第3話 欲張り
「……ねえ、リンフィ。私ってリンフィのことが好きなのかな……」
自分の気持ちなのに何も分からない。キスを求めていても、私はリンフィへの感情が恋なのか分からない。
「そんなこと私に聞かれても……」
リンフィは少し考えた。
「そうだよね。ごめん」
「……無理に悩まなくていいんですよ。別に好きにならなくて良いので、いまのうちは。とりあえず今は私にあなたを好きでいさせてください」
「リンフィ……」
「困惑した顔しないでくださいよ。私の大好きなミアリスの可愛い顔が台無しですよ」
リンフィは笑う。
今日の朝好きにさせるのが良いみたいなこと言ってたのに、無理に私に合わせてくれているのかもしれない。
多分この先私はリンフィを好きになっていくんだと思う、けど。今その気持ちに気づく必要は無い……ってことでいいのかな。
リンフィからの気持ちが、困った私を優しく包み込んでくれた。
「焦らないでくださいね。でもいつかは必ず好きにさせてみせますよ」
「……そっか」
そんなことを言うのが、少し嬉しい私はおかしいだろうか。私もリンフィを好きになりたい。リンフィと過ごす日々はきっと明るく待っているはずだ。
「……お出かけの日、楽しみだな」
思わず口から漏れた。
私にとってその日が、リンフィへの感情に気づける日になるんじゃないかと思ったからだ。
「……あら、やっぱり今日は素直ですね」
リンフィは私を見て少し目を丸くした。
「そう……なのかな」
「ミアリスはキスをしたら素直になる……と、なるほどなるほど」
「余計なこと言わないでいいから!」
全く、リンフィのこういう所は困ったものだ。
「い、今はリンフィのこと好きじゃないけど……私は、好きになりたい。キスだけ求めて、自分は好きにならないなんてそんなの自分が欲張りみたいだから……」
「あら、やっぱり求めてたんですね。嬉しいです。まあ私は相手が私の事好きかどうかなんて関係なく好きな子がキスしたいと思ってくれてることがいちばん嬉しいですよ」
リンフィは私の顔を見て微笑んだ。そういうのがずるい。
「だから、お出かけが楽しみ。リンフィがどんなことをしてくれるかな、って」
「……それ、夜の話では無いですよね?」
「……違う」
私は思わず顔を逸らす。少しだけして欲しいなんて思ってしまった私は最悪だ。
そしてしばらくして、リンフィも家に帰り、私は1人で部屋のベットに転がった。
……そういえば、まだこの前読みかけの本があったはずだ。
私はベットの横に放置された本を手に取って昨日の栞をつけたページを開いた。
『そんな同性しか愛せない少女にも、1人の婚約者が出来ます。それはなんと女の子で、その少女はすぐに恋に落ちました。少女はその日から自分の望んだ世界に目を輝かせ明るい日々を送ります。こんな理想通りの世界、疑ってしまうくらい嬉しいと感じる少女は、この家系は女の子の婚約者も受け入れる事にできないかと家族に申し出たのです。今回は誰も居ないから仕方なかったんだと断られました。城の跡継ぎ問題があったから。
少女は養子を迎えてはどうかと提案しますが、それも断られ、少女の気持ちは私のように困っている人もいるはずなのに。と肩を落としどうすることも出来ない状況に酷く落ち込んでしまいました。
少女は考えます。
同性愛者は少ないとはいえ、いることには変わりないのだから、私のように困る人を家族に出したくないのに。こんな当たり前が続くなんて、世界は理想的じゃなかった。
少女は両親が納得するまで言い続けました。そしてやっと、その願いがかなったのです』
……ここまで読んで、本を閉じた。なんだか気になる点が多すぎて本を読む手がすぐ止まる。
これ、私の家の事じゃないか。いや、その可能性はだいぶ高い、と思う。この家に代々つたわる話なのかもしれない。だから、私の婚約者はリンフィになったのかな。……ちょっと、嬉しい。
分からないけど、ちょっと期待してみる価値はある。
……リンフィは、その事を知ってたんだ。なのになんで私は知らなかったんだろう。もしかして、同性が好きなことバレてて出来れば異性と結婚して欲しかったから……? そんな決まりがあったとしても異性と結婚するのが1番なんだろうな……。
少し世界の当たり前が悲しく思える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます