お泊まりデート
第4話 街を出る
「……お母様、後日リンフィと旅行に行きたいので許可頂けませんか」
私は次の日お母様の部屋に訪ねた。
「メイドはもちろん付き添いでしょ? ならいいけど……。くれぐれも怪しい人に連れていかれないように。なんなら騎士でも付ける?」
「そこまでは……」
「そう。気をつけて。目立たない服装でね」
「はい」
一応心配はしているようだけど、断られはしなかった。少し安心。
そしてリンフィにこのことを伝えたあと、私は少し緊張しながら眠りについた。
◆◆◆
暗い部屋の中だ。外は夜で、私はベットでリンフィをまっすぐと見つめた。
「……ミアリス、好きです」
リンフィが、私を押し倒すような形で見下ろしている。リンフィは顔を赤くして、少し興奮したように息を荒くしていた。よく見ると服もはだけている……。
「リンフィ……」
私が名前を呼ぶと、リンフィは頬を赤く染めて私に顔を近づけた────
◆◆◆
私はハッとして目が覚めた。……朝からなんて夢を見てるんだ、私。いや、緊張しすぎて変なこと考えちゃっただけだ、焦らないの、自分。こんなんじゃただの変態だ。
「……私、いつからこんな変なやつになっちゃったの……」
多分リンフィがいるからだろうけど、そんなこと言うと私が本当にリンフィのことを好きみたいに思ってしまうので言わないでおく。
そして私はリンフィとの待ち合わせの場所に行った。
「ミアリスー!」
向こうから元気に私の名前を呼ぶ声が聞こえる。リンフィは目立たない服装ではあったけどかなりおしゃれで、思わず目を奪われる。流石だ。
それに比べて私は……部屋にあったちょっと高そうなワンピース……。いつもおしゃれをしないからこういう時に困るのだ。
「おはよう、リンフィ」
「おはようございます。朝からミアリスに会えてとっても幸せですよ! 夢にまで出てきちゃいました……」
リンフィは少し恥ずかしそうに言った。
そんな中私もあんな夢を見ていたなんて絶対に言えない。言ってしまったら私はもう終わりだ。自分の中に留めておこう。
「楽しみにしてくれてて良かった」
「楽しみにしないわけないじゃないですか! 楽しみすぎて夜も眠れないほどでした……」
「そんなに……」
「ええそれはもちろん!」
リンフィは自信満々に頷く。こんなにも楽しみにしてくれていたのはちょっと嬉しい。
「……そろそろ馬車乗ろうか」
「そうですね」
少し馬車を待たせてしまった。このまま馬車に乗って隣の街まで行くつもりだ。
「ふんふふ〜ん、……ふふっ」
なにやら上機嫌なリンフィが鼻歌を歌いながらニヤついている。一体何を考えているんだか。
「あと1時間はかかるみたい。長いね」
「そうですね〜。……あ、そういえば!」
リンフィは聞かれたくないことなのか、私に耳打ちした。
「キス、いつしますか?」
「なッ……!!」
なんというか、キスのことを聞かれた事じゃなくて、耳打ちされたのに驚いた。なんだかゾワッとする。
すると、馬車を引く御者が私たちの方をちらっと見た。
「な、なんでもないです……! 気にしないでください!」
私は慌てて声を上げる。そりゃあ急に叫んだら怪しまれるよね……。
そんなことを思っていると、リンフィは小声で「御者さんにバレないようにこっそりしませんか?」と言った。私はあまりのことに顔を赤くして驚いた表情でリンフィを見る。リンフィはこのスリルを味わいたいんだろうか。
私は仕方なく、無言で目を閉じてリンフィが来るのを待った。少し間が空いて、リンフィは唇を重ねた。さすがに舌は入れないみたいだ。そのことに触れるとまた物足りなかったと言われそうだからやめておく。
……それにしても、なんでこんなことを思っているのにリンフィの方が物足りなそうな顔をしてるんだろうか。リンフィは真っ赤な顔で私を愛おしそうに見つめている。私まで顔が熱くなってしまいそう。
私は少し考えて、もうどうにでもなれと不意打ちでリンフィにキスをした。リンフィは驚いた表情で顔を赤くしている。
二人の間に、少しの沈黙が流れた。……あぁ、私のせいだ。
「……ぎょ、御者さん! あとどのくらいで着きそうですか?」
リンフィが場の空気に耐えられず御者に声をかける。ありがたい。
「あと20分くらいですかね。……それにしてもさっきから急に喋らなくなりましたけどどうかなされましたか?」
「ぇえ? あ、あぁ……あの、二人とも眠くなっちゃったので……」
「あぁ……そういう事でしたか。てっきり気分でも悪くなってしまったのかと」
「いえいえ! 全然そんな事ないですよ! ねぇ、ミアリス」
「……あ、うん」
「それなら良かったです」
リンフィが適当に誤魔化す。さっきまで楽しそうに会話していたのに急に会話が無くなるとと気になってしまうのも無理はないだろう。でもほとんど私のせいだ。
でもなんか、体が勝手に動いてしまったのだ。リンフィの物欲しそうな顔を見ていると体が勝手に吸い寄せられて……。とにかく! あれは私がキスをしたくてやった訳じゃない! 体が勝手に……!!
……なんて、自分に言い訳しても意味は無い。でも自分からキスするのも、なんというか、ちょっとだけ好きだなと思った。
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