第165話 男たちの宴 その六

──正直言って、舐めていた。カードゲーマー、その中でも古参やマニアと呼ばれるであろう人たちの熱量を。


「……あ、見てくださいコレ! めっちゃ懐かしくないですか!?」

「出たぁぁぁ! うわマジかなっつ! 俺このカード使ってたよ!」

「たまに道に落ちてた」

「カードは拾った」

「冗談抜きで道に落ちてたりしますからね。昔って」


 いやー、本当にもう出るわ出るわカードにまつわるエピソードが。レアどころかノーマル……タイトル的にコモンか? ともかく、あらゆるカードに最低一つはコメントが付くんだからすげぇや。

 開封したBOXは二つ。いまは三箱の半ばぐらい。それでも三時間近く経っている。つまりBOX一つに一時間は掛かっている計算だ。

 そりゃあね? 確かに珍しいBOXだよ? 俺はそのへんよく分かってないけど、高値が付いているってことは、それに相応しい希少性があるってことでしょ?

 だから盛り上がるのは分かる。それを悪いとも思ってはいない。知らない話を聞けて楽しいし、この三人のオタトークを生で摂取できて感動すらしている。

 ただそれはそれとしてなっげぇ。予定より全然遅れてる。てか聞いてた話と違う。七箱で四時間って言ってたじゃん。用意したの全部剥いたら六時間みたいに言ってたから、ちょっと形式変えたんですよ?

 もう最初の見立て時点でガバガバすぎる。このペースだと用意してたの全部剥いたら一日仕事だろうし、七箱に絞っても七、八時間は掛かるだろ。流石にアカンて。


「あの、皆さん」

「はい。なんでしょう?」

「うん?」

「なーにー?」

「多分なんですけど、そろそろガチで巻かないとヤバいっす。こっちのスタジオのこと知らないんでアレですけど」

「「「あ」」」


 やっぱり時間のこと頭から抜け落ちてたなこの三人!? ちょっと前からスタッフさんが時計気にしだしてたけど、カード剥くのに夢中で全然気付いてなかったろ!?

 いやね? 俺だって普通のコラボだったら時間なんて気にしないのよ? でもこれオフコラボなのよ。しかもばーちかる側が用意したスタジオ使ってるの。

 つまりスタジオに制限時間があるんですねー。俺所有のスタジオだったらそれも気にする必要もなかったんだけど、そうじゃないから内心で『これマズイのでは?』ってなってたわけなんですねー。


「え、いまどれぐらい……大体三時間!? もう三時間も経ってるの!? まだ三箱しか開けてないのに!?」

「え、待ってください。今日ってあと何時までここ使えます? ……あ、あと一時間? どんなに粘っても一時間半!? ハッハッハッハッ!!」

「あ、すいません延長三時間お願いします。ついでにポテトとドリンク」

「いやここカラオケじゃねぇから! てか三時間は面の皮厚すぎだろ! 上限二倍じゃねぇか!!」


:草

:草

:盛り上がってたから仕方ないね

:草

:時間忘れちゃうのは分かる

:草

:三時間は無茶言い過ぎw

:草

:草

:草

:めっちゃ熱心に話してたからな……

:楽しい時は一瞬


 残り時間は限界まで粘って一時間半か。なるほど絶妙な時間だ。スタッフさんたちが『そろそろ口出しするか……?』と悩みだすのも分かる。

 実際、普通の配信だったらまだまだ時間の余裕はあるからね。この配信がおかしいだけ。なんで三時間もあって折り返しなんだペースどうなってんだ。


「めっちゃ心苦しいんですけど、このペースだともう全部剥くのは無理かなって。巻いて残りの三箱だけ剥くより、予定すっ飛ばして大トリのレジェンダリーをじっくり堪能するべきかなと愚考する次第であります」

「いやもうマジでゴメン。アホみたいなミスした……」

「申し訳ないです。夢中になりすぎました……」

「私らってライバー活動何年目だっけ……?」

「まあ、俺も想定の甘い部分もあったんでお互い様ではあるんですが」


 これはガチ。まさかここまでスケジュールが押すとは思わなかった。絞って七箱にしたけど、それでも普通に無茶だったんだなって思った。一箱に大体一時間が掛かるなんてね。マジでカードゲーマーの情熱舐めてた。


「それで残りのBOXはどうしましょう?」

「また次のコラボの時に剥くとか?」

「んー、それはそれで構わないんですが……」


 ちょっとインパクトは弱いよなって思わなくもない。同じ企画を繰り返すことになるのは、まあそういうものだとして。やっぱり大トリがなくなるのが痛いよね。

 レジェンダリー以上のBOXが入手できれば良いんだけど、そうそう上手くいかないだろうし。探したから分かるんだけど、高いBOXって本当にねぇのよ。次も同レベルの大トリを用意できる自信がない。

