第13話 おはようのキス
……体が痛い。そんなことを思いながら目が覚めた。
「おはようございますミアリス。今日は帰る日ですね」
「ああ、そうだった──痛っ」
起き上がろうとすると体の痛みが増してくる。
「大丈夫ですか? ちょっと激しくしすぎましたね」
「一昨日よりひどいよ。……てか、なんでリンフィは大丈夫なの」
「さあ?」
うらやましい。
私は痛みに耐えながら体を起こす。……意識しなければ自然と痛みも忘れるだろうし今は我慢しよう。私はそう思って痛みのことは気にしないことにした。
「あ、そうだ。ミアリスが私のこと好きになってくれた記念でおはようのキスしましょう」
「なにそれ」
「起きた時にするやつですよ~なんだか甘酸っぱくて良くないですか?」
リンフィって意外とこういうところあるよね。……なんか良い。
「……いいよ、じゃあする?」
「わ、素直になったミアリス新鮮すぎてなんだか別人みたいですね」
少し失礼だな、この人は。私だって内に秘めてた顔を出すとこんなのになってしまうんだよ。
「前のほうがいい?」
「……ん~前もいいですけど今のミアリスも好きですよ。どんなミアリスでも好きです」
自分で聞いておいてなんだか恥ずかしくなる。私はリンフィから少し目線を落とす。こんなにずっと目合わせてたのは久しぶりなのかもしれない。
「……そっか」
いろいろ考えて頬が緩んだ。私がどれだけ変わったか、自分でもよくわかる。それはもう気持ち悪いくらいに。
たぶん好きだと自覚してから隠す必要がないと脳が判断したのだろう。今の私はすごく素直でもはや気持ち悪い。
私はリンフィに近づいて軽く唇を触れさせる。またあんなふうになっちゃったらいけないから深いのはやめておこう。
「……ホテル、出る?」
私は自分の気持ち悪さをしみじみと感じながら話を切り替えた。
「はい」
リンフィの返事を聞き、私たちは荷物をまとめ始める。……それよりベッドシーツ、結構汚れてそうだけど大丈夫なんだろうか。ここ、多分そういうホテルじゃないし、なんか怒られそうだな……。
「もしかしてシーツのこと気にしてます?」
ベットのほうにばかり気にかけていた私にリンフィが声をかける。
「……うん、だってなんか汚しちゃってそうじゃん……?」
「ふふ……それなら大丈夫ですよ」
「どういうこと?」
「……これ、私の部屋から持ってきたやつなんです」
「……え」
いや、言わないけどなんかリンフィのにおいするなあって思ったのは気のせいじゃなかったのか。……納得。最初にベットに飛び込みでもしたのかと思った。そんな人じゃないか。
……ていうか
「こうなることを想定してたってこと……?」
「ええそりゃあそうでしょう? 好きな人と一緒に一日過ごして、ああならないわけがないじゃないですか……!」
それが当たり前みたいに言われたけど私に言われてもわからない。
「私が拒むってことは想定しなかったの?」
「……まあそりゃあ考えましたけど、ミアリスがそういうの、受け入れてくれるのは知ってましたし、念のためだと思って……」
出会って数日なのになんで私の心はこんなに見透かされているんだろう。なのに私はリンフィの心の内が何もわからない。どうしてこの人はこんなにもわかりにくいんだ。わかりやすいであろう私とは正反対。
「……受け入れるってことはやっぱりそのころから私はリンフィのこと好きだったんだ……」
「あら、前まで『リンフィを好きになりたい』とか言ってたのにその時からもうすでに好きだったんですね。……素直じゃない子。そこがいいんですけど」
「……もう、いいから荷物片付けて」
リンフィの言葉に少し顔が赤くなった。やっぱりリンフィは私のこと好きでいてくれるし、こうして言葉でちゃんと伝えてくれるんだから、私なんかよりずっといい。……私の持ってないとこ全部もってるみたいな、いい子。
ほんとに、私たちって正反対だ。
◆◆◆
「よし、でましょうミアリス」
「はーい」
そういうリンフィに続いて私は返事をすると、二人でホテルを出た。
……とても満足な三日間だった。これが毎日続いたら、っておもったけどその前に私の体が持たなそうだ。……身体的にも、精神的にも。
「はー外の空気……ここももう来ることはないですかね~」
「ん、どうだろう。何年かして懐かしいなあって二人で見に来るかも」
私はそう言って笑った。リンフィが何も反応しないのを見て私はリンフィのほうに顔を向ける。すると顔を真っ赤にしたリンフィがこちらを見て驚いていた。
「な、なに……」
「なに、って……さっきプロポーズみたいな……」
「……え、ちょっとまって」
「だって何年かして二人でってそんなの、その時まで一緒にいるってことじゃないですか……!」
リンフィが顔を赤くして叫ぶ。
「それは違う……! いや、違くはないけど……でも違うの! そういう意味で言ったんじゃないって!」
「わかってますけどでも……! ミアリスの口からそんな言葉が聞けて感動してるんです……! うれしすぎて!」
「もう……!」
やっぱり私って変わったな……、と改めて思った。でもああ解釈するのもよくわからない。だって婚約者って結婚するものだし。何年先も一緒にいるものじゃん。……多分?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます