黄金の枝

「なるほど。アレイナも俺がどこかの迷宮の管理者かもしれないと……」


「どこかって、ウサクの迷宮しかなくない? あそこは百年前には潰れてたんだよな。イルさんが引きこもってた年数とも一致するし、自然とイルさんを管理者だと思ってる連中も結構いたよね」


「定説では、迷宮が尽きる原因はふたつ。人間が最深部に到達するか、魔素が足りなくなるかです。その頃でしたら、もうすでに生きた迷宮は少なく、攻略よりも保存の方針が取られていたはずです」


 話しながら、アレイナがフェムに新しいリボンを巻く。フェムを手元に戻したい衝動に駆られるが、じっと耐えた。


「ウサクには攻略名物の一つも無いしね。田舎だからかな」



 攻略名物か。大体がしょうもないものだが、結構な人気があるらしい。温泉客にも聞かれたことがある。

 迷宮の一番有名な魔物を象った木彫りとか、攻略隊の使っていた武器やアーティファクトの模造品とか。


 魔物ジョーク的には、ウサクの攻略名物は俺自身か――


 いや、俺は何もしていないし、迷宮が勝手に死んだのだ。何もしていないから、死んだのかもだが。いや、やっぱないな。ないない。ウサクの迷宮は勝手に死んだ。そういうことにしておこう。


 内心はともかく、あくまで真面目に。二人の考えをまとめる。



「攻略されていないのなら、残るのは自然消滅だが……ウサクは極めて魔素の多い土地だ。迷宮にとって不測の事態があったという方が、まだ納得がいく」


 しかし、当の俺には迷宮に関する記憶が殆どない。


 アレイナが、俺を迷宮の管理者だと推測する根拠は魔枝の本数だ。迷宮出身の魔物であっても、俺の六本というのはまぁまぁ多い。管理者としては下から数えた方が早いが。


 俺自身にも思い当たる点はある。俺が百年も引きこもっていた理由だ。


 ここが俺のいるべき場所なのだという意識。あれは死に損なった迷宮が俺を縛っていたのだと、支配が無くなった今だからわかる。

 通常の魔物は、積極的にはそうしないものの迷宮の外に出ることを禁じられてはいない。最深部に留まる――そんな誘導が必要なのは、管理者くらいだろう。


 大迷宮時代の記録の中には、迷宮の管理者と遭遇したというものもある。どこまで本当か怪しいが、十一本枝の管理者も冒険譚には出てくる。


 アレイナの推測も合わせて考えてみる。管理者と遭遇しているのに、人類が迷宮に関して全てを知っている訳ではないのは、迷宮の魔物には言動に関する制約があるからだ。

 迷宮が魔物に行動を強制していることは疑いようがない。契約術が必要な理由も、表向きには迷宮の支配を断ち切り凶暴性を抑えるためとされている。


 アレイナは初めに言っていた。契約術で縛られていない魔物の話を聞きたいと。順序よく考えれば、契約術を逃れている従魔は迷宮の支配も受けていない可能性が高い。そう、推測するのはおかしくない。


 辻褄はあっている。迷宮からの制約――支配があるから契約術で何かしないとならないのなら、今や制約の無い俺に契約術を使う必要はない。まったく憶測の域を出ないが。



「迷宮にとって不測の事態ってさ。どー考えても、イルさんが管理者をやらないで、こうしてフラフラ遊んでることじゃない?」


「……あのな。俺は遊んでいない。求職中だ。それに迷宮だって困っていたなら、俺に管理者をやれと頼めば良かったんだ。気がついたら既に潰れていたのだから、迷宮が悪い。まぁ、頼まれてもそんな面倒なこと、やらないが。なにより、言動に制約をかけられるというのが気に食わん」


「これだよこれ。このものの言いよう。こんなのが管理者になるわけがない!」



 セミルとしょうもない言い合いをしていると、アレイナが俺を呼んだ。



「これでしたらどうでしょう? フェムさんの色と同じ白いリボンを使って、パラコード編みの応用で、イルさんが持つのに邪魔にならない中間あたりに平たく編み込んでみました」


