ワン・マン・ヒーロー ~女性しかダンジョンに入れない世の中で、男の俺がダンジョンに入れてしまったんだが? オマケに出れないんだが!? ~
タマ黒
一章 俺は閉じ込められた
第1話 奥多摩ダンジョン
「はい、あそこが新しく生まれた奥多摩ダンジョンで~す」
女性ツアーガイドがそう言って、山の中腹を指し示す。
すると其処には二ヶ月前に誕生したばかりの奥多摩ダンジョンの入り口がポッカリと開いている。
その入り口の周囲の木々は切り倒されていた。
簡易的な道が舗装されているのも確認できて、其処に見学へ向かう疎らな人影も見える。
特に珍しい光景でもなかったが、手持ち無沙汰だったので懐からスマホを取り出して写真でも撮ることにする。
ズームしたり、スマホを横にしたりしながら写真の構図を決めかねていると、突然背後から手が伸びてきてスマホが取られた。
「あっ!」
「相変わらず鈍い奴だなぁ、ヒトリ君よぉ! 写真ぐらいサッと取れよ」
背後を振り向くと、そう言ってニヤつきながら
黒岩の周りには奴の取り巻きが三人ほど居る。
「……ふざけんな、返せよ」
「ふざけてねぇよ、お前の手助けしようとしてんだよ。うーん……こんな感じかな」
言いながら、黒岩は勝手にスマホを操って写真を撮ろうとする。
だが、そのシャッター音が鳴るのと同時と言った場面で俺は無理矢理にスマホを奪い返す事に成功した。
「だからやめろって……!」
黒岩はクラスのいじめっ子グループのリーダーだ。
気に入らない奴を見付けると片っ端から絡んでいき、この様に馬鹿にした態度を取る。
カツアゲしたりだとか、酷い暴力を振るったりはしないが、とにかくねちっこくてしつこい。
絡まれたその不幸な誰かが不登校になったり、自身がその行為に飽きたりするとターゲットをさっさと変えていくのが黒岩だ。
そしてめでたく、最近になって俺が目を付けられ始めてしまった。
何時もなら二、三週間もすれば飽きて別の奴に移る筈なのだが、何故か俺は既に二ヶ月も黒岩に粘着されてしまっている。
黒岩が学校側に問題視されないのは奴の母親が原因だ。
なにせ奴の母親は二十年前に発生した『ダンジョン混迷期』に活躍した存在なのである。
日本で生まれた最初のダンジョンである『広島ダンジョン』。
その広島ダンジョンの制覇を成し遂げた『
今でこそ現役を退いてはいるが、日本に生まれた最初のダンジョンを制覇したメンバーの一員だったと言う功績を後ろ盾にし、政界にまで進出してるのが黒岩の母親である。
今の日本は……いや、世界は女性優位の勢いが増している。
そしてその原因は『ダンジョンは女性でしか攻略できない』と言う特性の所為だ。
男性はダンジョンの入り口を跨ぐ事すらできず、弾かれてしまう。
ダンジョン内で採れる資源は貴重であり、モンスターを倒すと様々な力が身に付く。
更に言うと、ダンジョンで強くなればなるだけ肉体の若さもある程度保たれると言う性質がある。
この黒岩の母親である黒岩薙獲も、既に三十五歳だ。
だが、何度かTVで見た事はあるが、その見た目は広島ダンジョン制覇時からあまり変わっておらず、十代後半にしか見えない。
不老不死……と言う訳ではないらしいが、それでも驚きだ。
ダンジョンは富も、名声も、力も、挙句の果てには若さまで保てる可能性を秘めている。
だが、男と言うだけでその恩恵は受けられない。
なんとも理不尽な世界だとは思うが、俺が生まれた時には既にそうだったのだから仕方ないだろう。
だが、だからと言って同じ男に見下されるのは御免だ。
黒岩が俺に絡み続けるのは変に俺が反発し続けている所為かもしれないが、でも黙ってやられる理由にはならない。
そう思いながら奴を睨み付けるも、黒岩はニヤニヤと下品な笑みを浮かべるのみ。
「ははっ。……おい、多田ぁ! お前なに撮ってんだ!? 隠し撮りとか止めろよぉ~!!」
