第6話 関節キスは恥ずかしい

 ぴったりとはまった指輪を愛おしそうに見つめるのはリンフィ。改めて考えてみると、あの行動はあまりにも恥ずかしすぎた。深く考えずあんな行動をしてしまう私は反省しなきゃいけない。


「大人になったらもう少し良い指輪を買いましょうね。これはただミアリスが私のものっていう証拠ですから。結婚指輪はまた大人になってから」


 しれっと結婚を前提にしているのは触れるべきでは無いのか。


「もうちょっとで大人だよ」

「あと五年くらいでしょうか? 案外長いものかもしれませんよ。……あ、でもミアリスとの楽しい時間が続くならそんなに苦じゃないかもですね」


 リンフィは嬉しそうに微笑む。こんな笑顔に弱い自分が嫌だ。


「お腹すきましたね〜……」


 リンフィはお腹を押えながら言った。さっきからなっていたお腹の音はリンフィか。


「ほんとだね、移動が長かったからお腹すいちゃった」

「あそこ、レストランですかね?」


 リンフィが指を指した先にはお洒落な雰囲気を漂わせるレストランがあった。


「……そうみたい。行ってみようか」


 私たちはちょうど近くにあったレストランに足を運ぶ。ここもまた高そうなところで少し不安だけどリンフィに気にするなって言われたから気にしないことにする。

 店内に入ると、店員さんの元気な声が響いた。来ている人もお嬢様とか、位の高そうな人ばかり。

 ただのレストランだと思っていたここは高貴な人が来るところだったようだ。


「あ、凄い。雰囲気お洒落……」


 私は小さな声でつぶやく。その声はリンフィにも聞こえていたらしく、「そうですね〜」と感心した声が聞こえた。


◆◆◆


 私たちは席に着いた。レストランなんて何年ぶりだろう。外に出ることも少なかった私だから、レストランなんて全く来てなかったな。

 そんなことを思いながらメニューを見ていつもは食べないような料理名に少し困惑するも私は気になったものを頼んだ。


 私が頼んだのはスパゲティ。リンフィは何やらお洒落な魚料理を頼んでいた。


「ミアリス、これ美味しいですよ〜!」


 リンフィは幸せそうに頬張っている。見ていてなんだか微笑ましいものだ。私もそれを見てスパゲティをフォークで巻き、口に運ぶ。


「ん、私のも美味しい」


 するとリンフィが私の顔を見てニコッと笑うと私の口の端を指で拭った。なんだろうと思っているとリンフィはそれを舐めた。その瞬間、口にソースをつけていたことに気づいた恥ずかしさとリンフィの行動による恥ずかしさが一緒に来て顔が真っ赤になる。


「美味しいですね」


 リンフィは上機嫌に言う。その表情は何よりも嬉しそうだ。

 そしてリンフィは1口サイズの魚をフォークでさすと、こちらに差し出して「いりますか?」と聞いた。その顔はニヤニヤと笑っている。


「え、いや……それ、さっきリンフィが口つけたやつだし……」


 私はさっきの恥ずかしさが残って顔を逸らしながら言った。関節キスなんて普通にキスするよりちょっと恥ずかしい。


「普通にキスするよりマシじゃないですか? はい、どうぞ」


 リンフィは引く気が無いようで、差し出した手を一向に引っ込めようとしない。


「でも……」

「いいから、今更気にすることじゃないですよ」

「恥ずかしいし……」

「……私がしてみたいから言ってるんですよ」


 リンフィは頑なに食べようとしない私を見てムッと頬をふくらませて拗ねたように言った。


「してみたかったの?」


 私はリンフィの意外な発言に耳を疑う。


「何だかロマンチックじゃないですか? 関節キス」

「そうかな……」

「だから……はい」


 これは食べるしかないのかと私はリンフィの目を少し見て思い切って食べてみた。

 美味しい。……けど、恥ずかしさでいっぱいで、味はそんなに感じない。

 ふと周りを見渡すと、他のお客さんが顔を赤くしてこちらをじっと見つめていることに気がついた。もう、なんだろう。恥ずかしさで消えてしまいたい。


「リンフィ……みんな見てるじゃん」


 私の言ったことに、リンフィは周りを見てハッとする。


「皆さん私たちのラブラブさに気を取られてしまったんでしょうか」

「違うでしょ! こんな所であんなことするから皆から引かれてるんだよ。もう……」


 みんなからの視線が痛い。あぁ、この場から今すぐ消えるためにはどうしたらいいだろう。

 なんてことを考えながら誤魔化すようにスパゲティを黙々と口に運んだ。次第に視線も感じなくなり、少し落ち着く。


「これからは人が見てる時にあんなことしないでよ」


 念の為に言っておいた。


「ミアリスの反応が可愛くてつい……。ごめんなさい……。もうしませんよ、安心してください」

「ほんとかな……」


 少し疑うところもあるけど疑いすぎたらキリがないのでやめておこう。今日はこの辺で許す。


「……あ! そういえば、やってみたかったことがあるんですよ!」


 突然リンフィが声を上げて言った。


「晩御飯、私たち二人で作りませんか? 料理ってやったことなくて……ずっとシェフに頼りっぱなしだったから1度もしたことないんですよ……」

「私も……同じ」

「だから、ホテルにキッチンもあるのでそこを借りてやりましょうよ!」


 何を言い出すかと思えば、まだリンフィにしては普通の事だった。また突拍子もないことを言い出すんだと思ってしまった。

 ……ただ、料理未経験の2人がどうやって料理を完成させるんだろう。

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