第50話

 太陽が人一倍大きく見えるのは、錯覚らしい。


 だが、今は実際に大きくなっているようだ…。

 西の山々へと太陽が沈んでいく夕暮れ。

 舞佳、傑、楚世歌、縁人の四人は肩を並べて、橙色に染まる空を見上げていた。

 逆光になり、校舎が暗くなっていく…。


「…それでさ、これからどうするよ。スズやら、サチやらに襲われるなか、先生は逝っちまったし…」

 舞佳たちに顔を向けた傑。

 傑が涙目になっていることを、舞佳は見逃さない。

「…あの、楚世歌さん…そういえば、彦くんは…?」

 まだ顔が赤い楚世歌。

 彦のことを訊いても大丈夫だろうか…。

「彦くんは、病院に連れていったよ。お母さんが迎えにくるって」

 枯れた声で言った。

 咳き込んでは…また、瞳から涙が溢れていく。

 舞佳は、ゆっくりと楚世歌の背中を擦った。


 …だが、本当にこれからどうすれば良いのだろうか。

 スズとサチはいずれやってくる。

 …絶対に。どす黒い執念を纏って。


「僕たち、高校に集まったわけですけど…あ」

 縁人が閃いたように、手をポンッと叩いた。

「何か良い案でも思いついたのか?」

「…確か、この近くに児童相談所か何かあったような…」

 縁人が周りを見渡し始める。

 どうやら、この近くに児童相談所があるようだ。

「それ、マジ…?匿ってもらえるかもしんねぇな…」

 …と、傑も一緒になって、周りを見渡した。


「児童相談所…」

 舞佳が呟いた。

 この地域のことは、あまり覚えていないが…児童相談所については、既視感があった。

「聞いたことあるかも…」

 キョロキョロした舞佳は、東の方を指差した。

「あ、思い出した。あっちの方に一件あったはず…!」

 舞佳の指先には、遠くあるものの児童相談所らしき看板があった。

「あ、そうそう…そっちの方です!舞佳さん、よく見つけましたね!」

「じゃあ、そこに行くか?」

「うん…!助けが呼べるかも…!」

 縁人は行く気満々だ。


 …が、一人行くのに怖気付いている人物がいた。

「待ってください…!今回は、やめておきませんか?」

 舞佳だ。

「え…?」

 これには、楚世歌も不思議そうな顔をした。

「…もしかしたら、スズやサチが回り込んでいるかもしれません」

 舞佳はいつもとは少し違って、深刻そうな顔つきだ。


 …ああ、そうだ…私、あの時…


 舞佳の心臓が音を鳴らし、手が震え始める。

「…児童相談所に行ったら、スズがいた時があったんです…」

「え、そんなことがあったのか⁉︎」

 驚く傑。対照的に冷静な縁人は、

「で、でも…追いつかれても、そこで助けを呼べれば助かるのでは…?」

 と訊いた。

 舞佳は、怯えたような瞳をして、大袈裟に首を横に振った。

「ダメです…相談所に入れないどころか、叫ぶことすら…」

 怖かった。

 ようやく助かると思ったのに、口を塞がれた、あの時。

 息ができないほど、ギュウギュウ押さえつけられて…


 死ぬかもしれない。


 …そう思った。




「…嘘でしょ…?じゃあ、私たち、どうすれば良いの?」

 楚世歌の声が震えている。

 そろそろ、はち切れてしまいそうだ。


 …あの時、私は確か…こっちに行けば良いと思ったんだ。


「こちらに行ってみましょう…大通りの方なら、交番があるかもしれません。少なくとも、あの二人から距離を置くことが出来ます…」

 舞佳の指先が夕日を指している。

 進むべきは、高校の校舎に顔を向けた時、左手に見える道だ。

「行ってみるか、あんな奴らに会うのはごめんだし」

 そんな傑の言葉と共に、四人は歩き出した。

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