第180話 ヒトデナシのロジック その六

「ぬぬぬぬぬっ……」


 汚い。大人って本当に汚い。義憤に燃えて衝動に身を任せることすら許してくれないなんて、あまりにもあんまりだろうに。

 そもそも俺被害者なんだが? 失言のせいでいろいろ加速した感はあるけど、発端は実家にちょっかい掛けられたからなんだが?


「……そんで地味に悲しいのが、ウタちゃんさんや天目先輩からの信用のなさなのよな。テレビ局の人間皆殺しにする的なこと言われて、否定しないで協力されんのか……」


 なお、デンジラスはあえて除くものとする。企業の判断と個人間の信用信頼は決して並び立たないので。


「いやあのっ! 誤解です!?」

「さすがにそんなことは思ってないよ!? 本当だよ!?」

「あー、そこのお二人の名誉のために伝えておくが、そこまでは言ってねぇぞ? 皆殺し云々は俺や政府側の予想だ。説得の時はもっとマイルドな表現を使ってる」

「それはそれでどうなんよ」


 公的機関所属の人間に『ヤる』と思われてるってことだろそれ。一般人なら不名誉通り越して不都合あるやつじゃねぇか。


「ちなみに説得に使った文言は『コイツの性格的に、猪マスク被った上でテレビ局に殴り込みをかけかねない』だ。それで警察沙汰になったら国が詰むと伝えた」

「雷火さんからの贈り物でそんなことするかよ。やるならホッケーマスク被るわ」

「語るに落ちてんじゃねぇか殺人鬼」


 え、でも恐怖演出としてはこの上なくない? 刃物持ったホッケーマスクの不審者が襲撃してくるとか、日本人なら大体怖がるだろ。相手がテレビ局だから皮肉も効いてるし。


「まあ、ともかく。そしたらお二人も、『それぐらいなら確かにやりかねんな』って思われたわけだよ。これに関しては日頃の行いだな。過去に似たようなことやった芸人もいる。説得力もあったんだろうさ」

「それ確か昭和だよな? え、昭和の芸人と並べられるんか俺……?」

「もっと物騒だろうがてめぇは。……そんなこんなで、だ。お前さんを犯罪者にするぐらいならと、文句を言われることも承知で手を貸していただいたわけだ。むしろ愛だろこんなの」

「これが、愛……?」

「お前そこで首傾げんのは人としてやべぇぞ……?」

「冗談よ?」


 だからそんなドン引きしたような目で見ないで? そこでマジかと疑われる方がショックなんだけど。ガチで人のことを『愛を知らない怪物』だと思ってる疑惑生やすのやめれ?


「てか、それつまりアレだよな? 俺がそういうことするって思われてる人間だって、いまこの場でバラされたってことだよな?」

「どうせ時間の問題だろ。それにお前さんの本性は、早いうちに知っておいた方が良い部類だと思うが?」

「いけしゃあしゃあと……」


 でも、あんま否定できないからツライところ。


「あと、愛って言われて気付いたんだけどさ。これもしや、入籍報告だけすればその時点で話終わってたりする……?」

「ぶっちゃけるとそうだな。お前と天目さんの紐付けは終わったわけだし。短期間で撤回したら、偽装結婚やなんや言われて批判がでかねない。つまり当分、お前の下手なことはできん。目的は達成してるな」

「だから二人とも納得したわけか……」


 ただ表向きに入籍しましたよーと伝えるだけなら、そりゃ協力ぐらいはしてくれるわな。少なくともウタちゃんさんは。ただお願いしますと伝えるだけで良いんだから。

 問題があるとすれば天目先輩だけど……自分の活動よりも、俺に前科が付かないことを優先してくれたということなのだろう。それについては感謝と申し訳なさで心がいっぱいだ。


「……え? そうなんですか?」

「……おいオッサン。ウタちゃんさんの反応が妙なんだが? 天目先輩も言葉に出してないけど、似た感じだぞ?」

「まあ、実際に入籍する必要はないとは伝えてないからな。それだと嘘になる。そしてお前は嘘だと見抜くだろ。だから『愛』だって言ったんだよ」

「オイコラ」


 つまり二人のこと騙してるってことじゃねぇか! 詐欺紛いのことするのは話が別だろうがよぉ!?


