第19話 何もしないのも、し過ぎるのもよくない
SIDE A. 親の気持ち
「あら? 下りて来るみたいね。じゃあ、この話はここまでね。また、何か聞きたいことがあれば、いつでも教えるわよ。もちろん、別々でもね!」
「「……」」
「あら? 二人一緒がいいの?」
「とりあえずは……それでお願いします」
「私も、それで……」
「ふふふ、分かったわ。私は立場上、どちらかだけを応援することは出来ないけど、頑張ってね」
「「はい!」」
「……まー君も大変だな」
「ねえ、そんなところまで似なくてもいいのにね」
そんなことが奈美達と母さんの間で話されていたことも知らない俺は居間に入る。
「大が泣き疲れて寝てしまったみたいだ。ん? どうしたんだ、奈美? 由美も顔が赤いぞ?」
「な、なんでもないわよ!」
「なんでもないことないだろ? なあ奈美、何があったんだ?」
「べ、別に何もないわよ」
「お前まで……母さん、二人に何をしたんだ?」
二人に聞いても埒が明かないと母さんに聞いてみるが、ニヤニヤするばかりで答えてくれない。
「母さん?」
「何? 私は何もしてないわよ。どちらかと言えば何もしてないまー君が悪いんじゃないかな?」
「母さん? 何を言ってるの。父さんはここで聞いてたんでしょ。教えてよ」
「……」
ずっと居間にいたはずの父さんに聞いてみるが、どことなく目が泳いでいる。それに腰のところを母さんがずっと抓っているのが見える。
「すまん、俺からは何も言えない。俺の小遣いをこれ以上減らされる訳にはいかないんだ。すまない、まー君」
母さんに抓られながら、俺に頭を下げる父さんを見て、これ以上問い詰めるのが可愛そうになり諦める。
「分かったよ。もう聞かないから。母さん達も特に変なことをしないよね?」
「しないわよ。失礼ね。ねえ」
母さんがそう言って、奈美達、山田姉妹を見る。
「「はい」」
俺も山田姉妹を見るが、二人は俺と目が合うとふいと視線をずらし顔を背ける。
「露骨だな……」
「もう、いいでしょ。そう言えばまだケーキも食べてなかったじゃない。夕飯前だけどいいわよね」
「相変わらず、自由だな~」
そんなことを思っていると家電が鳴る。
『プルル……プルル……』
母さんが立ち上がり、受話器を取り耳に当てる。
「はい。……ええ、そうです。はい? はあ、少々お待ち下さい。まー君、学校から」
「え? 学校?」
「そう、担任の古田先生から」
日曜の夕方に担任からの電話……イヤな予感しかしない。
「ほら、早くしてよ!」
「あ、ごめん」
母さんから受話器を受け取る。
「もしもし、電話替わりました」
『遅い! 俺を待たせるなよ!』
第一声からこれかよとゲンナリするが、相手は腐っても担任だ。態度に出せば余計面倒なことになるのは分かっている。
「すみません。しかし、こんな時間に掛けてくるなんて、明日じゃダメだったんですか?」
『だよな~俺もそう言ったんだけどよ。吉田のご両親がおまえからどうしても話を聞きたいと、わざわざ日曜の学校に俺を呼び出したんだよ。だから、お前も急いで来るんだ。いいな、分かったな』
あれ? 今、担任はなんて言った? 『吉田のご両親』って言ったよな?
「先生。今、ご両親って言いました?」
『ああ、そうだ。お二人で学校に来ている』
「吉田は? 吉田はそこにはいないんですか?」
『いないな。お二人だけだ。それがどうした?』
「すみません! 先生、後でもう一度掛け直します。すみません、切りますね」
『おい! おい、田中、切るなよ、どうい……』
受話器を戻した後に母さんがどうしたのかと聞いてくる。
「担任から、吉田の両親が俺に話を聞きたいと学校に来ているらしい」
「へぇ、行くの?」
「いや、その前に急いで確認しないと……」
おれはスマホを取りだし、土田にメッセージアプリで連絡を取る。
アイツは俺の住所は知らない筈だ。知っていたなら、この前の時に道に迷うことはなかっただろう。そんなことを考えながら、スマホの画面を見るがまだ出ない。なにやってんだよ!
