の顔には、笑みが浮かんでいた。

「これなら、確実だよね…」

 舞佳の右手に握られていたのは…






 カッターだった。






 笑っているのは…舞佳。

 もう、ボロボロになって限界になってしまったんだろう。




 スズとサチは、壊れかけの舞佳を、まだ追い詰めると言うのか…

 これ以上砕いてどうするのだろうか…

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