第5話 デート

「……着いた​──!」


 あの微妙な空気を何とか耐えて街まで着いた。少し心が軽くなったような。


「早速デートですね!」


 リンフィがはしゃいでいる。本当に嬉しそうな顔を見ていると、無邪気な子供のように思えてきた。


「待って、メイドが……。マリ、私たちの後ろを離れて着いてきてくれるだけでいいから、お願い」

「承知致しました」


 マリは相変わらず堅苦しい。もう少し肩の力抜いてくれてもいいんだけど、でも私は仮にでも令嬢なのだからそれに仕える者としてきちんと働くのがメイドの仕事なんだろう。仕方ないこと。


「リンフィ、行こうか。とりあえず今日泊まる所の予約かな……」

「あ、それならもうしてありますよ! はしゃぎすぎて待ちきれませんでした……」

「え、ほんとに? ありがとう」


 こういうの、正直助かるから嬉しい。


「じゃあそこ行きましょうか。案内しますね。とってもいい所なんですよ!」


 リンフィは私の手を引いて前に進んでいく。今日のリンフィはとても無邪気。私まで心が明るくなる。


「え、ここ……?」

「はい!」


 私の前に現れたのはそれはそれは大きなホテルで、一般人は入れないような立派な所だった。

 中に入るとキラキラとしたものが沢山あって、シャンデリアも吊るされている。私の家もこんな感じだけど、雰囲気はだいぶ高そうなところだった。


◆◆◆


「……リンフィ、ここ相当高かったでしょ?」


 部屋に案内され、私は一息ついて話し始めた。


「んー? そうでも無いんじゃないですかね? まぁミアリスは気にせずにゆっくりしてください」

「ほんとに……?」


 リンフィはお金がありそうだから少し怖い。もしかしたらとんでもなく高いところに泊まろうとしてるんじゃないか。……不安。


「さて、とりあえず街まわろうか」

「はーい」


 気になるところは沢山あるけどそんなの気にしてたらデートになんないし……。気にしないことにしよう。


◆◆◆


「お店いっぱいだ」

「ほんとですね〜。この街が他よりも発展してるって言うのはこういう事だったんですね……」


 どこが道の終わりか分からないくらい、お店はズラッと続いていた。


「あ、ミアリス。雑貨屋さんもあるみたいですよ」


 リンフィは少し進んだところにある雑貨屋さんに目を向けた。アクセサリーや雑貨が沢山置かれている。


「行ってみようか」


 私とリンフィはお店の前で商品を見た。


「……あ、これ! ミアリスに凄く似合いそうです」

「ほんとだ。可愛い……」


 リンフィは透き通った青色の石がはめ込まれた指輪を手に取って言った。太陽の明るさに反射して色が変わったりしているのが分かる。石の大きさも少し小さめで目立たないし、可愛い。


「お客さんたち恋人同士か? なかなかお似合いなカップルだね」


 突然私たちの会話を聞いていたお店の人が話しかけてくる。

 ……驚いた。同性なんていつも友達に見られるだけだったのに。


「分かりますか? 私のとっても恋人可愛いんですよ……」

「ハハハッ、お熱いようで何よりだ。どうする? 指輪買ってくかい?」

「んー……、あ、ミアリス。私が買ってあげましょうか? こういう事するためにお母様がお小遣いくれたんです」

「そんな、申し訳ないよ……。それなら私も買う」

「じゃあ……お互いに買ったやつを交換ってことですか?」


 それ、ただ普通に自分用に買っても変わらないと思いながらもリンフィから貰えることが少し嬉しくて私は頷いた。

 お互いにお金を払う。値段は決して安いとは言えない値段だったけど、こうして買うことが出来たから満足だ。

 そして少し人のいない場所まで来た。


「……やっぱこれ、ミアリスにぴったりですね♪可愛い」

「かわ……、やめてよ……」


 こんなところで可愛いなんて言われたら照れてしまう。


「ふふ、私が付けてもいいですか?」

「……いいよ」


 指輪を付け合うなんて、まるでプロポーズだ。そんな恥ずかしさの中、リンフィはご機嫌な様子で指輪を手に取り手を差し出す私の左手の薬指にはめた。


 そこにはめると思ってなかったから私は顔が熱くなるのを感じた。で、でも、婚約者なんだからこの指にはめても問題ないし、おかしくないのに、凄く嬉しく感じる。


「……薬指、なんだね」

「もちろん。ミアリスは私のものってことを証明しておかないとダメですからね」

「……」


 今、間違いなく顔が真っ赤だ。……好きじゃないのに、私はリンフィを好きじゃないのにどうしてこんなにも嬉しく感じてしまうのだろう。


「ミアリス、私にもつけてください」

「……わ、分かった」


 私はリンフィと同じように左手の薬指に通す。

 するとリンフィはその指輪を愛おしそうに見つめて私に不意打ちでキスをした。


「嬉しすぎて思わずしちゃいました、ごめんなさい」

「……今日は、許す。私も嬉しかったし……」

「ほんとですか? これが嬉しいだなんて、私の事もう好きになったみたいですね」

「……どう、なんだろ」

「あら、冗談のつもりで言ったはずなのにそんなこと言われるとほんとなのかと疑っちゃいますよ?」

「私も今なんだか気持ちが分からなくなってる」

「……まあ、ゆっくり気付いていってくさい」

「そうだね」


 頭の中はぐちゃぐちゃだったけど、とりあえず気を紛らわせようと他のお店に行くことにした。どうやらこのデートで私の気持ちが変わるのは間違いじゃなかったらしい。

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