第168話 敵は強大(自業自得)
「まずは認識の擦り合わせだ。お前さん、テレビのことをどう思ってる?」
「コンプラのせいかいまの番組ってつまんねぇよなって」
「そういうこと訊いてんじゃねぇよ」
「あと最近保護猫と衝撃映像系多すぎ。ほぼ毎日似たような内容やってる」
「だからそうじゃねぇよ! 誰が愚痴を語れって言った!? ……まあ、言いたいことは分かるけどよ」
「草。でもやっぱりそう思うよな」
笑える番組ねぇかなーって、ゴールデンタイムにチャンネル回したりするんだけどさ。マジで最近似たような番組ばっかりなのよ。酷い時は二日連続で芸人が家で保護猫の世話してるし。しかも違う番組で。
そんで結局見たいもんがなくて、サブスクとか配信サイトに流れちまうんだよなぁ。昔のバラエティ番組とか、ギャグセン高くて爆笑できたのに……。
「これも時代なのかねぇ……」
「脱線するから話を戻すぞ。俺が言いたかったのは、テレビってのは現代の洗脳装置だってことだ」
「大丈夫? それ陰謀論とか言われない?」
「比喩に決まってんだろタコ。日本の歴史を振り返れば分かるだろ? いまの時代は、世論はテレビで作られるんだよ。その一つ前はラジオ、新聞や雑誌。つまるところ、情報を発信できる立場にいる奴らが世間ってものを誘導できる」
「ほーん?」
まあ、言いたいことは分かる。与える側が圧倒的に有利って話だ。別に情報に限った話でもない。
「でもそれなら、いまはネットの時代じゃねぇの? 誰もが手軽に情報を発信できる。手元にある板切れ一枚で。テレビなんかよりよっぽど手軽だと思うけど? 実際、最近はテレビも苦戦してるみたいだし?」
「確かに全盛期よりは落ちたが、まだテレビの時代だな。ネットの中心は若い世代だ。そんでいまは少子化。若者よりも上の世代の方が単純に母数が多い」
「中年以上もネットは使ってると思うけど?」
「それでも数で負けてる。あと、テレビと違ってネットはコミュニティが乱立してるからな。あっちのSNSで注目されている話題が、こっちのSNSじゃ全然盛り上がってない。そういうのザラにあんだろ? これじゃあ世論はできねぇよ」
「テレビも似たようなもんだと思うけどなー? テレビ局なんて何個かあるんだから」
「ところがどっこい。テレビ、てかメディアは情報を整理し発信する側であって、自分たちでアレコレ調べてるわけじゃねぇ。扱う内容はほぼ同じだ。文面とアナウンサーが違うだけだよ」
「あー……」
言われてみれば確かに。マスコミって記者会見聞いてる側だしな。情報源が同じだから、基本は同じ内容になるのか。
「だからテレビは強いんだ。ネットと違って、同じ方向に視聴者を誘導できる。それでいて情報源として扱っている人間も多いんだから、テレビが世論を作るってのも納得だろ? このへんは選挙とか見てるとかなり顕著だぞ」
「へー。んで、結局何が言いたいわけ?」
「アレだ。テレビを牛耳ってるマスコミ、そしてマスコミを牛耳ってる連中には、よほどの大物じゃないと勝てねぇってことだ」
「俺はそのよほどの大物だと思うんだけど?」
「だからこっちは困ってんだよクソッタレ……」
まるで俺が勝つのを嫌がってるかのような言い草だな。
「マスコミってのは、この国においては絶対的な強者だ。政界以上の伏魔殿ってのは冗談でもなんでもねぇ。絶頂期は政権交代だって実現させたその権力は、衰えが見えてもなお強大だ」
「でも俺のが強いべ?」
「でもマスコミ側からすれば勝てる相手だ。そう思われてるのが問題だ」
「えー……」
いや普通は思わねぇだろ。俺の公式プロフィール、客観的に見て相当ヤバいぞ? 人類最強、大富豪、アメリカ救った英雄の欲張りセットだぞ? 武力、財力、政治力の三倍役満なんだが?
