第33話

 舞佳は、しばらく外を走っていた。

 視界の隅から隅まで…ずっと目を凝らしていた。

 時々、振り返ったりして…

 ずっと走っていた。


 千太郎を探しているのだ。


 まだ、外にいるなら…見つけ出したい。

 そう考えたのだ…

 真可のように…消えてしまう前に。

「真可さん…」

 真可は…本当にいなくなってしまったのだろうか。




「千太郎さん…!」

 呼びかけるが、返事が聞こえるはずもない。

 …そもそも、こんなに適当に走っていたところで、千太郎の元へ辿り着けるわけない。

 でも、どうしても見つけ出したかった。

「千太郎さん…!」

 あんなに身体を張って、守ってくれた千太郎…。

 スマホをいつもいじり、性格が暗そうに見えた千太郎だが。

 舞佳やみんなを守るために、スズに傷つけられた身体で、もう一度立ち向かってくれたのだ。

 …なんて、勇敢な人だろう。


 今度は、私が千太郎さんを助ける番だ。

 でも、どうやって。

 消えていく人をどうやって助ければ…


 …考えるのはやめよう。

 今は、千太郎を見つけることが先だ。

 もうちょっと走れば、見つかりそうな気がした。


 もし、スズやサチに襲われて…消えているとしたら…

 いや、そんなことない。

 探せば…見つかるはず…。


 はず…。




「舞佳!」

 後ろから、大きな声が聞こえた。

 一瞬、スズが来たのかと思ったが…男性の声だ。

「えっ…!」

 振り向いたと同時に、腕を強く掴まれた。

「嫌っ!」

 腕に圧力が掛かり、舞佳は怖くなって振り解いた。

「大丈夫だ!怖がらないで…!」

 相手が慌ててパッと手を離したのが分かった。

 顔を見てみると、傑だった。

「傑さん…?」

 傑は難しそうな顔をして、小さく手招きをした。

「舞佳…帰ろう。ここにいても、またスズとやらに襲われるかもしんねぇだぞ?」

「で、でも…」

 舞佳は少し躊躇っていた。

「良いから、行こうぜ」

 傑は、また舞佳の手を掴んだ。

「きゃ…」

 思わず声が出て、腕がビクンと動いた。

「あっ、悪い…」

 また、慌てて手を離した。

 舞佳はうつむいて、その場から動こうとしなかった。

 傑は頭を掻きむしって、困った様子を見せた。

 だが、舞佳に向き直ると、

「舞佳に怖い思いをさせるようなことして、悪かった…だが、このままじゃ舞佳が危ないんだ。だから…帰ろうぜ…」

 と、話した。

「大丈夫だ…舞佳の大切な人は、きっと帰ってくる…」

「ここで、あいつらに襲われたら、千太郎の努力が無駄になる…」

 自信無さげな、寂しそうな傑の姿に、舞佳は、


「はい…分かりました」

 諦めたような、悲しいような…なんとも言えない表情で、うなずいた。

「悪いな…」

 傑はまた困った顔になり、家へと足を運び始めた。

 舞佳は、その後ろをついて行った。




「ごめんなさい…真可ちゃん、千太郎さん」


 そう言いながら…舞佳は、泣いていた。

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