第49話 怒涛の日





「すんげーやりたくないんですけど……」



 俺は山口さんに貸してもらった針を右手に持ち、そう言った。


 すると彼は『はぁ?』と声を漏らし、身振り手振りで答える。



『……やりたくねぇって、さっきまで結構な傷を負ってたんだろ? こう、ほら! 激戦でよ。なのにちょっと針を刺すぐらいでビビってんのか?』


「アレは戦闘の最中での負傷ですし、アドレナリンも出てたんですよ!! 今は戦闘後ですし、俺は超人化したばかりですよ?! しかも見て下さい、超人化したから少しだけ刺そうとしても針が通らないんですよ!! 結構な力を入れないとダメージ入りそうにないから怖いんですけどぉ!?」



 俺は『見てよホラ』と言わんばかりに左手の肌に針を刺そうとするが、中々肌を貫通せずにプニプニするだけで終わる。


 それを見て山口さんは『お~』と感嘆の声を漏らす。



『ほぉ~、お前は本当に超人になったんだなぁ』


「そりゃそうでしょう。でないと、さっきまでの感動シーンが全部茶番になるでしょうが」



 今現在、俺に発現したと思われる異能の"確認作業"を行っている最中だ。


 ミルキーさんの発言が正しいなら、俺には傷を癒す『自己再生』的な異能が目覚めてる筈。


 とは言え、俺は少し彼女の言い分も疑っている。何故なら……



「ミルキーさん、本当にその知識合ってます? 俺は体全体に大きな熱を感じたんですよ? それも肌を流れる血が冷たく感じる程の熱です。なのに、超人化現象では熱を感じないってどういう事です?」


『だ、だって資料にはそう書いてあるし……。ちょ、「超人化の際には体が張る様な違和感を覚え、成長痛の様な痛みを感じる。しかし、それが終わると超人化はもう完成している」……ほら、見てよ』



 言いながら、ミルキーさんは持参した資料を此方に向けた。


 確かに、彼女の今言った事は其処には記載されており、『熱を感じる』だとかの一文は何処にも無い。


 俺は小首を傾げつつ、唸る様にしながら推測を述べる。



「やっぱ、俺が"男"だから超人化の仕様も違うんでしょうか……?」


『そ、その可能性はあるよ。お、男と女は体の作りが違うし、そんな差異があっても不思議じゃない。それに……超人化現象で身体能力の向上と異能が"同時に"目覚めた例は無いんだ』



 これまた新しい情報が飛び出してきた。

 俺は即座にその言葉に反応し、ミルキーさんに尋ねる。



「どういう事です?」


『ちょ、超人化現象ってのは身体能力が向上するか、異能に目覚めるか、その二択しか無い筈なんだ。例えば超人化で起きる変化で身体能力が向上したなら異能は目覚めないし、異能に目覚めたなら身体能力は向上しない筈なのに……』


「え? でも身体能力も凄くて、異能を扱う人とかも居ますよね? TVで見ましたよ」



 有名な探索者の中には、炎を操る人とかも居る。

 その人は身体能力も普通に並外れてて、スポーツ番組かなんかで活躍してた筈だ。



『ち、超人化現象が""起きる事は知ってるでしょ? 階を進み、前に倒した敵より更に強い敵を倒す事で、更なる超人化が進む。その複数回の成長の中で異能に目覚めて器用に立ち回れる様になるか、そのまま身体能力だけが極限まで高まって行くかの二択しかない筈なんだ』



 確かに、超人化現象は複数段階に分かれて進むと世間でも公表されている。


 フェーズ1だとか、フェーズ2とか、そういう呼ばれ方をしてる国もある。


 ただ超人化の段階が何処まで進むかは明かされてない。


 そこ等辺の話を大っぴらに公表すると、自国の戦力を晒すも同然の行為だからあえて伏せてるのだろう。


 けれど超人化現象が深まっていくに連れて超人達の戦闘能力も増していき、最終的には『歩く核兵器』扱いされると言う事だけはハッキリしている。これはGD9以外の国々へ向けた抑止力として公表した情報だろうな。