SIDE B.鳴った
スマホがメッセージアプリの着信音が鳴る。画面を見るとまー君からだった。
「なんで通話なの? 私に何か言いたいことでもあるのかな? いや、まさかね。ちゃんと話したのは、今日が初めてだし。でも、なんだろう……ああ、ちょっとまってドキドキしてきた。落ち着いて……」
少し気持ちを落ち着かせている間に結構な時間が経ったことに気付くが、まだ着信音は鳴り続けている。
スマホを手に取り、通話をタップする。
「まー『遅い! いつまで待たせるんだ!』君? え? 何? いきなり、何よ!」
『いいから、聞け! 今は家に一人か?』
「何よ! ちゃんとお父さんとお兄ちゃんもいるわよ。それがどうしたの?」
『吉田がそっちに行くかもしれないんだ』
「え? どういうこと?」
吉田は警察に注意されてご両親が監視しているんじゃないの? それなのに私の家に来るってどういうことなの?
『おい! 聞いてるのか!』
「あ、ごめんなさい。でも、吉田がなんで?」
『今、俺の担任……吉田の担任でもある先生から電話があった。ご両親が学校に来て俺に会いたいと言っていると』
「え? なら、吉田は?」
『学校には両親二人だけらしい。俺が言っていることが分かるな?』
「分かりたくないけど、分かったわ」
『なら、早く親父さんにお願いして、見回りをお願いするんだ。いいな、急げよ!』
「分かった。心配してくてありがとうね」
『奈美の友達だからな。当たり前だろ。いいな、ちゃんと戸締まりも確認しろよ』
「……うん。わかった。じゃあね」
電話を切り、『奈美の友達だから』か……はぁとため息が出るが、ここで落ち込んでいてもしょうがない。急いで戸締まりを確認してから、お父さんに言わないと。
部屋を出て、階段を下りようとしたところで玄関のチャイムが鳴る。
「は~い、どちら様?」
「お兄ちゃん、ダメ!」
普段ならテレビを見てても玄関に出るようなことをしないお兄ちゃんが、玄関に出て鍵に手を掛けているところで叫ぶ私に気付き手を止める。
「なんだ? 亜美、俺だってこのくらいは出来るんだぞ。いいから、ここは俺に任せろ」
「だから、ダメだって!」
焦る私の様子に何事かとお兄ちゃんも玄関の鍵から手を放し私を見る。お父さんも何事かと玄関に出てくる。
「どうした? お客さんじゃないのか?」
「お父さん……」
「どうした? 亜美。まさか、またお前か?」
「親父、違うよ。俺は客の応対をしようとしただけだ」
「本当か?」
お父さんがお兄ちゃんに変な疑いを持つ前に呼吸を整え、息をのみお父さんに話す。
「あのね、さっきまー君から電話があって、もしかしたら吉田がここに……家に来るかもしれないって」
「吉田って、あの子か? でも、なんでそういう話しになっているんだ。彼は当分、ご両親が監視することになっていると思うんだが……」
お父さんも私の話を聞いて不思議そうにしている。
「ちょっと待て。署に電話して確認して貰うから」
そう言って、父さんがスマホを取りだし職場に電話しようとしたところで、玄関のドアが「ドンドンドン!」と激しく叩かれる。
「「「え?」」」
「亜美! いるんだろ! 開けてくれよ! 話がしたいんだ! 頼む!」
「お父さん……」
「ああ、署に電話するまでもなかったな」
「何、呑気なことを言ってるの! 目の前にいるんだよ。早く応援を呼んでよ!」
「ああ、分かった。少し待て! おい、一夫。ちょっと相手しといてくれ。いいか、絶対に玄関を開けるんじゃないぞ。亜美、念の為にチェーンをしてやってくれ」
「うん。そうだね」
「え~俺って信用ないね~」
「「当たり前だ(でしょ)!」」
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