第12話 私からしてみたい

「2人とも、また今度ね」


 アイリは大きく手を振った。私達も手を振りながらホテルに戻る。


「……」

「……」


 沈黙が続いた。リンフィはやはりさっきのことを気にしているようで、ずっと下を向いて悲しそうにしている。そんなわかりやすい人だったっけ。

 リンフィといえば、表情は出るけどそれは意図的な表情であって、こうして自然に悲しい表情を浮かべることはあまりなかったような気がする。ただの私の思い込みかもしれないけど。

 ……ほんとに落ち込んでるんだ。


 そう思って胸がズキズキした。謝るべきなんだろうか。……でも、実際リンフィがこうやってしてきたのが原因なわけで、あんな外でキスしようとか思わなかったらこんなことには……


「……はぁ」


 自分で言っていてため息をついた。こんな言い訳ばかり並べて謝られるのを待ったって、きっとなんの結果も得られない。だったら、ここで私が勇気をだして謝るのが正解なんじゃないか。リンフィはボーッと下を向いているし、これは私が謝らなければ。


「……ねえ、リンフィ」


 私は勇気をだして声をかける。


「な、なんでしょう?」


 リンフィは少し驚いた様子で肩を震わせ、私の方に恐る恐る顔を向けた。不安を感じている表情だった。


「さっきのこと……なんだけど……」

「……怒って、ますよね。ごめんなさい。これは私が悪かったんです」


 リンフィはあからさまに悲しそうな表情を浮かべて下を向く。……なんであれでこんなに落ち込んでしまうんだ。


「い、いや怒るとか、そんなつもりじゃなくて……」

「……?」

「なんていうか、その……さっきはごめん……」


私の言葉に、リンフィは目を見開いた。


「なぜ謝るんですか。悪いのは私です。謝らないで」

「いや、私もきつく言いすぎたし」

「でも……」

「いいから、リンフィは謝らなくていいの……!」


 私はそう声を上げてリンフィに詰め寄った。リンフィを説得するにはこれしかない。


「リンフィ、絶対に謝っちゃだめだからね。……あと、温泉であったキスはノーカウントだよね。……だから、まだ今日はキスしてないよ」

「……え」


 説得といえば思い浮かぶのはこれしかなかったから仕方ない、うん。

 驚いているリンフィを置いて私はどんどん詰め寄った。だけど、唇が触れる位置まで来て、私は軽いキスをして唇を離した。


「……な、何か言ってよ」


 私は顔を逸らした。なれないことをしようとしたからか、恥ずかしくてたまらない。あんなことを言ってしまったのに……。


「……んんん、もう……。ねえ、リンフィ……。……きょ、今日は私から頑張ってみたいの……だめ?」


 私は諦めて素直に行くことにした。普段こういうことを言うのは少ないから、何かあったのかと逆に心配されそうだ。


「……え、あの。だめ、じゃないですけど……でも……」

「じゃあ、ベット来て欲しいんだけど……」

「……は、はい」


 いつもに比べて弱気なリンフィは大人しく私に着いてきた。


「……どうして今日は​──んっ」


 リンフィが何か言いかけたが、私は咄嗟にリンフィの口を唇で塞いだ。いつもリンフィがしてくれたような、深いキスをする。

 そして口を離すと、いつもは笑っているリンフィの顔が蕩けて息を荒くさせていた。


「……リンフィ、可愛い」


 私はリンフィを抱きしめた。


「え、なぜ急にそんなこと……! 1度も言ってくれなかったのに……」


 私は深く深呼吸する。……やっと気持ちの整理がついた。


「……私、ね。ほんとはリンフィが好きだったんだよ。今日距離が離れて初めて思った。リンフィに触れたい、って。いつもは隙があればやってくるけど、今日はなかったから……」


 ……すこし、寂しくなってしまったんだ。私はどうしようもなく素直になれなくて、今までのリンフィの行動も全て受け入れてきたはずなのに、言葉は真逆のことばかり。きっと私は告白されてからリンフィに惹かれていたんだ。


「……リンフィ、好き。……今日は、私に任せて」

「ミアリス……」

「今までごめんね。今日は素直になるから……」


 私は前にリンフィがしてくれたようなことをした。


「……あっ、ん……まって、ミアリス……」


◆◆◆


「……ん〜っっ」


 リンフィはビクビクと身体を震わせた。

 ……すると、リンフィが急に私の手を掴む。


「……やっぱり無理です! 私にやらせてください!」


 私が言葉を発する前にリンフィは私をベットに転がして私の上に馬乗りになる。


「もう見てられないんですよ。なんなんですかその顔……! 愛おしくて仕方ないんです……! もう少し自分の可愛さを自覚してください!」


 ……それをリンフィが言うのか、と私はリンフィの整った顔を見つめた。でも、私も正直こういうのは私らしくないなとは思った。それだからってリンフィに好き勝手されるのは納得いかないけど……。

 結局、まだ素直になり切れていないのが私だ。


「なんかな……」

「?」

「……リンフィに触られるのは正直気持ちいいから好きってい──」


 私、今何言おうとした。リンフィに触られるのは気持ちいい? ……嘘、私なんでそんなこと……。


 顔が熱くなって思わずうつぶせになった。


「ミアリス~、今何言おうとしたんですか~? 教えてくださいよ~」


 リンフィは煽るように言ってくる。その顔がにやにやしているのが見なくても伝わる。


「も、違うから……! さっきのは何というか口から勝手に出たというか……」

「へぇ? でもミアリスの場合、口から勝手に出た言葉はだいたい本音ですよね?」

「そんなわけ……」

「ふふ……」


  突然笑いだすリンフィを私はちらっとみる。その顔はほんとにうれしいときとか楽しいときにリンフィが見せる表情で、なんだかあの後だととてもかわいく見える。


「なんで笑うの」

「いえ、なんだか可愛くて」


 リンフィはうっとりした表情でほほ笑む。


「……さて、ミアリス。お楽しみの時間ですよ。……忘れてないですよね?」

「あ……」


 すっかり忘れていたけど今そういうことになってる途中だった……!

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