第27話

「な、なにっ⁉︎」

 突然の響き渡る声に、舞佳は後ずさった。

 和花も驚いた様子で、ドアを見つめている。


 行ってはいけない気がした。

 …が、行かないわけにもいかないと思った。


 タッタッタ…


 舞佳は急いで立ち上がり、玄関へ走り出した。

 和花も、舞佳の後を追った。




 今の声は、千太郎の叫び声だ。

 悪い予感が当たらなければ良い…が。






 当たってしまったようだ…






「嫌っ!千太郎さん!」

 悲鳴のような声をあげてしまった。


 玄関には、倒れ込む千太郎と…


 スズとサチがいた…。




「お邪魔するわよ、舞佳」

 なんの躊躇いもなく、スズは楽しそうに家の中へと入ってきた。

「やめてっ!千太郎さんに何をしたの!」

 舞佳は首を横に振り二人の侵入を阻止しようと抵抗するが、不機嫌そうなサチに睨まれる。

「スズさんがどんな想いをしているかも、知らないくせに…」

 舞佳は、これ以上は無理だと感じて、逃げようと身を翻した。

「舞佳さん!」

 和花の声がした。和花は、リビングのドアノブに手をかけて、こちらに早く来てと舞佳へ手招きをする。その先は、いつものリビングだ。助かる…!そう思い、無我夢中でリビングに飛び込んだ。


 ガチャ…!


 和花は素早い動きでリビングのドアを閉めて、さらに鍵を掛けた。

 だが、和花はリビングのドアノブから手を離さない。


 ガチャ…


 すぐに鍵の開く音がした…

 開錠されたのだ。


「やっぱり…」

 和花が呟いた。

 そして、ドアが開かないように全力で力を込めた。

 …スズは、リビングのドアの鍵も持っていたようだ。

 和花はそれを知っていて、鍵を掛けた上でドアを押さえつけた。


 ガンッ!ガンッ!


 蹴り飛ばすような、大きな音が響く。

 スズたちは、ドアを突き破ろうとしているようだ…。

 舞佳はギュッと目を瞑って、耳を塞いだ。

「もう嫌…!やめて、やめて…!」




 ガンッッ!!


「きゃっ!」


 とてつもなく大きな破壊音。


 そして、和花の甲高い声がした。


 ドン!


 舞佳の傍で鈍い音がする…。

 目を開くと、そこに横たわった和花が…


 消えかけていた。


「邪魔よ、クズ教師」

 スズの憎むような顔が目に焼き付いた。

 その後ろではドアが倒れていて、蝶番はもう…ボロボロになっている。


 スズとサチが、またやってきてしまった。


「わ、和花さん…!!」

 舞佳は、消えかけている和花に近寄った。

 声をかけると、和花が徐々に元の姿へと戻っていき、やがて意識を取り戻した。

「ま、舞佳…さん」

 ゴホッゴホッと咳き込んでいる。

 舞佳は和花の背中をさすりながら、後ろを見た。

「あら、あの病人は…?」

 スズがキョロキョロしていた。

 すぐに、サチがリビングへと入ってきて

「どうやら、出て行かれてしまった模様です。誘拐犯と一緒に…」

 と、顔をしかめた。

「ふーん…」

 スズはつまらなさそうな顔をしたが、すぐに明るい表情になった。

「まぁ、いいわ。あの二人には、病院で苦しんでもらいましょ」

 そう言って、指先で何かをクルクル回した。

 …ボールペン?

 いや、違う。

 きりだ…細長く尖った、四つ目錐…。

 もちろん、カバーなどついていない。

 まさかとは思うが…あれで、千太郎を…?

「あ…あ…」

 そう考えると、体が震えてきた。

 恐怖に縛り付けられているように…。

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