「簡単に言えば驕ってんだよ。驕るだけの実績がある。政治家、芸能人、大企業の役員。社会的に影響力のある人間を、奴らは情報でもって潰してきた。もちろん、一般人だって同じだ。ま、表には出てこないがな」
「サラッと怖いこと言っていくぅ」
「同じ穴の狢が茶化すな。……んでだ、我世の春を満喫してる連中が、突然それ以上の力でぶん殴られたらどうなると思うよ?」
「蜂の巣をつついたような大騒ぎ?」
「そういうこった。正直、振り回される側としては想像したくねぇよ」
ほーん?
「で、それって俺の不快感より優先されることなん?」
「板挟みって話なんだわ。こっちはお国が混乱しないようお前さんの手下やってんのに、なんで国内が荒れるような大闘争をせにゃならんのだってな」
「そんなに荒れそうなのか」
「ああ。元々マスコミってのは政府の敵だ。正確には、現与党だがな」
「それは日々のニュース見てたら分かる。大変よね、政治家って」
「だったらテメェももうちょい大人しくしてくれねぇかなぁ……!?」
「や」
嫌。
「てか、何でマスコミってあんなに政府を敵視してるわけ?」
「端的に言うと金」
「金」
「そ。連中からすると、政府は叩くと金になるんだよ。与野党で分類すれば野党側だしな。メイン顧客のニーズに応えつつ、仕事してる感を出しつつ、自分たちに都合の悪いアレコレから世間の目を逸らさせる。ま、大体そんなところだ」
「やっぱり潰しておくべきでは? これを機にやっちゃう?」
聞いてる限りだと、百害あって一利なしな感じじゃない? 害しかなくない? 処す? 処す?
「やめろ馬鹿野郎。そういう背景があるから、奴らは政府からの干渉を極度に嫌がるんだよ。圧力を掛けられたとなれば、それはもう過剰に反応するぞ? コツコツ溜め込んだネタを吐き出して、全力で殴り返しにくるはずだ」
「なら何人か物理的に消しちまえば? 消されると分かったら無茶もできねぇだろ」
「んなわけ。その場合はマトモな連中も巻き込んで、報道魂を燃え上がらせた正義のジャーナリスト集団が生まれるだけだ。見せしめはまあ逆効果だわな」
「先に喧嘩売っておいて被害者面とか、ちょっと面の皮が厚すぎやしないかー?」
なーにが正義とジャーナリスト集団だ。他人様のプライバシーを踏み躙って飯食ってる奴らが大半のカス共がよぉ。
「だーかーらー。向こうは喧嘩売ったつもりなんてねぇんだよ。連中からすれば、交渉に繋げるための布石でしかないんだ。だから殴り返されたんじゃなくて、突然与党側が殴りつけてきたとしか思わねぇの。となれば、どうなると思う? すわ言論弾圧かって、業界全体が一致団結して徹底抗戦モードだよ」
「うーんカス」
「他人事みたいに言ってるが、お前だって焼かれるぞ? 奴らはお前がことの中心だって必ず嗅ぎつけるし、そうなったらなり振り構わずお前のことを潰しにくる。潰せると思ってるからな」
「それでどうにかできると思ってるのならお笑い種だ」
「まあ、お前は大丈夫だろうな。……だが、お前の所属する事務所と同僚は違う。お前は無理でも、周りは潰せる。その力がマスコミにはある」
「いやいやいや。そういうのを阻止するのが手足の役目だと思うんだけど、どうなん?」
「もちろん、やるとなれば全力は尽くすさ。だが連中はインフラの一つを握ってんだ。こと情報分野に限って言えば、俺たちは後手に回らざるを得ない。すべてのテレビ局、新聞社、出版社を最速かつ同時に制圧でもしない限り、パーフェクトゲームは不可能だ」
そんでそれを実現したところで、ネットあたりで情報が拡散されて世論が敵に回ると。つまりどうやったってノーダメ勝利は不可能と。
「それにお前さんには悪いが、こっち側の人間にもマスコミに弱味を握られてる奴や、マスコミのお仲間側の奴もいる。特に政治家はな。……白黒で語れる世界じゃねぇから、こっちはこっちでしがらみってのがある。最大のパフォーマンスを発揮するのは難しい」
「ふーん?」
「だから今回ばかりは安易に動けん。それでもやれと言うのなら従うが……多少なりともダメージを受けるのは覚悟してもらうぞ」