 沙界さんたちは気にしないだろうけど、個人的には『うーん』って感じ。だから他の活用方も考えたいところ。


「……いっそのこと、何かしらのWTG絡みの企画考えて、その景品にしちゃおうかなぁ」

「マジ!? 大会とかやるの!?」

「いや、大会みたいな本格的な感じじゃなくて。そもそも俺、WTGそんなに詳しくないですし」


 プレイできないのに大会ってのは、さすがにアレな気がするのよね。何度も言うけど俺ニワカだし。大会に参加するなら別にだけど、企画するとなるとガチ勢あたりに怒られそう。


「あと、ああいう大会って許可とかいるんじゃないですか? 運営に携わったことないんで、ただのイメージですけど」

「そうですね。我々も完全な運営サイドを務めたことはないのでアレですけど、いろいろと手続きが必要なのは確かですね」

「規模次第ではあるけどね。身内で軽くやるなら多分そんな気にしないで大丈夫だし、大々的にやるなら事務所の方に頼むべきかなって」

「でも山主はなー。個人だろうが、普通に大規模大会もできそうだからなー。その時は私も呼んでよ」

「まあ、考えときますわ」


:山主主催の大会とか凄そう

:個人的には是非やってほしい

:草

:絶対に豪華賞品が付いてくるやつじゃん

:絶対やって

:草

:山主がやるって言えば多分通るぞ

:草

:WTGって本社アメリカだしな

:エグいレベルの規模になりそう

:WTG本社の方が揉み手で話をもってくるやつ

:世界大会より規模がデカくなりそう


 クイズゲーム的な感じで済ませようかなぁと思ってたんだけど、妙な流れになってきたな。

 いやまあ、やろうと思えばガチめな大会もできるだろうけどさ。それはそれとして全然想像つかんのよね。どうなんのかマジで分からん。

 てか、WTGやってるライバーさんってどんだけいるの? 俺が中心になって企画するとなると、必然的にVTuberメインになるわけだし。そもそも大会になるほど人集まるか?

 他のタイトルならともかく、WTGだしなぁ。世界的にはトップの知名度だろうけど、日本が舞台となるとマイナー寄りになってしまうわけで。……というか、マニアより?

 まあ、ともかく。本格的な大会はちと保留かなって。周り含めた諸々の反応次第?


「それはそれとして、です。時間もあんまりないですし、そろそろレジェンダリーを剥いていきましょう」

「そうですね。確かにその方が良いかもです」

「うわマジかぁ。ついにレジェンダリーを生で見れるのか……」

「これ一時間半で終わるぅ? いままでのやつですら一時間ぐらい掛かってたのに。レジェンダリーとかもっと掛かるでしょ」

「そこはもう、巻いてください」

「嫌だ!」

「巻いてください?」

「嘘だ!」

「なにがです?」


 いきなりネットミームをぶち込んでこないでください。あともうちょい会話が成立する感じで投げてくれるとですね。


「えーと、話を戻しますよ? ──てなわけで、こちらがレジェンダリーでございます」

「サラッと出しますね山主さん!?」

「うわぁぁぁぁっ!? マジだ! マジでレジェンダリーだ!」

「やっばぁ。すっごいこれ。うわ画像で見たやつと本当に同じだぁ……」

「テンションが凄い」


 まだモノを出しただけなんだけどね。それだけでそんな上がる? ……いや上がるか。これまでの反応を見る限り。

 それはそうと、写真をパシャリ。SNSに投げつつ、話を進める。


「えー、こんな風になってるんだ。ケース入ってんじゃん」

「やはり保護のためなんでしょうね。完全防備じゃないですか」

「ちょっとじっくり見て良い? 開ける前に」

「巻いてください」

「嫌だ!」

「山主さん。さすがにそれは無体がすぎます」

「ゴメンだけど山主君。これはネタ抜きで俺たちも見たい」

「ア、ハイ」


 これ制限時間までに終わるかぁ? ケースの段階で十五分ぐらい語れそうな雰囲気だけど。


「……これ凄くない?」

「うわっ、こここうなってんだ。あんま全面の画像ないから知らんかった」

「これ開けるんですか……。ヤバいですね。ちょっとマジでテンション上がってきたかもしれない」


──結局全部開封するのに一時間二十五分ぐらい掛かった。エンディングトークを頑張って五分で終わらせた。






ーーー

あとがき


大トリとか言いつつ端折る邪悪。テンポとかあるから許してクレメンス。まあリアクションは想像できるだろうし……ね?

次からアレでコレでそんな感じの雰囲気にいくよ。カードネタ分からない人はお待たせしました。


それはそうと、配布石と無料十連合わせて240連ぐらいしてるんですが、シャカが一枚も出ません。助けてください。ダスカしか出ません。そっちは何故か四枚出ました。偏り。

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