第2章 終わりの始まり

第16話

 翌朝。


 みんながガヤガヤするリビングに、舞佳はペンダントを軽く引っ張りながら現れた。

「おはよ…」

 声を掛けたのは、まりかだ。

 …だが、舞佳を見るなり、挨拶が止まった。

「おはようございます…」

「舞佳…そのペンダントは何?」

 まりかが少しぎこちなく訊いた。

「これ…気が付いたら、ついていて…」

 また引っ張り出す舞佳。

 改めて、留め具など無いことがはっきり分かる。

「いつの間にかってこと?」

「そうです…」

「ふーん…」

 まりかは、しばらく気まずそうにうなずいた。

 その後、少しリビングの方を見て、

「一緒に飲もうか」

 と、手招きした。


「飲んで」

 いつものように、舞佳に湯呑を渡す。

 …だが、今日のまりかの様子は変だった。

 心なしか、周りの人もペンダントに不安げな視線を向けている。

 舞佳も気が気でなく、もう一度ペンダントを引っ張った。

 そして、やはり、外せないことを痛感する。

「どうして…」

 そう呟く舞佳の傍で、スマホがピコン…と音を鳴らした。

「…?」

 画面を見てみる。

「え…」

 何もない。

 当然、通知もゼロ件だ。

「また…?」

 スマホを伏せて、激しく動く心臓の音を聞いた。

「何が…起こってるの」

 舞佳の様子に心配そうな視線が向けられる。

「舞佳、どうかしたの?」

 楚世歌が訊いた。

 両者ともただならぬ雰囲気であることが、他の人にも伝わっていく。

「舞佳」

 尖ったような声と一緒に、誰かの手が舞佳の腕を掴んだ。

「嫌…!」

 うずくまりそうになる舞佳。

 掴んでいる腕の先は…まりかだった。

 険しい表情だった。舞佳の怯える顔にすら容赦なく、

「誰からの通知?」

 と切り込んだ。


 舞佳は息を飲み込んだ。

「…通知じゃなかったみたいです…」

 絞り出したような声。

 まりかは慌てて腕を離し、焦ったように周りを見渡した。

 その後、みんなを見渡して…机に向き直った。

「今日は…みんな、玄関のドアを決して開けないで」

 深刻な顔つきだった。

 みんなは、お互いに顔を見合わせながらうなずいた。

 ただ…舞佳だけは、固まったままだった。

「舞佳」

 まりかは声を掛けた。

 舞佳の様子を気にする暇もないようだった。

 舞佳の体は、前のように震えている。返事ができない。

 それでも、まりかは容赦しない。

「今日は、みんなをここに泊まらせるから」

「みんなもそれでいいね?」

 まるで、怒ったかのような声。

 部屋の雰囲気が一気に暗くなっていった。

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