なーるーほーどーねー。まあ、玉木さんの言いたいことは分かった。つまるところ、俺がどの部分で妥協するかを訊いてるわけだ。
苛立ち優先してデンジラスを巻き込むか、デンジラスを優先して鉾を収めるか。あと『安易に』って言ってるから、時間も妥協項目に入ってるかな? 慎重に進めて良いのなら、俺の要望にできる限り沿った結果を持ってきてやる的な。
もちろん、強権発動して完全勝利を目指せって命令しても良いんだが……。玉木さんが相手だし、なかなかに悩ましいところ。
これが下心というか、打算的な気配を滲ませてたら話もまた変わるのだが、そうではないんだよなぁ。この人から感じるのは、精々が『面倒なことはしたくない』とか、『仕事を増やしてくれるな』程度の感情だ。
避けているのは俺による表舞台での武力行使。もっといえば、警察や自衛隊のような治安維持組織との衝突と、彼らが敗北することによる社会的な混乱。
それさえ回避できるのなら、玉木さん的にはどうでも良いのだろう。そしてそれは、親夜桜勢力と呼ばれた者たちの総意と見て良い。
「嫌らしいことしてくれるなー。これ、俺が表舞台で暴れないこと前提の交渉じゃんか。しかも説明するふりして択を押し付けてくるとか、玉木さんもやってくれる」
「当たり前だ。こうでもしねぇとお前は無軌道に動きまくるだろ。こっちは長年の経験で学んでんだよ」
「これだから狸はやーねー」
「うるせぇぞ大怪獣。こっちは焼け野原にされないよう必死なんだよ。てか、これに関しては表舞台に立ったお前の自業自得だろうが」
「それはそう」
VTuberやってなかったらこんなことにはなってなかったし、喧嘩売られたら普通に闇討ちしてたし、させてたよね。
その選択肢を消したのは俺。わざわざ目立って、自分からしがらみをこさえた俺が悪いと言われたら頷くしかない。
だからいまの状況も納得はしている。VTuberを続ける気がある時点で、大っぴらでの襲撃チラつかせて玉木さんを脅迫することはできない。やっても効果は薄い。
だから呑気にこっちに択を押し付けてこれるわけだ。向こうからすれば、最悪の事態はまず起きないのだから焦る必要はない。内心で面倒に思ってるぐらい。
やれと言われたらやるし、やらないと言われたらやらない。念のためご機嫌取りのプランを考えながら、腕を組んでこっちに決定権を投げていられると。
「腹立つから文句だけ言わせてくんない?」
「受け付けん。んで、どうする?」
「殴り返すのは絶対。でも方法はちょっと考えたいかなー。あんまり事務所や先輩たちに迷惑掛けるわけにはいかんし」
「そうか。んじゃ、何かやる時は事前に連絡だけしてくれや」
「あいよー」
さてさて。どうっすかねぇ。
ーーー
あとがき
前回のあとがきで書いといてアレだけど、冒頭部分だけは私の本音混じってる。保護猫多くない?
ちなみにマスコミが主人公に手を出した理由はシンプル。
手を出した自覚がない。だから殴り返されたら被害者意識MAXで反撃してきます。度し難いね。
ここでざっくり分かりやすいスタンス。
主人公→マスコミにはピキってる。ただ自分でこさえたしがらみのせいで即断即決とはいかず。でも絶対殴る
マスコミ→え、自分何かしました?
玉木さん→最悪起きないし半分他人事。んで、どうすんの?
ちなみに主人公にはアメリカを頼るという鬼札があるけど、現状気付いてない。そんで気付いてないってことは、移住とかそういう手段は取る気がないという証拠。
玉木さんは玉木さんでアメリカの存在には気付いてるけど、主人公が忘れてる時点で恐るるに足らずの精神。それはそれとして藪蛇なので指摘はしない。
それはそうと、明日はWeb版コミカライズの更新です。みんな見てね。
推しにささげるダンジョングルメ〜最強探索者VTuberになる〜 モノクロウサギ @monokurousasan
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