 作業の間、フェムはアレイナの手元に預けられていた。フェムが他人に持たれることに抵抗しなかったのは、これが初めてだ。まぁ、持たせようとしたことも殆どないのだが。ともかく、フェムはアレイナに相当に気を許している。少々、悔しいが。


 フェムを受け取り、細かく編み込まれたリボンの構造に触れる。



「これは、あれか。猟師がナイフのグリップを巻いたりする編み方に似ているが」


「そうですね。ナイフやカタナのグリップや、ロープワーク、マクラメ編み、その他様々な編み物など……分野は異なっても根本の結び目の仕組みは変わりません。構造には、どこかに繋がりがあるのです。面白いですよ」


 アレイナのいうそれは、術の深奥にも似て思える。そういう話は好きだ。


「ああ。とてもいい。この紐も安いものではないだろう? 材料費は払うが」


「代金でしたら、フェムさんからもう頂いたので。千五百グラン。手間賃を入れても多いくらいですね」


 アレイナが指に魔素を巡らせた。小麦色に輝く輪は、お金を表すサインだろうか。



「そうか。フェムも喜んでいる。……アレイナ、セミル。よく見ていろ」


 二人に見えるように、フェムを正面に差し出す。

 いちど顕現を解除し、すぐに呼び戻した。ただ、それだけだ。


「どうだ?」


「あっ!」


 意外なことに、セミルが先に気づいたようだ。


「リボンが一緒に消えて、一緒に出てきた。アーティファクトは物理法則の外にあると言われてるけど、リボンはそうじゃない!」


 驚きに固まっていたアレイナが続く。


「そうです。物を消したり出したり、瞬間移動させるアーティファクトは知られていないはず。ほんの小さなリボンですけど、フェムさん、一体……」



 そうだろう、そうだろう。フェムはすごい。フェムはかしこい。もっとほめろ。


 まぁ、俺も今やってみるまでできるとは思っていなかったんだがな。フェムがよほど結び目を気に入っているようだから、できそうな気がしたのだ。


 最高にいい感じですごいすごいムードになっている俺に、スンッと平常運転に戻ったセミルが水を差した。



「……なんでイルさんがそんなに偉そうなんだ。アレイナさんも、褒めるのその辺にしておかないと。この人、フェムちゃんのことになるとバカになるのでキリがないですよ。そろそろ本題に戻ろう」








 当初の予測通り、俺の知識でアレイナの助けになりそうな情報はあまりなかった。俺は言動を迷宮によっても、契約術によっても縛られていないが、それは元々何も知らないからである可能性が高い。



「精霊に教えられて、一年が巡るたび俺は壁に印を刻んだ。始まりは121年前、夏至を過ぎた頃――」



 あの印も、もう増えることは無い。そう思うと、多少の郷愁も覚える。


「初めに俺が知っていたのは、ごく基本的なハルディアの標準語と、精霊が迷宮の端末であること、名前を決めろ、性別を決めろという意識か。それと、ここが安全でここにいるべきだ、という感覚。この話を人間にするのは初めてだ。誰にも、先生にもしたことがない」


「名前はまだわかるけど、性別? えっ、イルさんって生まれた時、中性だったってこと? マジで? 迷宮の魔物ってみんなそんななの?」


 セミルがのめり込むように聞いてくる。木箱の上で片膝を抱え、目を閉じて記憶を遡ろうと試みるも、これ以上は無理だ。思い出せない。


「わからない。俺はそうだった。精霊の何人かが、男がいい、男の声を聞きたいというので、じゃあ男でいっか。みたいな」


「いっかって……そんな適当な。この調子だと名前も精霊が?」


「ああ。俺には何もわからないので、長生きな精霊が、物語から二音選んで……」


 性別のくだりを神妙に聞いていたアレイナが口を開く。


「名前も、性別も、精霊のことも。たったこれだけでも、迷宮の魔物から聞き出した人間は、殆どいないかもしれません。多少なりとも言語を扱う魔物は、その土地の言葉を話します。ハルディアの標準語というのはそういうことでしょう」