「は? 隠し撮り……!?」
言われて、スマホを見る。
すると其処にはクラスで上位のカーストグループに位置する、女子生徒の一団が写っていた。
冬塚はスポーツ万能の人気者。
明るく、綺麗で、クラスの委員長でもある。
一之瀬は高校の二年で一番頭が良いクールビューティー。
口数は少ないが、陰気と言う訳ではなく、偶に会話で鋭い一言で周囲をハッとさせたり、上手いツッコミをしたりして会話を盛り上げてたりもしている。
御岳は剣道部員で、全国三位に入る実力者だ。
熱血気味で、思い込んだら一直線、あと声がでかい。
何時もオーバーリアクションな動きで、その綺麗な黒髪のポニーテールをぴょんぴょんと揺らしてるのが印象的だ。
クラスで人気なその三人。
そんな彼女達を盗撮していたと発覚すれば、その後に起きる事は悲劇であるのは確定的だ。
そして、黒岩はそれを承知でわざと騒ぎ立てているのだ。
「お前さぁ、モテないからってそれはちょっとキモすぎんだろ~? せんせ~!! 多田が隠し撮りしてましたぁ~!!」
「ッ……!」
カッと頭に血が上る。
だが、此処で大声を出しながら反論しても無駄だ。
実際に俺のスマホには写真が記録されてしまっている。
そして、周りの生徒に黒岩がその写真を撮ったのを見てた筈だと問い詰めても、それを証明する証言をしてくれはしないだろう。
何故なら、下手に目立てば次に苛められるのは自分だからだ。
故に俺はその場の感情で反論するのを諦め、別の手で誤解を晴らそうと思考を走らせる。
「隠し撮り……? 本当なのか、多田」
そうこうしている内に今回の野外学習の引率者であり、このクラスの先生でもある
見た目の印象は一昔前の熱血男性教育者と言った具合だ。
何時もジャージ姿で、筋肉モリモリ、学校の皆からは裏で『ゴリ象』と呼ばれている。
俺はそう問われると、焦らずにゆっくりとスマホを取り出し、その画面を見せながら言う。
「隠し撮りと言うか……俺は奥多摩の旅館を取りたかっただけです。ほら、冬塚さん達の後ろにある」
確かに俺のスマホには冬塚達の写真が記録されている。
だが、俺が咄嗟に黒岩からスマホを奪い返したお陰で、冬塚達は写真の端に写るのみで、メインの被写体は旅館になっていた。
悪い見方をすれば、そういう誤魔化しをしながら冬塚達を撮った風にも見える。
だが、今はそういう体で言い訳をしないと駄目だ。
変に焦ったり、怒りながら黒岩に責任を擦り付けようとすれば、余計に怪しく見えるだろう。
ゴリ象は暫く画面を眺めていたが、最後に小さく頷く。
「まぁ、偶々写った感じにしか見えないな。だがなぁ、多田。今の日本社会で女性にセクハラやら盗撮染みた行為をすれば厳しく処罰されるぞ? それが分かったら、紛らわしい真似をするんじゃない。念の為にその写真は先生の前で消しとけ」
「……はい、分かりました」
別に惜しくも何とも無いので、素早くスマホを操作して写真を消去する。
そしてゴリ象の言い分は正しい。
女性が優位になりつつある現代社会では『痴漢』『セクハラ』『盗撮』等の行為で厳罰に処される恐れがある。
俺がまだ未成年だろうと関係はない。
そりゃ小学生の低学年とかなら流石に処罰はされないが、高校生である俺は余裕で実刑を受ける。
「消しました」
「あぁ、それでいい。ったく、あまり先生の手を煩わせないでくれよ?」
それを確認し、ゴリ象は去っていく。
黒岩はそれを見て小さく舌打ちを鳴らし、取り巻きを連れて離れていく。
黒岩は『軽い悪戯』で俺を貶めようとしたつもりかもしれんが、場合によっては犯罪者扱いされる所だった。
俺は立ち去る黒岩の背中を横目で眺め、スマホの電源を苛立ちながら切って懐に仕舞い込んだ。
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