第15話

「今日は、美味しい食事をありがとう。楽しかったわ」

 食後の片付けが終わり、まりかは舞佳の手を取った。

「また、明日も作ってね」

「はい、良いですよ」

 舞佳が嬉しそうに返事をすると、まりかは安心したようにうなずいた。

 そして、手を離すと、申し訳なさそうに

「…悪いけど、今日はこれで帰らせてもらうわ。少し用事があって…」

 そう言った。

 舞佳はもう一度微笑んだ。

「分かりました。また来てください」

「…ありがとう。舞佳に会えて良かった」

 …その時、まりかの頬を”何か”が伝った。




 窓からほんのりと日が射していた。

 薄暗くなりつつあるリビングの端に、舞佳は一人で立っていた。

「まりかさん…」

 最後に見た、まりかの頬を伝ったもの…

 何かが付いている、では済ますことが出来なかった。

「…!」

 ふと、舞佳の頬が刺すように冷たくなった。

 反射的に手を当てると…

 指先が濡れた。

「え…どうして…」

 間違いなく、泣いている。涙がこぼれている。

「……」

 さっきのまりかにも…同じようなことが起きていたのだろうか。




 バサッ…!


 舞佳は、ベッドに飛び込んだ。

 涙を流してから、急に疲れが出てきてしまったのだ。

「私…どうしたんだろう…」

 涙を拭って、ぼやける視界を擦る。

 そのまま、仰向けに寝転ぶと…


 視界の端に”誰か”が映った。


「きゃ…!」

 思わず、声を出した。…が、そこには誰もいない。

 体を起こして、周りを見てみる。…もちろん、自分以外いない。

「…え、見間違い?」

 見間違いでも、つかの間、くっきり見えてしまうことがよくある。

 …怖くなって、布団の中に潜り込んだ。


 体を丸めた時…

 首元がヒヤッとした。


「…!」

 驚いて、首に手を当てる。

 掴んだのは、細いチェーンだった。

 チェーンを指先でたどると、胸元で丸い何かに触れた。

「これ…」

 布団から顔を出して、丸い何かを見てみると…

 ペンダントだった。

 ほんのりと差し込む日の光に、丸い宝石がきらきらと反射する。

「こんなペンダント…私、つけてたっけ?」

 少し怖くなって、外そうとしたが…出来なかった。

 留め具に、なかなか辿り着けないのだ。

 チェーンの長さも短く、そのまま外すことも難しそうだ。

「…もしかして」

 舞佳はチェーンに触れ、そのまま先を辿っていった。

 …そして、一周した。

 舞佳の顔は…だんだんと青ざめていく。

「嘘でしょ…?」

 分かってしまった…。


 このペンダントに、留め具が無いことを。


 つまり、外せない。




「舞佳、私も明日行くからね…?」

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