第167話 夜桜勢力の解説

「──ようクソッタレ。また性懲りもなく厄介事を持ってきやがったな、この野郎」

「今回ばかりは俺もなんもしてないんだよなぁ」


 母さんから連絡のあった翌日。いつものように事情を伝えたところ、すっ飛んできた玉木さんと話し合いをすることになった。


「んで、どうなってんのか分かったの?」

「……ああ。だが大部分が推測だ。流石に昨日の今日じゃ限界がある」

「はいはい。とりあえず、説明よろしく」


 ある程度分かればそれで良いよ。重要なのは背景じゃない。『何が起こっているのか』だ。そこさえ分かれば、動き方は大体決まる。


「まず大前提として、マスコミにお前の個人情報、『夜桜猪王』の存在が嗅ぎ付けられた。実家に取材の申し込みが入ってたことから、それは間違いないだろう」

「へぇ? あの取材云々はガチなんだ?」

「ああ。ツテを使って探りを入れた。企画含めて裏も取れたよ」

「企画は偶然? それとも故意?」

「電話番号使ってる時点で故意だろうよ。企画もそのためにでっち上げたと判断して良い」

「……さいで。うちを嗅ぎ付けたルートは?」

「それについては分からん。ただ、お前の同級生から漏れたのは確かだろうな。流石に目立ちすぎだ」

「んなこと言われてもねぇ?」


 好きでやってることだからなぁ。それに犯罪ってわけでもないんだから、そんな風に批難の目を向けられても困りますわ。


「そんで、狙いは何だと思う?」

「十中八九、お前をテレビに引き摺り出したいんだろ。いや、この場合は『山主ボタン』をか。知名度的に」

「うちの実家にインタビューしたところで、俺が出るわけなんかないのにね?」

「やっこさんはそう思ってないんだろうよ。実家を足がかりにしてお前と繋がる。それさえできれば、こっちのもんだと思ってんだろうさ」

「HAHAHA。……舐めてるくれるじゃねぇの」


 実家にちょっかいを掛けるとか、普通は宣戦布告と大差ないと思うんだが。そんなことも分からないのかね? 

 それとも、危害を加えてないから大丈夫と判断したか? 外堀を埋めるために利用しようとしただけ的な。……アホか。影をチラつかせた時点でアウトだろうよ。

 

「そんなにマスコミは俺がほしいか」

「そりゃそうだろ。お前の知名度はいまや世界一だ。メジャーリーガーやハリウッドスターすら越える。マスコミからしたら垂涎の獲物だよ。それでいてお前さん、テレビ出演とかは全部断ってんだろ?」

「まあの。俺はVTuberだから。基本はネットの存在よ。受けても雑誌取材だし、それもサブカル系のとこ以外は断ってる」

「なら余計にだな。マスコミ、特に大手の連中からすれば面白くねぇだろうさ。扱えれば数字は確実。にも関わらず、自分たちの誘いはシャットアウト。それでいて業界の中じゃ傍流の連中の取材だけは受けるんだから、腸が煮えくり返ってても不思議じゃない」

「くっだらねぇ話だなぁオイ」


 チンケなプライドってやつなのかねぇ? その結果が遠回しな実家凸なのだから、やられた側としては堪ったもんじゃねぇが。


「んで、この舐めたことした馬鹿どもだけどさ。どうなん? 潰せる?」

「……難しいな」

「へぇ? てっきり任せろって言うかと思ったんだけど」

「仕方ねぇだろ。こればかりは相手が悪い。個人ならどうとでもなるが、今回はマスコミの大半が敵だ。……本人たちは敵対してるつもりはないだろうがな」

「無邪気が許されるのは幼児までだろうに」


 こんなガッツリ喧嘩売っておいて? それで敵対してるつもりがないってんなら、お花畑もすぎると思うんだが。


「とりあえず、お前さんにも分かりやすく説明してやる。とりあえず聞け」

「はいはい」

「まずお前を基点に、この国の政治勢力は二つに分かれる。すなわち、お前を『舐めてる奴ら』と『舐めてない奴ら』だ」

「草」


 表現がヤンキー漫画のそれなんよ。いやヤンキー漫画だってもうちょい頭使ってんぞ。それを警察のキャリア組である玉木さんが言ってるんだから、もう笑うっきゃねぇわ。


「お前に合わせてやってんだが?」

「自分の語彙力のなさを擦り付けないでくださいます?」

「殺すぞクソガキ」


 いっつも似たような罵声でレスバ〆るんだからー。


「話を戻すぞ。まず舐めてない奴ら、つまるところ【親夜桜勢力】だな。それは現内閣であり、現与党に所属する国会議員の大半。そして警察と自衛隊の上層部。さらにお前の恩恵を受けている省庁、及び企業の役員たちだ」

「こうして挙げられると結構多いのな」

「当たり前だ。お前の影響力はそれだけ高い。それこそ、敵に回った時のことを考えたくないぐらいにはな。だから俺たちは、お前の要望を全面的に叶える方針を取っている。表向きはともかく、裏では非合法の活動すら辞さない覚悟だ」

「改めて聞くとひっでぇや」

「言ってろ。お前さんに『武力』というカードを切らせないためなら、俺らは基本的になんだってする。王に仕える臣下のように、手足となって働いてやるさ」

「扱いが完全に魔王なんだよなぁ」


 魔王というか……暴君? 何かあれば武力行使を辞さないと思われてるわけでしょ? 酷くない? 俺だって一般人虐殺とかはしないよ? 関係者は場合によってはしばくかもだけど。


