第18話
「来たわよ」
お嬢様のような女性が真っ先に声を掛けたのは、
「舞佳」
…舞佳だった。
「え…!」
舞佳は逃げ腰状態だった。
この人たちは…誰なのだろうか。
「とことん、ダメな子。こちらは、あなたが出てくるのをちゃんと待っていたのに…まさか居留守を使うなんて…」
セレブな女性は、呆れ顔をして舞佳に近づいていく。
「まぁ、待ちなさい。舞佳は、久々に私に会って緊張しているのよ」
お嬢様のような女性が止める。
セレブな女性は渋々引き下がった。
「舞佳、久しぶりね。元気にしてた?」
お嬢様のような女性は、にこやかに声を掛けてきた。
だが…舞佳は、まだ状況を受け入れられなかった。
「嫌…!」
吐き出すように…呟いた。
「嫌だとはなんですか…!」
セレブな女性が怒りを露わにする。
「やめてください」
舞佳の前に立ったのは…まりかだった。
「あなた…誰?」
まりかを憎むような瞳で見つめる女性。
だが、まりかは屈しない。
「舞佳が怖がっていることくらい…あなたが一番分かるでしょ?」
「他人…あ、誘拐犯のあなたには、分からないわよねぇ…舞佳は緊張しているだけなの。そこをどいてくれるかしら?」
誘拐犯、まりかが?…何を言ってるのだろうか?
舞佳は目の前にいる女性たちこそが自分にとって危険で恐怖を感じる存在だと思った。
まりかは首を横に振った。
「お断りします」
まりかは絶対に動こうとはしない。舞佳を守る壁のように。
女性が足を止めている間に、和花が舞佳に駆け寄った。
「舞佳さん、行きましょう」
舞佳はうなずいて答えた。
和花が舞佳の手を取り、その場から去っていく。
「どこに行くおつもりで?」
セレブな女性が声を掛けるが、和花と舞佳は無視してリビングから出て行った。
それを横目で見ていたお嬢様のような女性は、ため息をついた。
「あのクズ教師」
そう呟いて…。
「どうされましょうか…スズさん」
セレブな女性が駆け寄る。
「いいわ…サチ、いつも通りやって」
明らかに不機嫌な声が通る。
「分かりました」
セレブな女性…”サチ”は頭を下げた。
そして、お嬢様のような女性…”スズ”をリビングに残し、リンは出て行った。
まりかはサチが出て行くのを見届けると、わざとしゃがみこんだ。
恐怖で足が崩れてしまった、という風に。
スズから死角になった方の手でスマホを操作した。
しかし、まりかの一瞬の動きをスズは見逃さず、低い声で脅すようにこう言った。
「舞佳の着けているペンダントがただのペンダントではなく…毒針が仕込んであったとしたらどうする?」
スズは、高圧的に恐怖を煽るように、まりかに近づいた。
「あなたの不信な行動が、舞佳を苦しめることになるかもしれないわよ」
まりかはスズを睨みつけながら
「あなたたちに、そんなことが出来るとは思えないですが」
と言い返す。
「…そうね。私たちにそんなことは出来ないわ…でも、それと同等の悲劇が起きることを覚悟しなさい。あなたたちも、全員…」
スズはクスクスと笑った。
「携帯電話の電源を落としなさい。舞佳のことが好きなら、今すぐに。
出来るわよね?」
リビングに残っている人たちを見渡す。
全員、スズを睨みつけながら、スマホやキッズ携帯の電源を落とす。
そして、机の上に次々と置いていった。
「みんな、良い子ね。舞佳も、この子たちのように素直に言うことをきく子になれば良かったのに」
「あなたもよ」
「隠し持っている携帯の電源を切りなさい」
スズは、そういいながら、まりかの口と鼻先まで近づいた。
まりかは、チッと舌打ちしながら、携帯の電源を落とした。
傲慢不遜なスズの存在と言葉に、まりかの手は怒りに震えながら、硬くギュッと握られている。
「誘拐犯さん…?これからは、しゃがんだすきにスマホを操作するなんてこと、しないでね?」
「……」
スズは、不適な笑みを浮かべた。その笑みは、ここいる全員に不安と恐怖を植えつけた。人と人とのコミュニケーションなど通じない。
あるのは絶対服従のみ。
まりかは、ただひたすら…スズを黙って睨み続けた。
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