第181話 イマイチド
「──ふんふんふーん♪」
自然と鼻歌が漏れる。そして鼻歌を彩るように、コツコツコツと靴の音が辺りに響く。
ここはダンジョンの上層。玉木さんとの話し合いを済ませてから、やりたいことをやるために、こうして近場にあった適当なダンジョンに足を運んだわけである。
「にしても、あのオッサンは人のことをなんだと思っているのやら……」
玉木さんは言った。『いまは物理的な報復はしないでくれ』と。注目されている状況では、隠蔽にも限度があるから。法に触れるような行為は謹んでくれと強く訴えられた。
いまさえ我慢してくれれば良いと。世間の目が移ろった頃ならば、関係者全員、親類縁者ともども皆殺しにしても構わないからと。
いやはや、酷い話である。さすがに親類縁者まで皆殺しにするほど、俺も血の気は多くないのだが……。人を殺して回って悦に浸る趣味などないってのに、随分な言われようだと呆れたわ。
まあ、時期をズラすぐらい別に構わん。俺としても、これ以上デンジラスや天目先輩に迷惑を掛けるのは忍びないし。
特にいまは、情勢的に切迫しているらしいし。俺の関係者を狙ってのテロが起こったってだけでも洒落にならんってのに、これ幸いと裏の世界も騒がしくなるかもしれんとのことで。
世界で通用する暗黙の了解として、『実力ある探索者にちょっかいを掛けるな』というものがある。そういう連中は、往々にして個人の範疇に収まらない武力を所持しているためだ。
怒りに任せて暴れられたら、手が付けられない。それどころか、高確率でその地域の各勢力が巻き込まれる。だから触れるなというわけだ。
だが、なにごとにも例外というものがあるらしい。それが今回のような事例。実力ある探索者と取引のある勢力が、何かしらの不手際をやらかして関係に亀裂が入った時だ。
別に変なことをする必要はない。ただ悪い噂を流せば良い。公になっている事態ならば、SNSなどで拡散して周りを焚き付けることもするという。
そうやって外野からアレコレ囃し立てて、当事者である探索者との関係を悪化させる。悪化せずとも、多少の亀裂が残れば儲けものという悪巧み。
上手くいけば対抗勢力の力が落ちる。失敗しても自分たちに損はない。やってることは合法で、噂の出処さえバレなければ害はない。そもそも不手際を起こした奴らが悪いのだ。
とまあ、そんな感じの攻防が、定期的に裏の世界では起こるようで。今回もその例に漏れず、犯罪者や他国の工作員が好き勝手に情報をバラ撒くであろうから、できる限り隙は見せたくないらしい。
多分だけど、玉木さんが急いでいたのはこうした背景もあるのだろう。外野の野次で関係が修復不可能になる前に、不興を買うのも承知で話を付けたかったのではないかと思われる。
「ま、外野にちょっかい出されるのは面白くないよなぁ」
俺は日本が好きである。なにせVTuber文化の本場にして発祥の地。さらに言えば、それが成立するだけの文化的な土台がある。具体的に言うとサブカル。
別に外国で生活したことはないが、それでもこの国が一番暮らしやすいと断言できる。少なくとも、俺はそう思っている。
産まれ育った国だからというだけでなく、シンプルにインフラ諸々が強すぎるのだ。
だから他国の工作員とやらに、手を出されるのは気にいらない。お国のためとかどうでも良いし、お偉いさんたちの思惑なんてクソ喰らえとも思っているが、勝手に周りを騒がしくされるのは我慢ならない。
なので今回の要求は呑んだ。毎度毎度、悪態吐きながら奔走する玉木さんの顔を立てた部分もある。
「とは言え、どうなるもんかねぇ……?」
しかしながら、向こうの主張を聞き入れすぎるのも問題だ。単純に気に食わない、拳の振り下ろし先がないという部分もあるが、分かりやすくケジメをつけなきゃ後がヤバい。
ただでさえ俺は、一部の連中から蛇蝎の如く嫌われている。いや、不倶載天の敵と定められていると言って良い。
日本を含め、世界中の政府、及び理性的な組織が俺の逆鱗に触れないよう、日々そうした連中と戦い、悪さをさせないよう死力を尽くしているのだ。
そんな中で、こうも堂々と喧嘩を売られて、黙り決め込んだらどうなるか。……間違いなくテロが頻発する。それも俺の周りを標的にしたテロが。
だから絶対に報復はしなければならない。VTuberなんてものをやっていようが、俺の立場の本質は暴力の世界に生きる破落戸。
面子は法や倫理よりも重く、侮りは破滅に繋がる因果を背負ってしまっているのである。
「一応、条件付きの空手形は貰ってるけど……」
だからこそ、玉木さんも苦虫を噛み潰したような顔で言い切った。『法にさえ触れなければ、何をしても構わない』と。前のように、世界をひっくり返したければ好きにしろと告げてきた。
元は自分たちの不手際でもあるが故に、警察と敵対する最悪の事態にさえならなければ、あらゆる不都合は許容する。発生するであろう問題は、すべて自分たちが抑え込んでみせると宣言したのである。
まあ、思ったさ。『そもそも、やるやらないを指図される謂れはない』と。だが、俺はこれでも日本人。和を尊ぶ性質は備えているし、やんちゃするにも最低限のラインみたいなのを設けていたのも事実である。……単純にやる理由がなかったという面もある。
なればこそ、この空手形には唆られた。好きにしろと言われたならば、好きにしてやろうとも。お望み通り、再び世界をひっくり返してやろうと笑ってやった。
で、考えた。発端となった馬鹿ども、メディアの連中にぶっとい釘を刺し、俺を敵視する連中を牽制し、世界規模の祭りを開催する方法を。
もちろん、越えてはならないラインはある。玉木さんによる決死の懇願によって設けられた条件。それに加えて、デンジラスや天目先輩には迷惑は掛けられない。表向きは無関係とはいえ、ウタちゃんさんにも配慮はすべきであるだろう。
それらを踏まえた上で、悩みに悩んだ果てに、一つの案を思い付いた。
「……ここら辺か」
まずはダンジョンに潜る。そしてぶらぶらとうろつく。で、ちょうど良さげな、人目もなく、周囲にも人の気配もない場所を見つける。
「……フッ!!」
あとは簡単だ。阿頼耶識によって知覚を拡大。愛用の獲物、天叢雲剣を振り抜き、ダンジョン内の空間と構造そのものに刃を通す。
そうしてできあがるのは、次元を跨ぐ世界の不具合。──ダンジョンの最奥、深淵へと繋がるワームホール。
「たのもー!」
そう。これは一種のショートカット。阿頼耶識によって知覚した座標目掛け、横たわる次元に刃を入れて無理矢理切り拓く力業のテレポート。俺がダンジョン探索にて常用している裏技であり、短期間で地上とダンジョンの深部を行ったり来たりしているタネ。
今回は現在地から、深淵へと一足飛びに移動するために行った。……その目的はただ一つ。
「国造り、または文明と発展の神を所望する!!」
『──承知した』
──俺はここに、神を殺すために来た。
ーーー
あとがき
ここからがハイライト! ノンストップだぜぇ!! ……なお更新頻度は変わらない。
それはそうと、暖かいお言葉励みになります。
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