 とは言っても、そうした人達も極少数ではあるのだが……。



「えーと、一度異能に目覚めたら、後はもう身体機能しか向上しないんですか? 他の新たな異能に目覚めたりはしない?」


『ん~……可能性は低いけど、最初に目覚めた異能が超人化の段階を重ねる際に更に強力になる場合はあるよ。でも、その時は身体能力は向上しないけどね。そして異能とは一人に一つしか発現しない。複数の異能に目覚めたパターンは今現在確認されてないね』



 要するに超人化する際と、超人化の段階が進む度に『身体能力が向上するか、異能に目覚めるor目覚めていた異能が更に強力化する』と言う感じらしい。


 けど、俺のケースでは『身体能力も向上し、異能に目覚めた』と言う、今までに例が無い様な、良いとこ取りの成長パターンをしてしまったらしい。


 その事を脳内で理解しつつ、話を進めて行く。



「つまり極限まで身体能力が高まる『戦士タイプ』の超人と、異能に目覚めて器用に立ち回れる『魔法戦士タイプ』の超人が居るって事ですよね? 前者は力で暴れて、後者は異能に目覚める、または異能が成長をするけど、その分身体能力の伸びが落ちる。つまりは……力が控えめだけど異能で手広く活躍できる、みたいな?」


『う、うん、ゲームで例えるならそんな感じだね。あと、異能はアクティブ型とパッシブ型で分かれてる』



 また新しい言葉が出てきた。


 異能もそこ等辺の情報が詳しく世間に公表されている訳じゃないから、それは当然なのだが……。



「アクティブ、パッシブ……どういう意味ですか?」


『分かりやすく言うなら、アクティブは自分で異能を発動させるタイプ。そしてパッシブは自分の意思とは無関係に自動で異能が発動するタイプ。蝶との戦闘で負ったヒトリっちの傷が癒えた様子を見ると……君はどうやらパッシブ型だね』


「アクティブとパッシブの差と言うか、優劣はあるんですか?」


『優劣と言うか、目覚める異能によって振り分けられる形なんだよね。例えば火、水、風、雷とかを操る異能は例外なくアクティブ型だ。要するに自分の意思とは無関係に異能が発動したりしないって訳さ』


「けど、自己再生の異能はパッシブ……俺の意思とは無関係で傷が癒えるんですよね? その事での弊害は何かあります?」



 正直に言えば、今の時点で幾つかの『不安要素』が俺の脳裏に浮かんでいた。そしてそれはミルキーさんも同じだったのか、彼女は少し気まずそうに言う。



『ある、ね……異能は使えば体力が失われていく。例えばヒトリっちが戦闘の最中に軽症を負ったとしても勝手に自己再生が発動し、体力を消耗させていく危険性がある。そうした体力の消耗が命運を分ける場合も有り得るかもしれない』



 確かに、戦闘を行う上で特に治さなくてもいい傷さえ癒し、体力が消耗するのはとても嫌と言うか、マズイ気がする。


 この障害と言うか、自己再生能力の欠点は直ぐに思い付いていた。そして別の問題もまたある。



「そうですよねぇ……後は何かの異物とかが俺の肉体に入り込んだ場合はどうなります?」


『その場合も……危ういね。君の体内に異物が入り込んだまま治療が行われ、取り出せなくなる危険性があるし、そもそもで言うと……君はもう普通の手段で手術が行える体じゃ無くなった』


「俺の異能が自動で発動するから……ですね?」


『その通り、君の体内を切り開こうとしてもパッシブ型の自己再生能力がそれを邪魔してしまう。そして君の体を無理に傷付け、異能が発動し続ければ……最後には体力が尽きて衰弱死するだろう』


「まぁ、今は手術とかできる状態じゃないから、それはいいんですけね」


『でもでも、こうしたデメリットはあるけど、それでも自己再生の異能は魅力的だよ? そうした欠点を補っても余りある異能さ。特に単独で行動するしかない、今のヒトリっちにはその異能が必要だ』



