第31話

 これには、楚世歌も灯真も動きを止めていた。


 サチは後ろでクスクス笑っていたが、もう舞佳の耳には入ってこない。




 ガンッッ!!!


 バダン!


 大きな音がして、舞佳は我に帰った。

 真可は、もういない。

 代わりに…リビングのドアのように、別室へのドアも横たわっている。

 その中から、たくさんの人が飛び出してくる。

 時に、転がりながら出てくる人も。


「うっ…ゴボッ…」

 リビングの端まで転がり、苦しそうにしている…千太郎だった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 モザイクのような鳴き声も響いてくる。

 彦が誰かの足元で泣いていたのだ…。

 その足とは…

「ああ、もう!うるさいわね!」

 足の上を辿っていけば分かる…スズだ。

 スズのその足は、彦を蹴り飛ばした。

「ううっ…うう…」

 顎を強く蹴られた彦は、顔を押さえていた。

「やめてっ!!」

 …パシッ!!

 舞佳がたまらず叫び、サチからの平手打ちを受けた。

「ダメな子は、黙りなさい」

「う…!」

 だが…舞佳は諦めなかった。

「やめて!お願い、もうやめて!」

「黙りなさい!!」


 ドン!


 とうとう、舞佳も床に打ち付けられた。

 サチの足に踏みつけられ、体を動かせそうにもない。

「やめて、やめて!」

 それでも、叫び続けた。




「どうして…どうして止めさせるの!」

 スズが動きを止めたのは、舞香の声が枯れ始めた時だった。

「私は…あなたのためを思っているの!みんな、舞佳にとって悪い人なの!だから、私があなたのために、こうやって…」

 必死に弁解しようとするスズ。

 だが、そんなスズの話など、聞きたくもなかった。

「私のためになんか…!」

 舞佳は、スズの方へ顔を向けようとした。

「うっ…!」

 その途端、胸部に痛みが走り、息が苦しくなった。

「黙れ!」

 サチの足にギュウギュウ踏みつけられているのだ。

 だが、それを止めたのは、

「ちょっとサチ、やめてよ!私の舞佳に傷をつけないで!」

 スズだった。

 サチは不思議そうな顔をしたが、またため息をつき、

「ダメですよ…そうやって甘やかしていては…」

 と言った。

 舞佳には、訳がわからなかった。


 さっき、自分の腕に錐を突き立てたのに…?


 そう思い、そっと腕を見てみると…

 赤い点が…一瞬見えた。




「はぁ…!」

 その時、急に息が出来なくなった。

 …サチが足に力を入れ始めたのだ。

「はぁっ…!はぁっ…!」

 苦しい。

 このままじゃ、かなり危険かもしれない…

 もう、前が見えない…

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