「……そう睨むな。こっちだってなりふり構っていられなかったんだよ。それに実際に入籍してもらった方が、俺としても助かるのは事実だ」

「ああ?」

「お前さん、どうせこの後になったら、詫び名目で天目さんにアレコレ貢ぐだろ。金なら贈与税込みの値段を渡せば公的には問題ないが、物品となるとそうはいかねぇ」

「……贈与税込みの値段ってどゆこと?」

「あ? 税率は決まってるから、それを踏まえて金を渡せってことだが? 他になんの意味がある?」

「……そうすれば破産しないん? え、過度な贈与は破産を招くんじゃねぇの?」

「そりゃ調子のって貰った現金バカスカ使うからだよ。あとはいま言ったように物品だな。物品は変えるまでが大変だし、どうにか変えても収入扱いになったりで、分かってる人間がやんないとエラいことになるからな」

「マジかよ知らんかった。つまり現金だとほぼ自由にあげられんのか……」

「それはお前だけだかんな? てか、そんなことも分かんなかったのか? 普通に考えれば分かるだろ?」

「いや、税金関係は税理士さんに丸投げしてるから……。そんで贈与税で破産するって話はネットかなんかでたまに見るから、てっきり俺の知らん制度があるのかとばかり……」

「金回りについて考えなさすぎだろお前……」


 これについては否定できんかもしれん。いや、常識的に考えればそれはそうだよな。贈与税は独立した一項目なわけだし。

 そして税金は割合計算で算出される以上、基準となる金額を超過することは絶対にない。つまり贈与税単品で破産するようなことは、基本的にありえない。

 つまりネットで伝え聞くような破産とは、手を出してはいけない金まで使ってしまった場合が大半ということなのだろう。……うーん勉強になる。


「話を戻すぞ? つまり、だ。高価な品を貢ぐなら、籍を入れて共有財産にしてもらった方が、こっちとしてはありがたいんだよ。無駄にアレコレ隠蔽する手間も省けるし、そもそもスキャンダルの種はない方が良いからな。あとついでに、もしもの時のアテも増える」

「……徹頭徹尾、そっちの事情で草も生えんのだが?」

「それだけこっちも必死だってことだ。すべてを馬鹿正直に伝えていたら、ほぼ間違いなく失敗してただろうしな」

「それで俺が納得するとでも?」

「だからこうして、包み隠さずネタばらししてるんだろ。誠意だよ誠意。悪巧みの時間はお終いだ」

「……狙いを知った俺が、ブチギレるかもしれないのに?」

「全賭けしたんだ。なら、なりふり構わず突っ走るべきだろ? それで尻込みしてちゃ、勝てる賭けも勝てねぇよ。──そんでもしお前がキレたら、その時はまた説得に命をかけるだけだしな」

「カッコつけんな。ただのその場凌ぎだろうが」

「何言ってんだ。毎回そうに決まってんだろうが。お前がこっちの想定通りに動いてくれたことがあったか?」

「何度かやり込められてはいる」

「悪足掻きを成功体験にカウントされたら堪んねぇな。最善は何事も起こさせないことなんだからよ」


 それはそう。


「……実際、いまだってそうだろお前。やり込められたなんて言いつつ、だ。冗談を挟む余裕すらある。それは腹にまだナニカを抱えてる証明だ」

「ソンナコトナイヨ」

「誤魔化されるかよ。お前が矛を収める時は、やることやって満足そうにしてるか、面倒くさすぎてやる気がなくなってるか、詰みを理解して心底悔しそうにしてるかのどれかだ。そうじゃないならお前はまだやる。少なくともやる気はある」

「……」


 アハハハ。バレてーら。さすがは玉木さん。付き合いが長いだけはある。


「正直、嫌なイメージが頭にこびりついて仕方ねぇ。噴火直前のマグマが見える。……ったく。これだからお前は嫌なんだ。アレコレ奔走して首輪を嵌めても、意趣返しでリードの方を引きちぎってくる。それができるだけの力がある。厄介なことこの上ない」