 ミルキーさんはそう言って俺を慰めようとする。

 そして俺もその意見には同意しかない。


 自己再生の異能は万能ではないが、それでも俺の生存率を大幅に引き上げる能力だろうし、不安要素ばかりを気にしても仕方がないのだ。



「ともかく、俺は何故か身体能力が向上し、更にはパッシブ型である自己再生の異能に目覚めたと言う訳ですね?」


『うん。けど……やっぱり身体能力と同時に異能に目覚めた例は無いんだけどなぁ』


「でも俺は実際にロングレッグを瞬殺し、こうしてデカイ蝶の死骸を運んで来てますし……本当に一例も無いんですか?」


『そうだねぇ、GD9の何処かの国が隠蔽してたりしない限りはだけど。そもそも、自国が有する現役探索者の能力を他国に明かす事はあまり積極的に行われて無いし……そうした隠蔽行為も有り得るかもね』



 すると、その話を横で聞いていた山口さんは声高に急かしてくる。



『ったく、そんな小難しい話は今はどうでもいいだろ!? ともかく、お前は傷を癒す異能に目覚めた可能性があるんだろ!? だったらそれを試せって!! その異能があれば、お前が一人で行動しても死なない可能性が跳ね上がる!! だからさっさと針で自分を刺してみろって!!』



 この人がこうも必死なのは俺が心配だからだろう。

 だからと言って人に自傷行為を迫るのはどうなんだ?


 そもそも異能持ちに成れる確率はかなり低いのだ。


 たしか千人程が超人化した際に内の五十人が異能持ちになれるとかだから……五パーセントしかないぞ、おい!!


 更に言えば、異能に目覚めても当たり外れがあると聞く。


 要するに探索で役に立つ異能と、そうでない異能って感じだ。


 けれど『傷が癒える異能』は明らかに役に立つ異能であり、当たりの部類だ。


 そんな低い可能性を、奥多摩に閉じ込められた不運な俺が引けるのかよ。


 いや、むしろ奥多摩に閉じ込められた逆レアな男だからこそ、そうした可能性も生まれるのか?


 そんな疑問を抱きつつも、俺は覚悟を決めた。


 息を吐きながら右手に針を持ち、左手の端っこに針を近付けていく。



「えぇい……南無三!! いって!!』



 結構な力を込めて針を押し込むとチクっと痛みが走り、プクっと血が出てくる。


 やはり超人化したばかりなので力加減が上手くいかず、思いの外深く刺さりすぎて、結構な血の量が肌を流れていく。


 俺はそれを涙目で確認し、他の皆もその傷口を眺めて様子を伺う。



『ど、どうだ?』


「さぁ、見た感じのままですけど……。別に普通……あっ」



 暫くすると、針を刺した所から僅かな蒸気が立ち上り、即座に消えた。


 本当に一瞬の出来事だった。

 まるで氷に熱したハンダゴテを一瞬だけ当てた様な、そんな感じ。


 針で刺した場所を右手の指で擦ると、針で傷を負った箇所はすっかり治っていた。



『マジか……』


『凄い』


『こんなのアリかよ』


『……い~のぅ』



 まだそのギャグ使ってんのか、持ちネタ化する気かよ。


 ともかく、俺はそうした雑音を脳の隅っこに追いやり、傷が癒えた時に覚えた違和感を言葉にする。



「一瞬だけ左手に熱を感じました。もしかしたら俺が超人化の際に感じたは、体を癒す際に感じた熱だったんでしょうか?」



 左手にできた針の傷だけでも結構な熱を感じた。


 先ほどの俺は全身に切り傷を負っていたのだから、あの熱量は治療の代償だったのかもしれない。


 もしかしたら俺が疲労したのも超人化の所為ではなく、治療の所為だったのかもな。


 ミルキーさんは俺の言葉に同意する。



『その可能性が高いかもね。けど、だとしても君が身体能力の向上と同時に異能に目覚めた理由がやはり分からない……。いや、今思い当たる説が"四つ"程思い浮かんだ』



 これだからミルキーさんは頼りになる。彼女の知識と見解は本当に助かる要素だ。


 俺は何処かワクワクしつつ、それを問う。



「その説とは?」


『まず、一つ目は単純に君が""と言う理由。やはり男と女では超人化の差異があるのかもしれない』



 これは一番単純で分かり易い説だ。

 今まで男性が超人化した例はないから、この説の可能性は高いだろう。



「二つ目は?」


『二つ目は、君が最初の超人化を果たす前に""を仕留めていた事。そもそも、今まで多く居た探索者の中には超人化もしてないのに限定種を倒すなんて無茶をした人は居ないんだよ。それなのに、君は二種類もの限定種を仕留めてしまった。言うまでもなく、こんなのは例が無い』



