第4章 実家

第57話

 しばらくの間、自動車は舞佳の知らない道を走っていた。

スズも男性も何もしゃべらなかった。


 …ここはどこなの?私、どこへ連れて行かれちゃうの…?


 男性は「ご自宅」と言っていたが…






 自動車は、ある家の駐車場に停まった。

「到着しました」

 男性の声を聞くなり、舞佳は外へと出た。

「どこ…?」

 着いたのは、やはり舞佳の知らない場所。

 …もちろん、自宅なわけがない。

「先生…送っていただき、ありがとうございました」

 スズは自動車から降りて、男性にお礼をしていた。

 男性は「いえいえ」と笑った。

「それでは、また」

 そう挨拶をして、男性は自動車を発進させ、去って行った。


「舞佳!」

 怒鳴るように名前を呼ばれ、振り向く。

 …先生に向けた顔とは、全く違う表情でスズが舞佳を睨みつけていた。

 スズに近づいてはいけない気がした…だが、もう逃げられない、と思った。逃げても、みんなはいない。楽しかった場所へは戻れない。ここで逃げたらまた同じことの繰り返した。

「私を…ここへ連れてきて、どうするの…」

 舞佳はスズに近付いた。

 なぜ、自分をここに連れてきたのか、なぜ、自分を執拗に追いかけてくるのか、訊きたかった。

 「舞佳、入りなさい」

 スズは、近づいてきた舞佳を家の中に押し込んだ。


 そのあと、スズが中へ入り、ドアを閉めた。

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