 言葉が使えなければ、精霊や他の魔物との意思疎通も難しいからな。何故、土地の言葉に合わせているのかは不明だし、管理者とやらを任せるには不足が過ぎると思えるが。俺の語彙のかなりは、精霊から、さらには地上に出てから学んだものだ。


 精霊たちは初めから俺を仲間と認めていたが、一方で俺を管理者として扱うことはなかった。精霊は迷宮を訪れる人間の相手をするのが仕事だ。情報管理の必要性から、精霊には管理者についての知識がないのかもしれない。



「ああ。期待を裏切ってすまないが、俺は迷宮や管理者についてろくな知識がない。俺は何か不完全な状態で生まれ、迷宮の支配も弱く、管理者の代替わりに失敗した迷宮は百年かけてゆっくりと死んでいった。おそらくそんな所なのだろう」


「迷宮の支配。ここにいるべきだという感覚……」


「そうだ。お陰で百年も引きこもる羽目になったが」


 あくまで軽く、迷宮への皮肉を込めて返す。俺の言葉を確かめていたアレイナは一息つき、イルさんにどうしても聞きたいのです、と前置きした。頷いて、続きを促す。


「イルさんは、迷宮への帰属意識や、破壊衝動を覚えることはありますか?」


「それは即答できる。今は一切無い。引きこもらせる制約は、迷宮が完全に死んだ瞬間に無くなった。破壊衝動は元から感じたこともない。それが、アレイナが最も知りたいことか?」


 言外に、それだけではないだろうと含めて答えた。これまでにアレイナがもたらした情報とその解釈。そこに見えるバイアスから、彼女が望んでいるものは自ずと予測がつく。


 セミルもじっと話を聞いている。狭い地下室が、これまでになく静寂に満たされた。向かい合うアレイナの鼓動までは流石に聞こえないが、先端をほのかに赤く染めた小麦色の光の循環が、彼女の緊張をあらわにしている。


 面倒だな。言ってしまったほうが早い。



「……アレイナの救いたい奴ってのは従魔か? そいつに契約術を施されたくないから、迷宮の支配から解放したい。そういう話だと仮定すれば納得はいく」



 俺の声に合わせ、アレイナの魔素が鋭く大きく走った。すぐに落ち着きを取り戻すも、誤魔化しようのない反応だ。小麦色の脈動の軌跡から、薄桃色の花弁が散る。この二色の魔素は、あまり見ないタイプだが、眺めて暇を潰すには実によい。



「魔素制御の訓練が足りていないぞ、アレイナ」



 緊張をほぐすよう、柔らかく微笑みかける。アレイナは、今更あわあわと動いて反論した。


「ムリ、無理です。訓練はしていますが、イルさんの目を誤魔化せる気はしません。問題としては、イルさんの仰る通りです。ただ、従魔ではなく……彼は、人間なのです」


「人間だって?! もっとヤバイやつじゃないか」



 セミルが立ち上がった勢いで木箱が倒れ、地下室に乾いた音が響いた。セミルの反応ももっともだ。人間に契約術を使う。それは殆ど創作か陰謀論の世界の話だ。


 だが、やり方を変えれば現実にもあり得る。人間と魔物の線引きが、多くの人間が考えているよりも曖昧だとするなら。線を引く位置を少しずらせば、魔物が一匹増えるだけで済む。


 俺は自分の平穏を求めるが、魔物の権利がどうなどと、意識の高い行動をするつもりはない。今この瞬間も多くの魔物が、自由な意思なく使役されているだろう。その事実を知ってはいても、俺が俺個人の平穏を享受することに迷いはない。義務や責任だのと、邪魔をされる謂れもない。