 確かに、この説も納得ができる。


 限定種と言う存在はとても貴重だし、そんなのを俺が超人化もしてない段階で一人で二体も倒したのは異常だろう。



「なるほど……三つ目は?」


『""、だね。当然ながら、超人化ってのは何時起きるか予測できない。そもそも限定種と言う名前の通り、奴等はその絶対数が少ないから「限定種で超人化する」なんて行為は狙ってもできる様な事じゃない。なのに君はそれを起こしてしまった。更に言えばでね。そして普通のダンジョンだと、限定種は第五層からしか出現しないから、超人化する前の人が限定種を倒すだなんて行為は稀と言うか、今じゃ絶対に有り得ないんだよ。それが君の異常な成長に繋がった可能性もある』


「でも、流石に超人化した人が限定種を倒して、その際に超人化の段階が進んだ例はあるわけですね?」


『そうだね。でも、そうした状況で異常な成長をした例は無いね。だからヒトリっちの「超人化する前に限定種」を仕留めたと言う状況は奇跡に近い。更に言えば、それと同時に超人化を果たしたと言う例は異例中の異例と言うか、とても検証できる様な内容じゃないわけだよ」



 確かに、限定種はそのダンジョンに一度しか湧かない敵だ。


 また同じ敵を倒すなら、別のダンジョンを出現させるしか方法が無いし、更に言えばダンジョンの完成には数ヶ月を要する。とてもじゃないが、そんな状況ではデータを集める様な検証を重ねるのは難しいだろうな。


 つまり、この説は幸運が作用した感じか。


 上手く俺が超人化するタイミングで最後の敵として限定種を倒し、それが成長に異常を齎したパターン。



「最後の説は?」


『今話した""が複合し、それが起きてしまったと言う説だね。君が男性で、且つ限定種を二体仕留めてて、そして成長する際に限定種を仕留めた。これ等全部が、君に異常な成長を促した。と言う説だ』


「なるほど……」



 こうして聞くと、確かに奇跡みたいな話だ。


 同じ事を起こそうとしても、二度と再現できる気がしない。

 だが、俺にはもう一つ気になる事があるのだ。



「あの、そもそも俺って超人化するの早かった気がするんですが。普通超人化ってモンスターの討伐数が五十を超えてからでしたよね? でも、俺の場合は今朝話した通り、まだ少し五十に足りてなかったと思うんですが」



 それとも階段近くで倒したモンスターも討伐数に加えられてたとか?


 普通なら百五十メートル先の境界線の越えた先でしか超人化のカウントは進まないらしいが、奥多摩は色々と不思議な場所だし。でも、もしそうだったとしても数体程度の誤差でも五十にはやはり届いて無かったと思うが……。


 そうやって悩んでいると、ミルキーさんが俺の考えより余程納得できる予測を出してくる。



『それも限定種を狩った事が原因かもしれない。強敵を倒した事で、超人化のサイクルが早まった可能性がある。もしくはやはり……ヒトリっちが女性より超人化が早かったのかもしれない。今までの統計データは全て女性を参考にしてるモノだしね』


「なるほど」


『まぁ、色々と予測はできるけど確信できる答えは無いし、答え合わせする事もできないよ。ヒトリっち以外にダンジョンへ入れる男性なんて居ないんだから。そもそも他の男性が入れたとしても、君と同じ無茶をできる人なんて居ないと思う』



