第34話
舞佳が、家に戻ると
「まいかおねえちゃん!」
舞佳の元に、灯真が飛び込んできた。
「わっ…!」
舞佳は驚きながらも、その小さな身体をしっかりと受け止める。
「灯真くん…!」
「もうだめだよ…かってに、どこかへいっちゃ…」
灯真は、舞佳をもう絶対に離さないという風に、舞佳にしがみついていた。
小さな肩が小刻みに揺れている。…泣いているようだった。
「ごめんなさい…」
舞佳は、灯真を強く抱き返した。
「舞佳!…良かったよ、無事に見つかって」
リビングに入ると、ホッとした顔の楚世歌がお迎えしてくれた。
楚世歌は同じ部屋にいる和花へも、良かったね、というように顔を見合わせた。
和花が、傑に向かって言う。
「ありがとうね、舞佳さんを見つけてきてくれて」
傑は、和花”先生”に褒められたような気持ちになって、こそばゆい気持ちになった。
「いえいえ…」
舞佳の後ろで、照れくさそうにして立っている。
「本当に、ごめんなさい…」
舞佳がもう一度頭を下げた。
舞佳が戻ってきたことで、場の空気は少し穏やかさを取り戻した…ように見えたが…やはり、どこかよそよそしかった。
それもそうだ…。
スズとサチの執拗さを目の当たりにしたのだ。
お嬢様の雰囲気とセレブさを兼ね合わせた二人から到底想像ができないような憤怒の感情。
壊されていく家のなか、和花や千太郎に対する残忍さ、真可のような小さな子に対する残酷さ、そして、最後は、真可も千太郎もいなくなってしまった…様々なことが一気に襲いかかって、感情を空虚にし、そして、残酷に疲れさせた。
みんなは、それぞれ物思いにふけっていた。
この先、一体、どうすればいいのか。
何かが、また起きてしまうのか。
また誰かが、スズやサチのエサとなり、消えてしまうのだろうか。
どうして、恐ろしい思いをしながら、みんなは舞佳を救おうとしてくれるのか。
しばらくの間、沈黙の時間が続いた。
気がつくと、辺りは夕日に染まり、そして、あっという間に夜を連れてきた。
灯真や彦は疲れきって眠ってしまっていた。
和花は、二人にそっとタオルケットをかけた。
「私も、ちょっと…先に寝るね」
いつも元気な楚世歌も、さすがに疲れを隠せないようでその場を離れていく。
今日は一日、ご飯も食べていない。
…みんな胸がいっぱい、という感じだ。
いただきます、美味しい、そう言い合ってたのが遠い昔のことのようだ。
「まりかさん、定ちゃん、まだかな…」
昼間の出来事が過ぎ去り、興奮した頭は疲労感に包まれていた。
夜の闇がさらに怖いものを連れてきそうで、舞佳は不安になって、呟いた。
まだ、あの二人は帰ってきていない。
「…私もお先に…失礼します」
具合が悪くなってしまいそうで、舞佳も寝室へと向かった。
寝てしまおう。眠ってしまえば、全て忘れることができる。
きっと朝になれば…朝がきたら、いつものように可愛い笑顔の真可や
無口だけど優しい千太郎とも会えるはずだ。
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