第58話

 ガチャ…


 家の中に入ると…そこに広がっていたのは。


 初めて来たはずなのに、どこか懐かしい雰囲気の廊下で。




「お帰りなさい、スズさん…舞佳…」

 そこにいたのは、サチだった。

 スズには笑顔で、舞佳には恨みを込めた表情でサチが立っている。

 スズは、舞佳に家に上がるよう促した。

「…ここは…」

 そう言いながら、舞佳は家に上がった。

「舞佳、来なさい」

 サチは廊下を歩き出した。

 前をサチに塞がれ、後ろをスズに塞がれる…


 もう逃げられないよ、と警告されているかのようだ…




 廊下を歩いていく…

 ふと、壁に飾ってある写真に目がいった。

「あれ…この子…」

 舞佳がある一枚の写真を見つめた。

 その写真に写っているのは、女性と男性、真ん中に小さな女の子。

 家族写真のようだ…

「…服装もペンダントも一緒…?」

 舞佳はゆっくりと歩みを進めながらも、驚いて写真を見ていた。

 目線の先は、写真の真ん中に立つ女の子…


 前に見たことのある、千太郎のブログに写っていた少女…あの子と見た目がよく似ていたのだ。

 ブログに写っていたのは、この女の子のようだ。

 …写真の女の子は、ブログに写っていた少女より幼い気もするが…。


「え…でも、この子…!」

 だが、女の子の顔は…舞佳にとって、それはよく覚えている顔だった。

 …なぜなら


「この子…私だよね…?」


 そこに写っていたのは、紛れもなく舞佳自身だった。

 この写真は、舞佳の小学生の頃の写真だ。


「わ、私、千太郎さんと、昔に会ってたってこと…?」

「いや、それよりも…どうして、私の写真がこの家に…!」


「舞佳、何をぶつぶつ言っているの?」

 突然、後ろから不機嫌そうなスズの声がした。

舞佳は思わずスズに問いかけた。

「ど、どうして、私の写真があるの…⁉︎」

 舞佳は足を止めて、後ろを向いた。

「ちょっと、止まらないでよ…」

 スズは驚いたように足を止めて、後退りした。

 とても嫌そうな顔をするスズの代わりに、サチが答える。

「ここは、あなた…舞佳の生まれて育った家よ。そんなことまで忘れてしまったなんて…一体、あなたは…本当に…悪い子ですね…!早く歩きなさい」


 サチが歩き出すと、スズは舞佳を突き飛ばした。

「早くして」

 転びそうになりながらも、舞佳は視線を前に直して、黙って歩いていた。


 …私の…実家ってこと?


 懐かしい雰囲気は、そのせいなのか。

 久しぶりに来たからか、よく覚えていない。


 だが…小さい頃、二階でよく勉強していたような…


 でも、どうして…?どうして、スズやサチが…私の実家に来ているの?




 タン、タン、タン…


 サチの後をついて歩くと、階段を上った。


 二階に行って、何をするつもりなのだろうか…



 そういえば、自宅の方は大丈夫だろうか…。

 そうだった…あの家の中は、誰もいない。

 まりかと定が帰ってきていない限り…。


「まりかさん…定ちゃん…」

 舞佳が呟いた。既に押しつぶされそうな声で。

「舞佳…!ここへ入りなさい…」

 それと、ほぼ同時にサチが、二階の一室のドアを開けた。


 怖い…けど、もう逃げることなんて出来ない…。


 舞佳は諦めたように、静かにうなずき、促されるままその部屋へ足を踏み入れた。

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