第42話

「舞佳、入りなさい…!」


「……」


「早く、家に入りなさい!!」


「……」


「ちょっと、舞佳!聞こえているの⁉︎」


「…………」


「舞佳っ!あなたって子は…!」


「……………………」


「舞佳、入りなさい!!!」


「嫌だっ!!!!!」


 パシッ!!


 舞佳の拒絶を合図に、スズの振り上げた手が舞佳の頬を貫いた。


「痛っ…!」


 舞佳の頬に稲妻のような痛みが走る。


「痛いのが嫌なら言うことを聞きなさい!!!舞佳!」


「嫌だ…!」


 それでも、舞佳は抵抗し続ける。


「中ににいる友達が…どうなっても良いのね」


 舞佳は力なくため息をついた。

 そこには、怖さや恐れよりも、「呆れ」の感情が大きかった。

「どうなっても良いわけないでしょ」

 舞佳は、スズのことが、心の底から嫌いだと感じた。


「じゃあ、入りなさい!」


 スズに腕を強く掴まれる。


 また、いつものパターンだ。私の大切なものを傷つけていく。抵抗する理由はもうない。灯真は、もう、消えてしまったのだから。


「早く歩けないの…!?」


 イライラするスズと比例して、舞佳を掴む腕はギリギリと痛み、そして、引っ張られた。玄関に到着すると、スズは乱暴に舞佳を突き飛ばした。




 その後も…靴を脱いで上がる時も、廊下を歩く時も、スズは嫌がらせのように、八つ当たりするように、舞佳を突き飛ばした。

 舞佳は、スズに怒りと嫌悪感を抱いていたが、何回目かときに、いよいよそれが爆発した。スズが舞佳を突き飛ばそうと手を向けたときに、舞佳は自分の身体を思い切りスズに体当たりさせた。


まさか、やり返されると思っていなかったスズは、盛大に背中を廊下に打ちつけた。

「あなた…いつから、そんな悪い子になったの!!」

 痛みに苦痛の表情を浮かべながら、スズは、舞佳に怒鳴った。

 …だが、舞佳は絶対に返事をしなかった。ひたすら無言を貫き通した。

「舞佳!!」

「何とか言いなさいよ!」

 そう言い続けるスズを無視して、リビングに入った。


「舞佳…あなた、自分の立場を分かっているの?」

 リビングには、サチがいた。サチは、憎しみに満ちた冷たい視線を舞佳にむけていた。

 舞佳は、一言も返さない。

 目の前には、以前と同じような光景が広がっていた。

 机を囲んで、みんながいて。

 …みんな、スズとサチに怯えている…。

 舞佳は不機嫌そうに、いつもと同じ机の端の方に座った。

「スズさん…だから言ったでしょ?甘やかしちゃダメだって」

 サチは、起き上がれないスズに手を貸しながら、珍しく呆れた声を出した。

「ええ、本当ね…ちゃんとサチの言うこと聞けば良かったわ」

 スズは力無くうなずいた。

 舞佳は、二人を睨んでいた。


 そんな舞佳の瞳を見て、一番驚いたのは…

 スズでもサチでもなく、周りにいたみんなの方だった。


 みんな…

 今いるのは、和花、傑、楚世歌、縁人、彦…の五人だ。

 …もう誰も失いたくはない。


 

 スズとサチが、舞佳とどういう関係にあるか、二人は一体何者なのか、もう、そんなことはどうでもいい。

許せない。許せない。

 舞佳は、何が起きてもみんなを守る、と決めた。そして、何が起きても、あの二人のことを絶対に許さない。真可、千太郎、にしたことを、灯真が消える何かをしたことも、同じ痛みを苦しみを、絶対に、あの二人に思い知らせてやるんだ。


 …二人は、舞佳の、睨む瞳を見つめ返して「反抗的な態度だ…」

と、つぶやいた。


二人の手がごそごそと動いている

 …サチがスズに、錐を手渡している。

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