第38話
舞佳は、スマホをいじりながら、あることに気付いた。日付けが表示されていないのだ。
千太郎の投稿を読むのはいったんやめて、スマホの電源を落として再起動した。
やっぱり、日付けが表示されない。舞佳は電源を入れては落として、入れては…を繰り返していた。
設定を変えたり…元に戻したりしたが…
相変わらずスマホに日付が表示されないのだ。おかしいなぁ、首を傾げながら画面を見つめて、再起動された画面が表示されるのを待っていた。
…が、一向に日付が表示される様子がない。
メールとか他のアプリは、受信日が表示されているかしら…
そう思って、メールの受信ボックスを試しに開いた。
今日届いたメールは無かったが、十数日前のメールなら存在する。
そう…あの不採用通知だ。舞佳は残念な気持ちを思い出しながは、不採用通知のメールに目をやる。
「やっぱり、ダメか…」
やはり、受信日は表示されていなかった。
いつまで経っても日付が表示されないのは何故なのだろうか、バグなのだろうか。
バグにしては直らなすぎるし、世間やネットニュースも騒いでる風もないし…
ここまで、舞佳が日付を確認したかったのには理由があった。
…以前、楚世歌と一緒に動画を見た時と同じ理由。
あの時、舞佳は大学生なのに対し、舞佳と同じ歳であるはずの楚世歌や傑と縁人は高校生だった。舞佳と同学年であるから、本当は、みんなは大学生のはずだ。
先程、見ていた千太郎の投稿でも「千太郎は五年前、大学生だった」という点で引っかかった。なぜなら、舞佳の部屋にいた千太郎は、窓の外を眺めて写真を撮っていたあの千太郎は、大学生だった。
俺のクラスでもかなり流行ってるんで
ちょっと大学の…サークルで呼ばれちゃって
確かに、そう言っていた。
だが、ブログに投稿された文章…
『大学生時代のサークルのみんなで』
『大学生の時も、こんな感じで遊びまくってたなぁ〜笑 もう五年も経つのか〜』
この文章からして、今の千太郎は大学を卒業していて、もう大学生ではないのだろう…。
では、舞佳の家にいた千太郎は、なぜ”大学生”だったのだろうか。
絶対的に、ありえないことが起きている。
最近は、いつもありえないことばかりが起きているが…
舞佳の頭にひとつの考えが浮かびあがっていた。
いや、もう随分前から気付いていたけれど、気付かないふりをしていたのかもしれない。頭の中で、舞佳は自分の考えを否定しようとして、でも、それを否定しきれずにいた。
それは
みんなが、同じ時間を歩んでいない…
ということだ。その考えは、スズやサチとはまた違う怖さを感じさせた。
身近にある恐怖に似たものを感じ、舞佳は寒気がした。
そして、舞佳は、こう考えたのだ。
…もしかしたら、自分は、パラレルワールドに紛れ込んだのだろうか…?
それとも、タイムスリップをしたの…?
そんな物語みたいな話が本当にあるの…?
…なんて。
だから、今の日付けを確認したかった。
自分が今、何年の何月何日で生きているのか…
楚世歌たちが高校生なら、自分が高校生だった、三年前の日付がスマホに表示されているはずだ。
千太郎が大学生なら、自分が中学生だった、五年前の日付が書かれているはず。
…そう思って。
だが、結局…何をしても、日付は表示されなかったわけだ。
もちろん、千太郎のブログにも。
昔の投稿には「○年前」と表示されているのに、最近の投稿には日付が書かれていない。
舞佳の家には、テレビやカレンダーが無い。
自動車も持っていないから、ラジオを聞くこともできない。
つまり…スマホ以外に日付を確認する手段が無いのだ。
「私、本当に変な世界に飛ばされちゃったのかも…」
舞佳は、漠然とした恐怖を感じながら呟いた。
ちなみに、ブログからは、千太郎の写真に映っていた少女についての情報はもう得られなかった。
千太郎の近所に住む友達、自分と同じペンダントをつけている少女、ということくらい…。
「でも…どこかで会ったことある気がする」
舞佳の既視感は拭えなかった。
舞佳は、なぜこの世界に来てしまったのか。
いつからこの世界に入り込んでしまったのか。
違和感があるとするならば…
「あっ!そういえば…!」
舞佳が何かに気づいたようだ。
…どうして、今更気づいたんだろう…?
そう疑問に思いながら、スマホの画面をタップした。
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