第17話

 しばらくの間、リビングに暗く重い、沈んだ雰囲気が漂っていた。

 まりかもスマホを睨みっぱなし。

 どうやら、誰かと連絡を取っているようだが…

「はぁ…はぁ…」

 舞佳の呼吸はすっかり荒くなっていた。

 何かに襲われそうになり、生きた心地がしない…というような気分だった。

 心臓は既に暴れ出しており、今にも破裂しそうだった。




 ピンポーン…


 そんな中、聞こえた音がそれだった。

 インターホンの音。


 ピンポーン…


「出ちゃダメ」

 まりかの声が木霊する。


 ピンポーン…


 だんだんとインターホンの音が危険信号を物語ってくる。

 無意識にも、みんなは息をひそめ始めた。


 ピンポーン…


 ピンポーン…


 ピンポーン…


 六回目のインターホンの音。

 宅配業者ではないことが完全に証明され、太鼓判すらも押された。


 ピンポー…ン…


 ピンポー…ン…


 ピンポー…ン…


 音色すらも変わってきている…。

 嫌でもこの状況を押し付けられ、現実逃避すら許されそうにない。


 ピン…ポー…ン


 ……………


 ……………


 それを最後に無音が響いた。


 何事もなく過ぎ去って…


 欲しかった。




 ガチャ…


「…!?」


 ギィ…




 いち早く反応したのは、まりかだった。


「どうして…!?」


 叫ぶような、絞り出すような声に…舞佳は顔を上げた。

 まりかの顔は、リビングのドアの方に向いている。


 舞佳は、ゆっくりと、ゆっくりと、振り向いた。

 リビングのドアの方へ…




「嫌っ…!」


 小さな声で、悲鳴を上げた。


 そこにいたのは…


「何を驚いているの?…こんなドアくらい開けれるわよ」


 華やかな服装に…自分に似た髪型…お嬢様のような女性。

 昨日のあの見間違いにピッタリと重なる…


 あの…”誰か”が目の前に立っていたのだ。


「お客様が来ているというのに…開口一番がそれですか?」


 ”誰か”の後ろからもう一人現れる。

 お嬢様のような”誰か”とは違って、落ち着いた服装の…セレブな女性。


 豪華な身なりの若い女性二人が、束の間笑った。


 その危険な気配は、まりかを含め全員が身を寄せ合う程伝わってくる。

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