第60話

「はぁ…はぁ…」

 舞佳は、息が上がっていた。

 出来るだけの力を振り絞って、ドアに体当たりしているが、なかなか打ち破ることは出来ない…


「ど、どうしよう…!どうしよう…!どうしよう…!」


 舞佳はドアにへばりついて、そのまましゃがみ込んだ。

 頭の中は、既にパニック状態だ…。






 ピコン…


 その時、懐かしい音が床から響いた。




 この音…この音が鳴った時…


 まだ、みんなで仲良く楽しく過ごしていた頃…この音が鳴った。


 スマホの通知音だ。


 この音が鳴った。だけど、通知はゼロ件で、何も入っていなかった。


 その時の、暗くて重い…沈んだ空気。




 それが、今の舞佳を襲ってくる。


 舞佳は振り返って、音の鳴った方を見た。

 …床の上に、舞佳のスマホが落ちていた。


「私の…スマホ?」


 でも…私、スズたちから逃げた時に、スマホを置いてきたはず…。


 あの時、舞佳の右手には、常に痛みが突き刺さっていた…

 スマホを持つ余裕なんて無かった。


 思い出しただけでも、手が痺れるように痛くなってくる…。


 手には、まだ…あの包帯が巻き付いている。




 舞佳は上手く立ち上がることが出来ず、四つん這いになってスマホを取った。

「誰かに…連絡を取らないと…!」

 人差し指で、画面をタップした。


 画面が明るくなると、通知が表示されていた。

 さっき、通知音が鳴った際にメールが受信されたようだ。

「メール…?まさか、一階にいるスズたちからの…?」

 そう思うと、覗くのが怖くなった。

 スズは、舞佳のメールアドレスや電話番号を知らないはずだが…

 ……でも、分からない。もしかしたら、知っているかもしれない。

 だとしたら…一体、何が書かれているのだろうか…?

 怖い…だが、スズたちからのメールなら、無視するわけにはいかない。


 舞佳は震える指先で、メールを開いた。




「あれ、スズたちじゃない…?」


 受信メールの送り元の欄には、「プロダクション」という文字が見えていた。

「…どこの事業から…?」

 内容を見ようと、画面をタップしてみる。






「きゃあ!何これ…!」

 舞佳は、思わず大声を上げて、スマホを投げてしまった。


 画面には…






『蜿嶺ソ。繝。繝シ繝ォ』


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 ピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコン…………






「田谷舞佳」の文字以外が、文字化けしてしまったメール。

 そこに、襲いかかったのは、スマホから鳴り出す…無数の通知音と振動だった。


「嫌だ…怖い、怖い…やめて、やめて…!!!!!!」


 数秒経つごとに、通知音は大きくなっていき、舞佳の耳に突き刺さる。

 数秒経つごとに、スマホの振動は大きくなっていき…激しく飛び跳ね始めた。


 カタカタッ…!


 そんな音を振動の中に混ぜながら、ゆっくりゆっくりと舞佳に近づいてくる…。


「やめて、来ないで…!!!」




 スマホは歩みを止めない。だんだん激しく動き出していき…

 今、舞佳の膝下の高さにまで跳ね上がるようになった。


 舞佳は立ち上がり、ドアにベッタリと張り付いた。


 …当然、ドアは開かない。


 もう逃げ場は無い。




 スマホの画面には…

 文字化けがびっしり並んでいた。


 それは、常に配列を変えてうごめく。

 まるで、舞佳の状況を嘲笑うように…


 舞佳の心に、とどめをさすかのように。






 ピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコン…………

 ピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコン…………

 ピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコン…………

 ピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコン…………

 ピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコン…………






 もうやめて…!もうやめて…!

 嫌だ、嫌だ、助けて…!

 誰か助けて…!


 助けて…!!!

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