第182話 かくして世界は逆転する その一

「……これで一応は一段落か」


 緊急性の高い連絡はこれで捌き終えた。あの馬鹿との話し合いもなんとか乗り越えた。できる限りのことはやった。

 ああ、頭が痛い。自然と目頭に手が伸びる。クソッタレめ。何でこんなことになった。

 いや、分かってる。すべて……とまでは言わんが、こちら側にもかなりの落ち度がある。あそこまで短絡的な死にたがりがいるとは思わなかった。

 凶行に踏み切るハードルというものは、各々で違う。それは理解しているさ。なにせこちとら警察だ。いまでこそあの馬鹿のお守役を仰せつかっているが、それ以前には大量の犯罪を扱っているのだ。

 だから知っていた。知っていたとも。失うモノがなくなった人間ほど、自棄になった時は厄介だと。世間で言うところの『無敵の人』は、本当に無敵なのだと。

 だがしかし、だがしかしだ! 仮にもテレビ局で働いてた人間が、こんな短期間で無敵の人化するなんて想像できるか!! ふざけるな馬鹿野郎!!

 事情聴取してみたらなんだ!? 解雇くらって決まってた婚約が破談になって、残ったのは無理矢理組まされた家のローンだけだと!?

 ああ、確かにそりゃ人生お先真っ暗だ! 一応同情はしてやるよ!! ……んなこと予想できるかボケがぁ!! こっちは足元まで燃え盛って明るいなんてもんじゃねぇんだよタコ!!


「ああ、思い出したらまた腹立ってきた。毎度毎度メディアの連中は……!!」


 事件を何処かから嗅ぎ付けてくる馬鹿。捜査情報を掠め取ろうとしてくる馬鹿。報道規制を無視する馬鹿。他にもいろいろ。挙げていけばキリがない。馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿、馬鹿ばっかりだ。

 俺自身もそうだが、警察としても何度も連中に煮え湯を飲まされてきた。アレコレ規制しようとすれば、政治家やら活動家やらをけしかけてきて逃げ回る。小賢しいったらありゃしない。

 その結果がコレだ。馬鹿を付け上がらせたまま、放置してきてしまったツケ。それが最悪の形で火を吹いた。

 おかげで国が揺れた。あと一歩、それこそ色羽仁さんがいなかったら本気で終わってたかもしれない。……膝枕で救われる国とかなんの冗談だ。

 だが、結果として助かったのは事実である。ギリギリのギリギリでデッドラインは越えなかったし、そこからどうにか持ち直すこともできた。

 ベストとは口が裂けても言えないが、ベターの範囲には小指の先が引っ掛かっているはずだ。


「……とは言え、だ」


 それでも代償は大きかった。最低限の条件はなんとか添えることはできたが、切る必要のなかった空手形を切る羽目になった点はあまりに痛い。

 アイツはこの世のビックリ箱を融合させたような存在だ。中身にナニを溜め込んでいるか分かったもんじゃない。こちらに伝えてない情報などごまんとあるはずだ。

 その一端が今回の件で飛び出てくる。間違いなくだ。空手形を切った時のあの顔。思い出すだけでゾッとする。アレはだ。

 どれだけの騒ぎになるか、まるで想像付かない。これからのことを考えると、憂鬱で仕方がない。


「せめてもの救いは、増長した馬鹿どもを叩き潰せることか……」


 それは確定したデスマーチの中で、唯一と言っていい娯楽だ。これまで飲まされてきた煮え湯の分を、億倍にして返してやれる。

 もはやメディアの人間に先はない。関係者の末路は決まり、これまで極めてきた栄華は終わる運命だ。どう足掻こうが逃れる術は存在しない。

 それだけ奴らはやらかした。手を貸していた連中も離れるだろう。むしろ我先にと逃げ出すはずだ。……まあ、大半は逃げられないだろうが。いや、逃がさない。絶対に。

 すでに奴らは『内憂』と化した。国を傾けかけ……傾けた責任は取らさねばならない。立場ある人間すべての首をすげ替えた上で、業界そのものを一新させる。それでようやくスタートラインだ。


「すべてはあの祟り神を鎮めるために──ん?」


 ポケットにしまっていたスマホが揺れる。……今後についての絵図を考えていたのだが、どうやらその作業は一旦中止しなければならないようだ。

 揺れたスマホは、この仕事のためにわざわざ用意した専用端末。VTuber山主ボタンの動向を確認するためだけに特化させたものなのだから。


「……マジかよ。早すぎんだろ」


 画面を見れば、そこには動画の告知ツイートが。内容は、いまから十分後にプレミアム配信を行うというもの。

 駄目だ。マジで頭が痛くなってきた。話し合いを終えてからそんな時間は経ってねぇんだぞ!? それなのにもう決行するってか!? いや、そもそも内容決めんのだって早すぎんだよ!! それつまり厄ネタ大量に抱えてるってことじゃねぇか!? ……知ってたけどな!!


「クソッ。仕方ねぇ……!」


 とりあえず、関係各所に連絡だ! そんで追加の対策チームの設置と、情報収集の指示。あと世論操作の人員もか……!!

 ああっ、時計の音が鬱陶しい! カチカチカチカチ、嫌でも時間の経過ってもんを意識させやがる! そもそも十分とか短すぎんだよ! もう始まるじゃねぇか!

 とりあえず、指示その他諸々は一旦後回しだ! これから流れる動画に集中して、必要な情報を最速で頭に刻み込め!






ーーー

あとがき

アホみたいに分量増えたので二つに分けました。

一応確認はしてるのですが、カットアンドペーストで分けたので、なんか変なところあるかも?


ところでコレ、今日続き出すべき? それとも年末最後の記念に出すべき? なお私としてはどっちでも良い。

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