 面倒だというのが一番の理由だが、俺一人でできることなどたかが知れているからだ。


 だが、そのたかが知れた腕の短さで、動かせる何かが手元にあるのなら。

 人と関わるリスクを、面白さが上回るなら。


 まぁ、悪くはない。


 平穏は求めるが、一人で同じことの繰り返しというのは少々飽きる。迷宮跡に引きこもっていた間でさえ、俺には精霊たちがいた。特級を得て、自由に動けるようになって、俺は自分で思っているよりも退屈に弱いことに気づきつつある。



「……面白い。そいつを救ってみたくなった。少し、心当たりがある」



 アレイナが言葉にならない声を洩らした。その驚きようは、俺の目にもよくわかる。



「まぁ、待て」


 魔枝の一本を手繰り、二人に見えるように持ち上げる。古くなった枝を切り落とした魔枝はしなやかだ。その先端に魔素を集めるよう制御する。


「これなのだが……本能的に意味のあることをやっている、という実感……いや、包み隠さず言えば若干の快感さえある。だが、俺はこれが何なのか、初めの頃、知らなかった」


「あーー、それね。ガキがよくわからないまま自慰してる感じ、でしょ」


「……っふ」



 思わずアレイナがむせた。セミルの喩えは最悪だが、なかなかに言い得ている。不本意ではあるが、場の空気を適度に和ませるのにも役立ったようだ。アレイナが恐る恐る、魔枝を手に取る。


「綺麗ですね。アダマンタイトの色変わりにも似ています。角度を変えると、何色も帯びて見えるところが」


「ほんとだ。先端の一節だけ、色が変わった。黒は黒なんだけど、こう……」


「俺のはそういう色か。自分には見えないからな。誤解の無いよう言っておくと、魔枝は生殖器ではない。それは別にある」


 流石にそこを勘違いされると、俺はとんでもない変態になってしまう。魔物にもその程度の羞恥心はあるのだ。


「うん、別にあるのは知ってる。……アレイナさん、なんでそんな目で僕を。違う違う、この人、素っ裸で部屋の中歩いてるもんだから」


「……はぁ。その話は、あとだ。服のことでアレイナを頼れないかと考えていたし。俺の、いやおそらく魔物の本能だと、魔枝はむしろ服に近い。魔枝を全て出している方が、きちんとしているというか、高貴な感じがするというか……人間の概念に照らし合わせて言語化するのは難しいが」


「高貴、ですか。うーん」


 アレイナよ、そこはすぐ納得するところではないのか。俺がやろうとしていることを、どう話したものか。本能的な感覚を、人間に伝える難しさを実感していると、セミルが膝を叩いて声をあげた。



「わかった。イルさんのやりたいことが。色の変わる魔枝、高貴という言葉。孤高のイルカイだ。あっ、名前……」


「そうだ。俺の名もそこからだ。精霊でも知っている者がいるほど、このあたりでは有名な民話だな。先生が俺に文字を教えるのに、はじめに書き写したのもイルカイの物語だ。イルカイは別名を高貴な魔獣とも言う。アレイナは聞いたことはないか?」


「いいえ。私は本島の出身で、北島……インサナディアに来たのは高校の頃なのです。首都圏では、魔獣には知性がなく駆除するものという意見も少なくありません。こちらに来て視野が広がりましたが、未だにその印象が完全には拭えなくて……高貴と言われても、少しピンと来ない所があります」


 なるほど。ふと、アレイナのように、二色に変化する魔素を持つ人々の集団を想像した。さぞかし、眺めて味わうには良さそうだ。いや、流石にそれはないか。本島のことはあまり知らない。


「魔獣には言語をあやつるような知性はない。だが、彼らは数千年か数万年か。迷宮の支配も庇護も受けず、本能と自由意志で生きている。アレイナの言葉を借りれば、魔獣は縛られていない魔物だ」


「……確かに」



 ある意味で俺は、迷宮の魔物より、魔獣に近い立ち位置なのかもしれない。


 魔獣は、太古の昔から迷宮の外で野生化し、拡散したといわれる魔物だ。魔獣には生物らしい警戒心がある。さらには、学べば人に慣れる個体すらいる。迷宮への執着は、そこには見えない。


