第13話

 お昼ごろになり、舞佳は遠慮がちに言った。

「あの…たまには、ご飯作りましょうか?」

 今までお昼もお菓子しか食べなかったが、最近みんなが仲良くなってきたこともあり、舞佳は声を上げた。

「い、良いんですか…?」

 最初に聞こえたのは、千太郎のどこか申し訳なさそうな声だった。

「食べたいかも…」

 次に聞こえたのは、縁人の声。

 その声に反応するかのように、傑の声が響く。

「いや、舞佳に苦労させるわけにはいかないだろ」

 と、縁人を睨みながら。

「いえ…大丈夫ですよ。最近は、上手く作れるようになったし…」

 舞佳は引き下がりそうになる。

 やはり、急に手料理をふるまうなんて失礼だっただろうか。

 静かになっていく空気に、光を当てたのは和花だった。

「良いじゃない。せっかくだし、みんなで舞佳さんの料理をいただきましょう?」

 呼びかけてくれたことに、ホッと胸をなでおろす。

 それと同時に「じゃあ…」と皆がうなずき始めた。

「本当に良いのか?」

 最後に、傑が訊いた。

「はい、全然大丈夫ですよ」

「なら…頼む」

「はい…!」

 またリビングが賑やかになり、舞佳はキッチンへ向かった。


 野菜を出そうと、冷蔵庫の野菜室に手をかける。

 タンタンタン…誰かが走るような足音が舞佳に近づいてきた。

「てつだうよ!」

 舞佳が振り向くと、そこには楽しそうな顔をした灯真がいた。

「ありがとうございます…でも、大丈夫です。出来上がるまで、待っていてください」

 舞佳がしゃがみこみ、優しく声を掛ける。

 すると、灯真は首を横に振って、

「ぼく、おてつだいしたい!」

 と、手を合わせた。「おねがい!」と言っているようだった。

「じゃあ…」

 舞佳は踏み台を用意すると、シンクの前に置いた。

「お米を洗ってもらえますか?」

「うん!」

 元気よく踏み台に乗った灯真。

 舞佳は、その目の前に米を入れた炊飯器の内釜を置く。

「洗い方は分かりますか?」

「うん、しってるよ。いっかいめは、はやめに。にかいめは、ゆっくり…でしょ?」

 灯真は手をかき混ぜるように回して見せる。

「そうです、お願いします」

 舞佳がそう言うと、早速、灯真は水を入れ始めた。

 慣れているような手つきで、米を洗っていく。

「上手ですね…!」

 舞佳が拍手をすると、灯真は照れたように

「うん…!」

 と返した。

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