第52話

「そろそろ…大通りに近づいてきたね」

 楚世歌がそう言ったのと同時に、傑が前へ指差しして振り向いた。

「舞佳の言う、交番って…あれか?」

 傑の指先に、道を挟んで交番が建っている。

「はい、そうです。そこなら、助けてもらえるかと…」

 あと、数メートルほど歩けば辿り着くことができる。

 スズたちのことは、そこで話そう。

 匿ってもらえれば嬉しいが…

 舞佳たち四人は、赤信号の横断歩道の端で立ち止まった。






 タッタッタ…!


 後ろから聞こえてくる足音。

 ジョギングをしている人だろう…誰も気に留めなかった。しかし、その足音は四人のすぐ近くでとまった。



 ドンッ!

  

 …そして、また聞こえた。

 ”誰かが突き飛ばされる音”。


 ザッ!


 アスファルトの上の砂が擦れる音がする。




「わああっ!!」


 その悲鳴は、…縁人だった。


 まだ渡っては行けないはずの横断歩道に、

 縁人が転がるように飛び出ていく。


「…縁人さんっ!」


 舞佳が気づいた時には、縁人は道路の、ど真ん中で転んでいた。傑は、一瞬にして、隣にいたはずの縁人がいなくなり、驚きのあまり、自分の横の空白と横断歩道に飛び出した縁人を見比べていた。


 …縁人は、痛そうにうずくまりながらも、体勢を直そうとしている。


 …そこに一台の自動車がやってきた。

自動車から縁人は見えにくく、スピードは減速しない。


「危ないっ!」

 真っ先に横断歩道から飛び出したのは、舞佳だった。


舞佳を見つけた自動車は、クラクションを鳴らし続ける。


ビーーーーーーーーーーーーーーーー!!!


 

舞佳は、動じない。

…助けなきゃ!


 このままでは、縁人が轢かれてしまう。


 嫌だ…消えないで…!


 縁人が驚いたように目を見開いたまま、舞佳の方を見つめていた。

それを見て、楚世歌は、大声をあげ

傑も、走り出そうとした。


 舞佳は、立てずにいる縁人に手を伸ばした。縁人も舞佳にむかって、手を差し出した。


 舞佳は、全力を出して、縁人の手を取ろうとした。今度こそ、消えてしまう前に…


 …取って!私の手を取って!!


 縁人の手が、舞佳の手に触れた。

その瞬間、


 キキィィーーーー!!!


 急ブレーキの音が、舞佳と縁人の間に割り込んできた。




「縁人!!!」


 そこに傑の声が響く。




 縁人は…




 消えていた。






 急ブレーキの爆音と共に、縁人の身体は灰となって…

 一瞬にして崩れ去ってしまったのだ。


 自動車は急ブレーキを跡を道路に残しながら、横断歩道の手前で止まっている。




 また、間に合わなかった…。

 …どうして、轢かれていないのに。

 手を繋いだのに、後は、こちらへ引き寄せて、戻ったら四人で、危なかったねぇ、て話して…


どうして…?

どうしていつも間に合わないの…?






 

「ま、舞佳…!」

 慌てて傑が舞佳を歩道に連れ戻した。


 自動車の運転手は

「あぶねーだろー!何考えてんだー!」

という怒号を残しながら、通り過ぎていく。


「縁人は、誰かに押されたんだ」

傑はあたりをキョロキョロ見渡しながら

「早く…行くぞっ!ここを離れよう!」

 傑は、そのまま舞佳と楚世歌の手を引いて、走り出した。

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