「対して舐めてる連中。反……という若干違うんだが、まあ対比するために【反夜桜勢力】と呼んでおく。ここにマスコミや野党の大半、あとお前と関わりのない一部の与党議員や官僚、企業の役員が入る」

「若干歯切れが悪いのな」

「別にお前と敵対してるわけではないからな。向こうだって、お前にちょっかい掛けたらやべぇってことは分かってる。ただ連中は想定が甘い。お前のアウトローぶりを理解できてない」

「アウトローて」

「実際そうだろうが。俺たちはずっとお前に振り回されてきた。だからお前の精神性を知っている。だが連中はそれを知らん。なにせお前の存在は、ついこの間までトップシークレットだったんだ。お前がVTuberなんてもんを始めなければ、いまも連中はお前のことを都市伝説の類いだと思ってただろうさ」

「ほーん?」


 俺ってそんな扱いだったのか。全然知らんかった。まあ、俺に影響が出ない裏の方でバチバチやってたんだろうさ。


「だから連中は、お前のことを勘違いしている。なにせ表舞台に立ってからのことしか知らないんだ。……調査で上がってくる評価を教えてやろうか? 大半が『身内認定した相手には特に甘い』か、『口も態度も悪いが、真に困っている相手は見捨てられないお人好し』とかだ。笑えてくるぞ?」

「草。え、前者はともかく、後者は一周まわって寒いんだけど。何でそうなってんの?」

「自分の所業を振り返るんだな。同業者を無償で助けた件。アメリカを救った件。この二つだけでも、外野はまあ上等な評価をくだすだろうさ」

「配信見てねぇだろそいつら。客観的に見てカスだぞ俺」

「連中がそんなん見るわけねぇだろ。無駄に権力だけある、いい歳したジジババが大半だぞ? VTuberって文化そのものも大して理解してねぇよ」

「にしてもだろ」

「そういう奴らの集まりなんだよ、反夜桜勢力はな。上っ面だけで理解した気になって、自分の尺度でしかものを考えられない惨めな大人の集まりだ」

「ボロクソ言うねぇ」

「他に評価のしようがねぇ。お前のことを正しく理解していれば、選択肢なんか二択しかないんだよ。お前の手足となってあくせく働くか、絶対に関わらないよう距離を取るか。それができてない時点で全員カスだ」


 ガンギマリじゃん。怖いわー。何がそこまでさせるんだろうね? 間違いなく危機感なんだろうけど。


「……若干愚痴が混じったな。んで、マスコミだが、奴らは反夜桜勢力の筆頭みたいなもんだ。それぐらい奴らはお前のことを舐めている」

「具体的には?」

「上手くやれば、お前のことも社会的に潰せると思ってる。お前や周りの人間に延々と張り付いて、スキャンダルをすっぱ抜いてな。そんで世論を作って圧を掛ける。奴らの常套手段だ。特にいまのお前はVTuber、人気商売だからな。このあたりの圧力は覿面に効くと思ってるだろうよ」

「……それやったら戦争じゃね?」

「ああ。流石に実行はしないだろう。そもそも奴らの目的は、お前を自分たちのフィールドに引っ張って数字に変えることだ。基本は懐柔策で動く」

「じゃあ気にせんでええな」

「まさか。お前だって薄々察してるだろう。懐柔策なんて最初だけだ。拒否し続ければ、恐らく匂わせぐらいはしてくるぞ? それでも揺らがなきゃ実行してくる」

「カスかな?」

「そういう次元の話じゃねぇよ。あそこは常識が違うんだ。何人もの人間が社会的に破滅させられた、政界以上の伏魔殿だぞ? あそこの住人からすれば、こんなの挨拶みたいなもんさ」


 はぁ……。いろいろと評判の悪い業界だとは聞いてたけど、そんなにか。ようやるとしか言えんわ。


「内輪ノリが許されるのは、内輪だからだってことも分からんのかね」

「それが分かってたら、お前の実家にちょっかいなんか掛けるかよ。喧嘩を売ったなんて微塵も思ってねぇぞ? 文句を言ったところで、素知らぬ顔ですっとぼけられるのがオチだ」

「もう面倒だから全部潰せよ」

「軽く言うな馬鹿。それができたら苦労しねぇよ。だったらお前がテレビに出ろ。そうすりゃ全部丸く収まるだろうが」

「こんな舐めた真似されて俺が折れるとでもー?」

「ああっ、知ってたよ! お前がそういうやつだってなぁ!? クソッタレのマスコミどもめ! 関係者は全員死んじまえ!!」

「なら見せしめに一人ぐらい殺ってやろうか?」

「やめろ馬鹿野郎! それやったらマジで戦争だぞ!? アイツら殴られ慣れてねぇから面倒なんだよ! そのあたりも含めて説明してやるから、一旦黙って聞いてろ!」


 なんだ。まだ続くんか。






ーーー

あとがき

念のため言っておきますが、この物語はフィクションです。現実と混同するようなことはやめましょう。

また、描写から私の心情や思想を推測する行為もNGです。

物語は物語として楽しみましょう。



それはそうと、なんかコンプティークが発売されてましたね。私もすっかり忘れてました。……時間が経つのは早いぜ。

今回掲載されている話は、確かカクヨムにはないエピソードだったはずなので、是非とも皆様お買い求めください。

あとコミカライズ版のWeb掲載も更新されておりますので、まだ見てないという方はそちらもどうぞ。

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