「へぇ? それでどうすんの?」

「交渉……というより嘆願だな。俺たちの一か八かの悪足掻きでも、お前の出鼻を挫くぐらいしかできないんだ。なら、涙ながらにお願いするっきゃねぇ」

「オッサンの泣き顔とか見たくないんだが?」

「そうか。なら少しは意趣返しもできそうでなによりだ。外で話そう。代わりの警護は置いておく」

「あ? 別にここで良いだろうが」

「内容がダーティーすぎるからな。それに、そこのお二人にも考える時間が必要だろう。あとは女同士の話し合いも。なにせ前提がひっくり返ってるんだ」

「またもやいけしゃあしゃあと……」


 原因アンタだろうがよぉ。ほんまこのオッサンってカス。裏工作に手を貸してる時点で今更っちゃ今更だけど。

 しかしながら、言っている内容は正論だ。そんで多分だけど、二人に必要な話し合いに俺、てか男の混ざる余地はない。


「……はぁ。ウタちゃんさん」

「な、なんでしょう……?」

「俺は一旦席を外します。この性格の悪いオッサンと、アレな話し合いをしなくちゃいけないんで」

「は、はい」

「なので、入籍云々の話は任せます。二人でどうするか話し合ってください。結論がどうなろうと、俺は素直に従いますんで」

「……いろいろと言いたいことはありますけど、分かりました」


 ありがたい。表情がなんかもうアレだけど。めっちゃいろいろ飲み込んでるのが丸分かりだけど。申し訳ねぇな本当に。


「天目先輩も、今回は本当にご迷惑をおかけしました。そして馬鹿騒ぎに付き合わせて、申し訳ありません」

「い、いや! 山主君は悪くないし、私も治してもらったから!」

「この件については、どうなろうとしっかり詫びはさせていただきます。トラブルに巻き込んで、怪我をさせてしまったことと合わせて。しっかりと」

「それについては本当に大丈夫というか、自重してほしいんだけど……?」


 まあ、独りよがりにならないよう努力はしますとだけ。


「──んじゃ、行くかオッサン。なにを言ってくれるか楽しみだよ」

「土下座して靴を舐めることから始めてやろうか?」

「汚ねぇから止めろ。それ、せめて舐める側が屈辱感じてないと、やられる側に対する嫌がらせ以外のナニモノでもないから」


 割り切った大人って本当に厄介だよな。必要だと思ったことは躊躇なくやれるんだから。付き合わされるこっちの身にもなってほしいわ。

 とはいえ、茶番はここまでだ。結局、いままでのすべてはこの瞬間のため。俺の出鼻を挫いて、どうにか話し合いの席を儲けるための悪足掻き。

 それが成った以上、ハイライトは否応にもなく訪れる。エンディングがどうなるかまでは分からんがな。


──さあ、落とし前の話をしよう。舐めたことをした奴らの処遇と、玉木さんたちの悪足掻きの成果。すべての結末を決めに行こう。












ーーー

あとがき


前回のQ&Aですが、近況ノートの方に写しました。あとついでに、コメントを確認してもっともかなと思った部分を修正してあるので、若干内容が変わってます。気になった人はともどもご確認ください。


いやー、にしてもよ。思ってたよりQ&Aが不評でビックリしました。あとがきが本編みたいな扱いを受けたのもね……(なお文量については目を逸らすものとする)。

一応アレ、本文と既出の情報から読み取れる内容のつもりだったんですけどね。まあ、ストーリー部分噛み砕いて要点だけ抽出してたから、そう感じてしまった人もいたんでしょうが。

とりあえず、今後は作中設定にまつわるQ&Aは控えるつもりです。やって分かったけど火種にしかならんわアレ。


それはそれとして、個人的に返した方が良いかなと思ったコメントがいくつかあるので、それだけ返します。

見やすさ優先でQ&Aっぽい形にしてますが、やってることはコメント返しなので悪しからず。



Q.なんでQ&Aを始めたの?

A.否定的なコメントが多かったので、保険的な意味で解説を入れました。

あと読者の皆さんを悪く言うようでアレなんですけど、あまりにも想定外の予想が多かったので……。ヒントぐらいはあった方が良いかなって……。


Q.あとがきで説明してないで、本編で説明して?

A.作者的には書いとるつもりなんじゃ……


Q.玉木さん(警察&政府)クソでは?

A.隠蔽に加担したり、サラッと獄中死させるって言ってる人間がクソじゃないとでも?


Q.そもそもマスコミを放置してた国が悪くない?

A.悪いね。でも謝ったところで状況好転しないし。世の中は面の皮が厚くてナンボだし


Q.なんで政府に対して山主はキレないの?

A.悪い意味での信頼。これぐらいやるよなとは思ってる。ただイラッとはきてるし、普通に言動の中に棘混ぜてる。まだ閾値を超えてないだけ


Q.主人公がやり込められててストレスがたまる

A.物語には山と谷があってじゃな


Q.玉木さん視点で書いてほしかった

A.正直悩んだ。でもそれやると答え全出しになっちゃうからなぁー、って


Q.この一連の話やる意味あった?

A.ゴメンこれ導入


Q.結論ありきで話書いてない? 結婚させるために無理矢理キャラを動かしてるように感じて違和感があるんだけど

A.結論に繋がるように書いてるからそれはそう(そういうことじゃない?)。

冗談はともかく。結婚は別に目的でもなんでもねぇです。


Q.ストレス展開長いんだけど

A.それは正直すまんかった。実際、書き溜めかなんかして一気に放出するか、更新頻度をあげるべきではあった。……でもいま年末なんや。そんな余裕ないんや。

無理にサイクル崩して筆止まるより、習慣になってる定期更新を貫いた方がマシかなって判断した

ただそれはそれとして、その四はなくても良かったかなとは思う。あっても別に困りはしないけど


Q.作品テーマとズレてるよね?

A.ちゃんとこのあと配信入れるからユルシテ。ユルシテ……


Q.結局作者が何を書きたいのか理解できない

A.そもそもまだ書きたい部分書いてない


Q.作者はこの展開でなにをしたいの?

A.一応、やりたいことはある。目的はそのうち分かる



ぐらいかな? まあつまり、これからが本番に入るから堪忍してちょ。

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