 確かに、俺は大分無茶をしてきた。

 そうした色々な経験が俺に大きな成長を促し、此度の異常事態に繋がったのかもしれない。



『曹長、いいですか? 連絡が……』


『ん、あぁ』



 そんな事を考えていると、山口さんが部下の一人から連絡を受け、テントへ去って行く。


 俺の超人化をさっき何処かへ報告してたみたいだし、その返事でも来たのだろう。


 とりあえず俺は一息を吐き、笑みを浮かべた。



「まぁでも、これって良いことですよね? 身体能力も上がって、傷を癒す異能に目覚めるなんて」


『それは勿論そうだよ!! ヒトリっちは凄い!! 本当に凄い!! そもそも、超人化もしてなかったのに蝶を倒してきた事が更に凄い!!』



 ミルキーさんは花咲く様な笑顔を浮かべながら手放しでそう褒め、賞賛してくれる。


 今までの苦労が今この瞬間に報われた気がした。

 女性にこんなに褒められ……いや、誰にもこんなに褒められた経験は無い。


 心に湧きあがる嬉しさと、充足感に暫し浸る。


 けれど俺は其処で『げへへ』と笑うのを堪え、とある疑問を投げ掛けた。



「ところで、俺の自己再生的な異能って珍しいと言うか……どうなんですかね? 他に同じような異能を持つ人って居ます?」


『イギリスに「リビングデッド」の異名を持つ凄腕探索者が居るよ。彼女も自己再生の異能持ちだ。超人化の段階を重ねて行く内に、異能が強化されて自己再生能力が強力になったらしい。けど、他国の異能持ちの能力の限界を探る事はタブーとされてるから詳しい情報は分からない。ただ……噂では四肢が欠損しても生えてくるとか聞いた事がある』



 とんでもない超人が居た。

 いや、でもそれで良かったと思うわ。


 下手にこの『自己再生』と言う異能が『これまで発見されてなかった異能だ!!』と言う風になって、変に騒がれてた方が面倒だったし。



「そもそも、自己再生の異能ってどれ程の傷を治せるんです?」


『んん……そうした効果と言うか、同じ能力に目覚めても人それぞれのがあるから何とも言えないかなぁ。背の高さみたいにバラ付きが出る感じ?』


「なるほど……。でもまぁ、俺は結構蝶に全身を切り刻まれてたので、それが癒えたとなると、そこそこ凄そうではありそうかな……?」


『そうだね、特に左肩辺りの血痕は凄いよ? その事から考えても、君の自己再生能力は結構なレベルだと思う。まぁ、流石にリビングデッドの領域には達してないと思うけど』



 超人にもそうした差異があったんだなぁ。


 俺はそんなに超人の人達に興味が無かったので、凄い超人と言えば日本に所属している『百合籠』だとか、TVに出てる元探索者アイドルとかしか知らなかったのだが、『リビングデッド』か……そんな人も居たんだな。


 とは言え、疑問はまだ尽きない。

 俺はミルキーさんに気になっていた事をまだ尋ねる。



「じゃあ、自己再生は特に珍しい異能では無い感じですか?」


『そんな事は無いよぉ!! 戦いの際に傷付いても即座に戦線復帰できる自己再生能力は異能の中でも当たり扱いされてるし、生存率も大幅に上昇する!! 奥多摩で孤軍奮闘しなきゃいけないヒトリっちに、コレ程ピッタリな異能は他に存在しないよ!!』



 太鼓判を押す勢いでミルキーさんは俺の異能である自己再生能力を褒めてくれる。やったぜ。


 それに彼女の言う通り、この能力は俺の生存率を大きく上昇させる。


 その事を思えば、夢物語と思っていた奥多摩の制覇も夢じゃないかもしれない。



『ヒトリ。ちょっといいか?』



 だが、俺のそんな幸せは即座に吹き飛ばされた。


 声がした方向を向けば、テントから戻ってきた山口さんが神妙な表情を浮かべている。


 この人の『ちょっといいか?』は本当に聞きたくない言葉No1だ。


 俺は溜め息を何とか堪えつつ、小さく頷いた。



「どうしたんですか……?」


『日本政府が、今夜お前と結んだ契約を"記者会見"で発表する事を決めた。お前には事前に話す内容を知らせておくから、事前の確認と了承をしといて欲しいとさ』


「……はぁ、そうですか」



 ――今日は本当に怒涛の日だな。


 蝶との激闘を終え、超人化し、異能にも目覚め、挙句の果てには総理の記者会見?


 俺は何処か他人事の様に捉えつつ、その現実味の無い言葉を聞いていた。



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