 ウサクの猟師たちは、野生生物の命を頂くことを生業とすれど、その摂理を学び、尊重もする。枝持ち、つまり、群れの主を狩ることは基本的にない。主を失った魔獣の群れは荒ぶるとされるからだ。


 ――群れが荒ぶる。

 つまりは、迷宮の支配に抵抗できなくなるのだ。



「イルカイは三本枝の魔獣だ。群れを作らず、一匹で生きている。だが、行く先々で出会う魔獣をこれと認めると、自分の魔枝を一節与える。イルカイの折った魔枝は、黄金の輝きを持つ。黄金の枝を喰った魔獣は、それぞれの生きる先で、困難に立ち向かう気高さを得る」


 続きを、セミルが引き継いだ。


「イルカイは最後、荒ぶる熊と闘って、トヤナーク山の火口で相打ちするんだ。果てるその時までイルカイは一人だけど、枝を与えた魔獣たちとの繋がりをずっと感じていて、一人じゃない。イルカイの高貴な魂は噴煙と共に天に登って、やがて雨となり、ウサクの地に帰る」


「悲しい、けれど、美しい物語ですね。でも、そんな強い魔獣も、熊にはやられてしまう……」


「熊は……仕方ないかな。本島の熊とは違って、インサナディアではわりと、インチキに強い生物だから。僕も子供の時、イルカイの物語を読んで、なんで熊にやられちゃうんだよって悔しくなったけど。多分、そこも含めて示唆がありそうだし」



 熊は、まぁ、仕方がない。


 現実の魔獣は、群れであっても熊と戦うことはまずない。インサナディアの地には、魔獣との共存を示す民話がいくつも残っているが、この地の強大な熊や厳しい自然が、人にも魔獣にも等しく脅威であることが、その背景にある気がしてならない。


 イルカイが群れを作らずに枝を与えて旅するのも、単独で熊と戦うのも、現実にはあり得ないことだ。これは、物語を際立たせる都合であり、人間の想像力の賜物に過ぎない。


 ただ、イルカイの最後を思えば、あり得ない生き方を選んだことも含めて、この土地の息吹をそこに感じられる気がするのだ。

 俺はイルカイが嫌いではない。名をもらったというのもあるが。話を聞いていると、どうにもイルカイの援護をしたくなる。



「イルカイの戦った荒ぶる熊は、トヤナーク山の火口の奥深くに溜まっていた霊が無数に憑いていたとか、ウサクの地に帰ったイルカイの魂は、その霊も導いて豊かな魔素となったとか、猟師の語る詳しいものだと色々ある。だが、今、重要なのはそこではない」



 立ち上がり、天に登るイルカイの魂を思い描きながら、両腕を広げる。右腕はあまり動かなかったが。一足前に歩めば、人の女が掻き上げる髪のように背に戻された魔枝が、硬質な音をたてた。



「――黄金の枝を喰った魔獣は、気高さを得る。イルカイは枝を与えた魔獣との繋がりを感じている。山に生きる魔獣も、色を変えた枝を喰わせて新しい群れを興す。主を継がせたり、強い個体を迎え入れる時にも、枝は与えられる」



 朗々と、うたうように。数歩。一つ、床にフェムを打ちつければ、響く音が、知覚の織りなす広がりにしみわたり、闇を塗り替える。地下室の端、火口の縁で、迷宮の灼熱に焼かれる荒ぶる者を想い。振り返り、カルデラの麓、ウサクの地に二人の光を見下ろす。六条の魔枝がそれに遅れ、ゆるやかな弧を描いた。



「俺は、群れを作らない。何を成すかも求めない。他人など、好きに生きればいい。本気でそう思っている。

 ――だが、気が向けば与えることもある。困難に立ち向かう、少しの気高さを。


 ……どうだ、アレイナ。わかったか? 俺が、どういう存在なのか」

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